第25話 よくも俺の子供を痛めつけてくれたな。

「先ほどの戦いは20人の初心者の為の戦いだったので、今度はこのお二人の為の戦いと言う事で武器無しのミノタウロスを2頭用意してみました~。

あ、これからは本気で挑んでいいですからね~」

モニターから魔女の声が聞こえてくる。

あの野郎、何が本気だ。

俺が助けに行かなかったら子供たちをここで殺すつもりだったな?


上等だ、絶対に吠え面かかせてやる。

コロセウムの中央はわかっているんだ。

ここから先は走らないで瞬間移動をして飛び出してやる。


奇襲でまず一匹、そして後はもう一匹を倒してやる。それで終わりだ。



俺は瞬間移動をしたが、何故か身体が実体化しない。


「アハハハ、駄目よ。いきなり不意打ちをねらうなんて」

俺の目の前に魔女が居る。


「くそっ、邪魔すんな」

「瞬間移動のペナルティよ。あのまま走ってここに来るのと同じ時間。

大体3分ね。

3分はここでお子さん達の戦いを御覧なさいな」


俺の目と鼻の先に満身創痍のツネノリと千歳が居る。

「くそっ、さっきは何とかなったが、今度は茶色のミノタウロス?」

「私達2人でこんな化け物…武器が無いとは言えそれも二頭を相手にするの?」


「諦めるな、俺がどうなってもお前の事は守る。ちゃんと父さんたちの所に送り届けてやる」

「やめてよそう言うの!アンタだってアイツの所に帰らなきゃ駄目でしょ。それにこれを切り抜けて知っている事を全部教えて貰うんだから!」


あまり仲が良いとは言えない感じだが何とかなっている風に見える。

ツネノリは俺と同じ剣と盾のスタイル。

千歳は両手に拳を装備している。

…光の拳でヒカリノケン?

よく思いついたな。


「父さんをアイツと言うな!」

ツネノリが千歳に怒っている。

「娘に隠し事をする父親なんてアイツで十分でしょ!」


「父さんがどれだけ家族や世界の人の事を考えているのか千歳は何も知らないんだ!」

「そんなの知る必要なんかない!!」


千歳はミノタウロスに向けて走っていく。

「待て!危険だ!!」

「うるさい!!」

千歳はツネノリの制止を無視している。


「やぁぁぁぁっ!」

そう叫ぶと千歳がミノタウロスを殴りつける。


確かにあのアーティファクトは良いものだ。

千歳に合っているのかもしれない。

だが経験が足りない。


このガーデンはよくあるゲームとは違って、レベルと言うものが存在しない。

実戦と同じで徹底的に装備を整えて相手の動きを見極めて戦うと言うものだ。

なので攻撃力や防御力は武器や防具に完全に依存する。

千歳の服は高級なジャケットにあの拳は盾の役割も果たすのだろう。

防御も初心者にしては圧倒的に備わっている。

だがそれだけなのだ。

経験が足りない千歳では攻撃力も防御力も活かしきれない。


ミノタウロスのパンチを防御はしたが吹き飛ばされる。

そして着地地点には二匹目のミノタウロスが待ち構えている。


「千歳!!」

俺は思わず声を上げる。


その声にシンクロするようにツネノリも千歳の名を呼んで光の盾を張りながら千歳の前に立つ。


そして二匹目の攻撃をなんとか受け止める。


「あらら、さっきもああやって息子さんは娘さんを庇ってダメージを受けたのよ」

魔女が説明をしてくる。


その後も、ツネノリは攻撃よりも防御を優先して千歳を守って疲弊していく。


「駄目だよ!逃げてよ!!死んじゃうよ!!」

千歳が膝をついたツネノリの横に寄り添ってそう叫ぶ。


「安心しろ、きっと父さんがもうすぐ来てくれる。

父さんが来れば…あんな敵あっという間に倒してくれる。

千歳、お前は誤解している。父さんは素晴らしい人だ。

だから父さんが来るまではお前の事は俺が守ってやる!!」


ツネノリ!!!


「お待たせ、3分経ったわよ」

魔女の声の後、俺はコロセウムの中央に立っていた。


「おっと!ここでシークレットゲスト、ベテランプレイヤーの登場です!!

光の剣を装備した彼の活躍に観客の皆さん、是非ご期待ください!」

魔女の口上が鬱陶しい。

だが、今はそれよりも目の前に居る邪魔な牛だ。


よくも俺の子供を痛めつけてくれたな。

許さんぞ。

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