第194話 欲しいタイミングでツネノリが来てくれた。
戻ってきた私は血塗れのお父さんに手をかざす。
神如き力で何がなんでも9時間耐えてやる。
ツネノリも最初はパニックになっていたが説明すると冷静さを取り戻して行動に移す。
知らないおばさんに説明とかしていたが私は関わらない。
集中を切らしたら終わりだ。
だがどうしても集中がうまくいかない。
周りに気が散る。
そう言えば小学生の頃に「授業中、落ち着きがない」「一つの事に集中できるようになりましょう」「注意力散漫」と通知表に書かれたことを思い出す。
周りに気が散ったからわかったのはタツキアからおじさん達がわざわざ来てくれた。
そりゃあ目の前で消えたら慌てるよな…
終わったら謝らなきゃ。
ツネノリは剣の修行に励む。休めば良いのに真面目だな。
剣と盾の組み合わせがしっくり来ている感じだ。
所で何時間経ったかな?
まだ3時間くらいかな?
もしかしたら1時間かも知れない。
物凄く辛い。
この人でいられるギリギリのラインを9時間と言うのは半端ない。
金色お父さんめぇ…
大変だぞ。
今、私はどうなっているんだろう?
とても辛い。
そう思っていたらツネノリが話しかけてくれた。
「千歳、「創世の光」と同じだな?
声掛けが必要なんだな?
済まなかった。
もう半分は過ぎた。
残り4時間と少しだぞ。
良くやっている。
自信を持て!」
あ、3時間くらいだと思ったら半分を過ぎていたんだ。
良かった…
「創世の光」と一緒…そうかも。ノレノレお母さんじゃないけど話をしていると落ち着く。
それを察してくれたのかツネノリが次々と話しかけてくれる。
「俺は妹がお前で良かったと思う。
ジョマのおかげで会えた。
また無理な願いかも知れないがお前ならできると信じて言うぞ。
人を辞めずに父さんを助けてくれ」
まったく、人前でそんなに恥ずかしい事をベラベラと…ありがとう。
「ありがとうツネノリ!頑張るよ!!」
きっと声は聞こえない。喋る余力なんかは全部力の維持に使っているからだ。
私は息を整えてお父さんに向かう。
「千歳、聞いているんだな。
俺の声が力になるんだな!!
頑張れ!!
お前になら出来る!!」
お?ツネノリが感じ取ってくれた。
それにしても話しかけて貰えるって言うのは嬉しい。
私は1人じゃない。
そう思ったら今度はおじさんが来た。
「千歳様、本当にありがとうな。
俺は君の啖呵に痺れたよ。
メリシアとツネノリ君の為にあれだけ怒れた君を素晴らしいと思う。
そしてそのおかげで2人は幸せだ。
今は一緒に居ないけど確かに繋がっている。
絆がある。
全部千歳様のおかげだよ。
ありがとう。
酷いかも知れないがもう立派な大人と同じだ。
俺は1人の大人として君がやり遂げる事を信じているからな」
むぅぅぅ、これは責任重大だ。
これが大人のプレッシャー、そう思うとお父さんとお母さんが話し合って私が高校生になるまでツネノリの事やルルお母さんの事を黙っていようと言った意味がよく分かる。
たった数年でもやはり年の差ってあるのかもしれない。
おばさんも私の横に座って沢山話してくれる。
女の子なのにずっと戦っていて凄く偉いって褒めてくれた。
プレイヤーに不人気でもスタッフで分かってくれる人が居ると嬉しい。
頑張るね!!
寒い…外に意識を向けていないのに寒い。
今何時間過ぎただろ?
気を抜くと集中が途切れてしまう。
さっき半分を過ぎたのだから後2時間くらいだといいな。
でもこういう時って自分に甘くなるからまだ3時間とかあるかもしれない。
「寒いのか!?」
ツネノリは私が寒がっている事に気付いてくれてジャケットをかけてくれた。
「俺の服はお前のと一緒で耐寒耐暑の加護があるって東さんが言っていた。
少しでも温めてくれ」
意識を向けて居なくても寒いんだよ?
それなのに上着をかけてくれたらツネノリはシャツだけになっちゃう。
シャツには加護が無いんだよ?
「ダメだよ!服脱いだらツネノリ寒いじゃん!」
私は聞こえないとわかっているのに声を発してしまう。
そうしたら慌てたツネノリの声が聞こえる。
「千歳!後1時間半だもうすぐなんだ!神如き力が強くなっている。
口から言葉にしないでも言葉が出てしまっている!
意識をするんだ!人を捨てるな!!」
嘘!マズい。
私は黙っていても相手に言葉を伝える新しい能力に目覚めていた。
それはツネノリの心配通り神如き力が強まっている。
集中、集中して人のギリギリを攻めなきゃダメだ!!
