それぞれの章○それぞれの12月19日。8月27日。

第191話 お願いが出来るのなら妹の為に傘と風除けになりそうな物を貸してもらえませんか?

フナシの山でアーティファクト・キャンセラーが発動する直前、俺達を抱き抱えた赤い影。

その影は俺達をどこかへ瞬間移動してくれた。

あれが前に話の出ていた赤メノウなのか?


咄嗟のことで3人とも倒れていて俺は起き上がり周りを見ると見覚えのある景色。

この世界の秘境、桃源郷と父さんが教えてくれたエテに居た。


俺は赤メノウを見ながら声をかける。

「貴方が赤メノウですか?助か…!!?」

倒れ込んでいる赤い影それは…


「ツネジロウ!!?父さん!!!」

俺と千歳を抱いた身体は全身血塗れで赤かっただけでその姿はツネジロウ。

父さんだった。


俺は慌てて回復のアーティファクトを構えたがアーティファクトは使えなかった。

このままでは死んでしまう。


素人が見てもわかるくらいの大怪我だ。

どうすればいい?

千歳はまだ起き上がらない。


頭でも打ったのか?

俺はとにかくパニックになった。

どうすればいい?



だがその瞬間「わかった東さん」と言って起き上がった千歳が髪を赤くして父さんに手をかざす。


「千歳!無事か!?父さんが!!」

「イメージ…「紫水晶の盾」、今のお父さんには空気すらダメージになるから守る。

命の浪費は時のアーティファクトをイメージする。

クロウを閉じ込めた光の檻。


転用

救命カプセル」


そう言った千歳は父さんの身体に光の檻を作る。

アーティファクトは使えない。

そうなると千歳の神如き力になる。


「千歳!」

「ツネノリ、よく聞いて。少ししか話せないから一度で聞いて。いい?」


「ああ」

そして千歳が話し始める。

俺の顔を見る事なく。

独り言のように淡々と話す。


「ツネジロウ、お父さんは私達をフナシから逃す為に王様に頼んで次元移動をしたの。

次元移動の中でジョマに談判をしてくれた。

私の問題点とジョマの問題点を指摘して振り出しに戻してくれた」


父さん、死ぬとわかってもここまでやってくれたのか…。


「そしてもうジョマと私の戦いが始まっているの。

私は今起きるまでの間にジョマとの戦いを擦り合わせてきたよ。


私の戦い。

明日の3時過ぎまで金色お父さんを死なさない。

そして人間をやめない。

ギリギリの出力で神如き力を使って金色お父さんを守る。

そして3時になればお父さんがやってくる。

そうしたら後はお父さんの自己回復力に任せる」


…時刻はまだ6時を少し過ぎた所だ。

夜中の3時?

9時間も千歳が人の身で保たせられるのか?


「ツネノリ、次がツネノリの戦い。

でも私のでもあるんだ、最終日。お昼過ぎからイベント終了までの間にジョマの所に行ってジョマの手からアーティファクト・キャンセラーを奪い取ってこの戦いに勝利する。

明日は修行に使って?

なんの修行かわかるよね?

アーティファクトが使えないから普通の武器の重さや戦い方に慣れるんだよ?」


そう言って千歳が父さんに向かって手をかざす。


「千歳!ここでやるのか?雪だぞ?夜中はどうなるか!」

「私は人間だからお父さんを動かす余裕は無いの。

9時間頑張るから大丈夫。

心配してくれてありがとう」


くそっ、俺はこの状況で何も出来ないのか?



「ツネノリ様」

背後から俺を呼んだのはエテの宿屋に居た女将だった。


「神様からお話をいただきました。

出来るだけのお手伝いをさせていただきます」


「ありがとうございます。

お願いが出来るのなら妹の為に傘と風除けになりそうな物を貸してもらえませんか?」

「はい。ただちにご用意致します。ツネノリ様は、お食事は?」


「妹の戦いが終わるまでは待ちたいんです」

「かしこまりました」


俺は千歳を女将に任せてスタッフカウンターまで行く。


「ツネノリ様…」

「夜分に済まない。武器を幾つか欲しいのだが何とかならないか?」

スタッフカウンターに居たスタッフは泣きそうな目で俺を見る。


「はい。こちらを神様とジョマ様から預かっております」


そこにはショートソードからロングソードまでの剣や光の盾を出した時のような形の盾、それ以外にも手甲や銃なんかもあった。


どれも良いものなのだろう。俺には知識がないからわかりかねる。


「例え悪魔を千体斬っても折れない剣との事です」

「ありがとう。預からせてくれ」


俺はそう言って武器を持って千歳の元に行く。



千歳の周りにはエテのスタッフ達が居て、木の板やテントの布なんかで千歳を守ってくれていた。


「皆さん…」

「私達がやれるのはこんな事だけです」


千歳の後ろでは火を焚いてくれているスタッフまでいた。


俺はあまりに有り難くて頭を下げて感謝を伝える。

「ありがとうございます」



「千歳様は俺たちに任せて休むなら休む、修行するなら修行をする!」

「え?」


突然聞こえた声。

俺は慌てて声の方を見る。

俺の後ろ…、スタッフカウンターから来たのだろう。

「なんで?」


そこにはメリシアの両親。

おじさんとおばさんが居た。


「バカヤロウ!目の前で連れさらわれて心配だからに決まっているだろ?必死にスタッフカウンターに乗り込んだら神様が来てくれてここの事を教えてくれたんだよ!!」

「私達スタッフにも秘密の土地なんですってね」


「ツネノリ様、こちらの方は?」

「タツキアの宿屋のご主人と奥さんです。

俺の…、俺の大切な人のご両親です」


そう聞くと深々と頭を下げる女将。


「へっ、ようやくメリシアを大切って俺の前でも言ったな」

「態度にするのと口にするのは別物なのよ。覚えておいてね」


おじさんとおばさんは父さんと千歳の元に近寄る。

「勇者様…」

「千歳様」


俺は召喚されてからの事を伝えた。

「そんな事があったのか…」

「気持ちわかるわ。親なら当然のことね」


「千歳様が休まないで命を繋ぐ…、後9時間くらいか。負けんなよ!!」

「ご飯の時間もないのが可哀想」


本当なら抱きしめたり手を握ったりしたいのだろう。

おばさんが手を広げたが諦める。

何が千歳の妨げになるかわからない。

皆不安げに見守ることしかできない。

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