第71話 夜ご飯もあるんだから駄目。今食べるよ!!

「どこから魔物が来ても良いように周辺の地形を見てみよう」

そうツネノリが言って前を歩いて行く。

その顔にさっきまでの純情さはなくて戦う男の顔になっている。


これは東さんとやったという40年の修行の賜物なのか、それともツネノリの生まれ持ったモノなのか?

何にせよこの切り替えの早さはありがたい。


タツキアの村の周辺はあまり問題になる地形は無く何処から敵が来ても見渡されるのはありがたい。


「東さーん」

「何だい千歳?」


東さんはいつでも見守ってくれているので、すぐに返事をしてくれるのはありがたい。


「今東さんが知る限りでいいんだけど、このセカンドガーデンで一番大きな魔物って見る事ってできないかな?」


「え?戦うのかい?」

「ううん、今戦って怪我とかしちゃうと明日に響くから大きさが見たいの」


そう言うと東さんはそれならと言って、ビッグドラゴンと言うセカンド最大の魔物の姿を目の前の景色に出してくれた。

…トセトの島くらいの大きさの竜が現れた。


「うそっ!!?」

「こんなに大きいのか…」


「東さん、コイツって何をするの?」

「火を吹く。手で薙ぎ払ってくる。尻尾で打ち付けてくる」

…可愛くない。


「東さん、その攻撃って俺達の盾で防げますか?」

ツネノリが合わせて聞いてくる。

「火なら何とかなるだろう。だけど他の攻撃は盾が耐えられても身体がどうなるかわからない」


「お父さんは?」

「ツネツギなら問題なく防げるよ」


「何それ!?ズルくない?」

「そうは言ってもツネツギは20年も「勇者の腕輪」を育ててきたからね。

もう見た目は前だけ防ぐ風に見えても全体を守っているのさ。

使い方も身体で理解していると言うのも大きいかな」


「じゃあ、戦い方ってどうしたらいい?」

「基本的にダメージは蓄積していくから延々と攻撃をし続けるしかないよ」


何か、実物を見ていると途方もなくなってきた。

こんなのに勝てるの?

正直を不安になってしまう。


「まあ、イベントと言うから他のプレイヤーも居るだろうからうまく連携を取るのがいいね。

ただ、今回の問題点はスタッフと街や村に被害が出るようになってしまった事だ」

「はい」


「何としても村より離れた所で敵を討つしかないね。千歳」

「はい?」


「多分、君の独創性が勝利のカギ何だと思う。危険だがよろしく頼むよ」

「はい!!」


東さんは「それでは」と言って去っていった。

私はツネノリにお昼まで宿代を稼ごうと言って魔物を退治していく。


「千歳、試した方法は見せてくれないのか?」

「へへ、明日まで内緒。多分何個かはあんなに大きいと意味が無いからさまた新しい方法を考えなきゃ。

ツネノリは?」


「俺は倒れない範囲で明日を意識して戦ってみる」

そう言ったツネノリは右手だけから剣を出す。

その剣は随分と長い。


「大丈夫?倒れない?」

「ああ、無理はしていない。これくらい長くしないと攻撃が通らないだろうしな」


そう言ってツネノリは長い剣で敵を倒していく。

少しでも気を緩めると剣がぶれると言って苦労していたが、1時間もすると剣を問題なく出せるようになっていた。

多分これも修行の成果なのだろう。


良い師匠に恵まれたんだろう。

まさかとは思うけど、こういう日が来ることを想定していたのかな?


「さー!頑張って宿代を稼ぐよー!!」

そう言って予定より1時間以上延長して魔物を倒し続けてしまい、時間は午後の2時になっていた。



「…これだけ倒しても昨日の1人分の宿代にしかなっていないのか」

「本当、一体どれだけ高級な所に泊まってしまったんだろうね」


そう言って私は笑う。


「笑い事じゃないぞ千歳」

「えー、でもツネノリはメリシアさんに出会えたから値段以上に幸せじゃない?」


そう言うとツネノリは「うっ…、それは…」と言って赤くなる。


「さ、そのメリシアさんの愛情弁当を食べようよ。そろそろお腹空いてこない?」

「ん…、朝を沢山食べたからまだ平気だが…」


ああ、あれだけ食べればねぇ…


「夜ご飯もあるんだから駄目。今食べるよ!!」

私はそう言って近くの岩に座り込む。


「なんだ、食べたいならそう言えばいいのに…」

ツネノリがやれやれと言って岩に腰かける。

そうじゃないって、美味しく食べないと皆に悪いでしょ?


お弁当はお肉と野菜が沢山入ったお弁当で味付けはちょっと濃い目にしてくれていてお弁当としては丁度いい味付けだった。


よく見るとツネノリのお弁当はぎゅうぎゅうに入っていて、私のは一般的な量だった。

ああ、ツネノリは大食漢って思われたんだね。


「ツネノリ、そんなに食べて大丈夫?太らない?」

「あ…ああ、やはり千歳から見ても量が多いか?」


「うん、すごく入っているね。どこかで伝えないとツネノリは大食いの人って誤解されていると思うよ」

私は少しツネノリのご飯とおかずを手伝って食べてあげた。

きっとこの分だと夜ご飯も多いと思う。


食後にもう少しだけ敵を倒してお腹を落ち着かせた私達は村に戻る。


村の入り口にはメリシアさんがソワソワとしていた。

「あ、メリシアさーん。ただいまー!!」

「千歳様!!良かった、どこもお怪我はありませんか?」


「うん、平気。ツネノリも元気だよ」

「よかった、お帰りが聞いていたより遅かったから…」


「あ、心配で出入り口まで見に来てくれていたの?」

まあ、心配って言っても私3くらいでツネノリが7だよね。

うん。

知ってる。

わかっている。


「そうなのか?」

ツネノリは嬉しそうにメリシアさんに聞く。


「は…はい…」

メリシアさんも照れながら頷く。


「それは済まない事をした。俺達は無事だ」

「良かったです。それで…あの…」


「ん?」

ツネノリがどうしたって顔でメリシアさんを覗き込む。

あ、お弁当の事ってわかんないんだ。


「お弁当だよ」とこそっと教える。

「ああ」と言う顔をしてツネノリはメリシアさんに向かう。


「メリシア、お弁当美味しかったよ。ありがとう」

「え?本当ですか!!」

メリシアさんはとても嬉しそうにツネノリを見る。


「メリシアさーん。でも量を変えすぎじゃなーい。ツネノリも3食全部をあんなに食べられないし、私はもうちょっと欲しかったからツネノリのご飯を少しもらっちゃったよー」

私はそうやって量の話にくぎを刺す。


「え!?そうなんですか!?すみませんでした」

「い…いや、とても美味しかったし嬉しかった」



…ツネノリ、断る時はちゃんと言わないと駄目なのよ?

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