それにツネノリが言ってくれている後1時間半だって。
ここまでやれたんだから頑張るんだ。
その後もツネノリは話し続けてくれる。
今度は私の好物を聞いている。
ああ、そう言えば私はツネノリに好物を告げていないなぁ…
ツネノリも知らない事に気付いて感謝を告げている。
好物か…セカンドで食べていないな。
これ終わったら食べられるかな?
おじさん達って作れるのかな?和食しか作れなかったら無理だな。
ホットサンド食べたいな。
コーンスープにサラダもつけて貰って食べたいな。
あー、夕飯食べていないんだった。
ツネノリめぇ…お腹減って失敗したら恨むからね。
後どれくらいだろう。
かなり辛い。
何が辛いって力をギリギリで出し続けている事が辛い。
多分、好き勝手に暴走させることの3倍は辛い。
一人なら…お父さんが居なかったら諦めてしまう。
今私はどうなっているんだろう?
疲労とか辛さとかツネノリには見えているのかな?
「千歳、聞こえるか?エテの皆がお前の為に応援をしてくれているぞ!」
あ、見えているんだ。それでツネノリが励ましてくれる。
聞こえる。
色んな人の声が聞こえるよ。
エテっていう場所に居るんだね。
寒い夜中なのにみんな応援してくれているの?
頑張らなきゃ。
何を弱気になったんだろう?
私はお父さんを助けて完全解決する。
その為には私が使い潰れていいじゃないか。
余力なんて残さない!!!
遠くで知らない人の声が聞こえる。
「エテだけじゃありませんよ!神様が千歳様とツネノリ様の勇姿をプレイヤーに見えないようにスタッフにだけ見せてくれています。セカンドガーデンの皆が千歳様を応援しています!!」
「聞こえたが千歳!?お前は1人じゃない。頑張れ!!」
1人じゃない。
何て心強い。
でも皆が見ているの?恥ずかしいなぁ…
そして皆が見ているなら絶対にやり遂げないと格好悪い!!
後何分だろう?
精も魂も尽きてきた。
とりあえず手以外の機能を最低限のレベルまで停止してやる。
頭なんて重たいものを支える力はいらない。
猫背が格好悪いとかそんな余裕もない。
それで1秒でも長くもたせてやる。
ツネノリが限界を察して話しかけてくる。
「後15分だぞ!
頑張ってくれ!
お前なら出来る!
俺は言っただろう?
お前は、千歳は「博愛の巫女」だと。
神々と通じて力を得たお前ならやれる!」
もう!恥ずかしいよ。皆の前でその二つ名は出さないでよ!
そこで聞きなれた声が聞こえる。
「ふふふ、頑張っているわね千歳様」
「ジョマ?」
「ええ、後数分でツネツギ様が身体に入るわ」
「それを教えてくれに来たの?」
「いいえ、隠し勝負よ千歳様」
来た…何となく予感はしていた。
ジョマの事だから更に上を目指すと思ったんだ。
「何をするの?」
「最後の力を振り絞って千歳様の力でお父様をルル様の所に送ってあげなさい。そうしたら最終決戦で優遇してあげるわ」
「手心を加えるの?」
「まさか、盛り上がる上に千歳様達がありがたいと思えるような展開にしてあげるわ」
この状況で更にお父さんをゼロガーデンに飛ばす?
「ふふふ、もう考え始めている。素敵よ千歳様。
でも良いじゃない。失敗しても転送は東がやるつもりでスタンバイしている。千歳様に損はない」
「この状況で同時作業が辛いだけだよ」
「ふふ、そう言いながらちゃんとルル様の次元球を探している。そう言う所が大好きよ千歳様」
「もう、やってやるわよ!やり切る!!見てて!!」
「ええ、頑張って!」
「ジョマ!お父さんが入る時にほんのちょっと時間を遅らせて」
「あら、いいけど辛いわよ?1秒でも早く終わらせたいでしょうに?」
「完全解決の為なの!」
「あら、この状況で何も取りこぼさずに諦めないなんて千歳様は凄いわね。いいわ。千歳様が願えば時は止まる。そして願えばまた動き始める。でも忘れないで。力を抜いたらお父様は死ぬわ」
「おっけー!」
「ふふふ、期待しているわ。博愛の巫女さん」
そう言ってジョマは消える。
ツネノリのバカ。ジョマに聞かれちゃったじゃないか!!
後何分だろう?ヤバい。
気を抜くと頭がぼーっとする。
授業中の居眠りのもっとエゲつない奴と言えばいいだろうか?
寝たら怒られるのに起きていられない。そんな状態だ。
所々でツネノリの声が聞こえてくるから何とかなっているがそれももう難しい。
刺激に慣れたのだろう。
「父さんが千歳になんて2つ名を付けるのかを考えてみた。
あの日きっと千歳は恥ずかしくてプールに逃げこんだ。
なんだろうな?
きっと父さんの事だ。何かの天使と呼んだのだろう?
なら千歳は「博愛の天使」でどうだ?」
!!?
一気に目が覚めた。
今なんて言った?
聞き違い?
疲れていたから聞き間違えたかな?
「博愛の天使」?
嘘でしょ?
でもそれは嘘じゃなかった。
周りの人達が「天使様!」「博愛の天使様」と声援をくれる。
…恥ずかしい。
恥 ず か し い!!
ツネノリ!!
どうしてそう恥ずかしい事を言えるの?
後どれくらいだろう?
お父さんを送る時間を意識するともう限界が近い。
何としても私の手でお父さんを送ってあげたい。
そう思っていたら急に背中が暖かくなった。
何だろう?と思ったらそれはツネノリだった。
「冷たいな千歳。
よく頑張った。後は俺を使え。
お前なら俺を力に変えられる筈だ。
人間の力なんてあっという間に尽きてしまうがお前がやり遂げる為だ。俺を使い潰せ!」
今ばかりは流石兄妹と思った。
欲しいタイミングでツネノリが来てくれた。
しかもツネノリが力を使っていいと言ってくれた。
ギガンスッポンの時ですら遠慮をしたのだが今回は限界が近い。
遠慮なく使わせて貰う。
一瞬でツネノリの力を吸い上げる。
本当に一瞬で吸い取ってしまった。
マズい。
これでは少し心もとない。
また言うが流石兄妹と思った。
「まだだ、俺の命も使え!遠慮をするな!」
ここはお言葉に甘えさせてもらう。
私はツネノリから力強い何か、本当に命なのかもしれないがそう言うものを貰い受ける。
おじさんの「ツネノリ君、3時だ!」と言う声が聞こえて直後にツネノリが「父さん!頼む来てくれ!!!」と叫ぶ。
それに合わせるように目の前にお父さんの姿が見えた。
私は時を止める。
「お父さん!!」
「千歳!」
「ごめん、時を止めたの」
「ああ、ジョマから聞いて知っている。どうした?」
「死なないでね」
「当たり前だろ?俺はお前に群がるバカな男どもをちぎっては投げするんだぞ」
「本当?」
「ああ、だから泣くな」
「え?」
「泣いているぞ」
「そっか、私お父さんに謝りたい事とか聞きたい事とか、聞いてほしい事とか色々あるの!お願いだから死なないでね!!」
「頑張るって。千明やルルからも力を分けて貰ったから大丈夫だ。話はそれだけか?」
「ううん、違うの。ゼロガーデンに帰って一瞬でも余裕があれば王様に「備えて」って伝えて」
「なんだそれは?キヨロスはわかるのか?」
「うん、王様なら大丈夫。お父さん。私とツネノリは後2日頑張るからお父さんも今日一日大変だけど頑張ってね!!」
「ああ、本当に助かったよ。9時間も大変だったな。やり切ってくれて感謝している。
ツネジロウの談判とか東に見せて貰ったが説教ものだ。俺の娘をこんなに追い込みやがってな」
「それもお父さんだよ」
「俺の方が格好いい」
「ふふ、行ってらっしゃい」
「ああ、千歳がルルの所まで俺を送るってジョマが言っていたな。出来るのか?」
「大丈夫。安心してね!!」
ここで時を動かす。
お父さんが身体に重なって髪が黒になり始めた。
「父さん!来てくれたんだね!!千歳!!成功だ!!!」
ツネノリの声が聞こえる。
私は全身に指示を送る。
足よ動け!!
目よ開け!!
立ち上がれ私!!
「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「千歳!!?」
「離れてツネノリ!!あと一個!!
神如き力!!さっき見つけた次元球!その先に居るルルお母さん!!」
私は探していたゼロガーデンのルルお母さんを見つける。
「ルルお母さん!!お父さんをよろしく!!行っけぇぇぇぇ!!!」
そう叫んだ瞬間、光に包まれたお父さんは天に飛んでいく。
光を追う。
次元の壁は越えた。
光はちゃんと目的地に指定した次元球の所に着いた。
「やった。出来た。お父さんをゼロガーデンまで届けたよ…ツネノリ」
「ああ、見ていた。俺は見ていたぞ。お前は凄い!!」
ツネノリ、おじさんとおばさん。それとエテの人達が私の元に駆けよってくれる。
「あ、力が抜けてきた。限界…。急いで言わなきゃ…」
「何だ!どうした!?何でも言ってくれ!!」
「おじさん…私の好物はホットサンド…作れる?」
「あ?…ああ、任せとけ!!」
「コーンスープとサラダ…」
「美味いの作ってやるから安心しろ!!」
よし、これで起きたら食べられる。
「あと一個…、ツネノリ?」
「何だ!?どうした!!?」
「バカ…、恥ずか…しい…か…ら…」
私の意識はそこで途切れた。
アーティファクトの限界ではないから今日中には起きられるのかな?
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