第5話 セカンドガーデンって危ない所なの?

地平線と水平線そして星空を見た私は一つの部屋に降りてきていた。

目の前の椅子には女の人が座っている。


「いらっしゃい。ちょっと早い時間の到着ですね。

モニター当選おめでとう。そしてテストプレイしてくれてありがとう」

「え…あ…」


「私はチュートリアル用のスタッフって所かしら?」

「スタッフ?」

AIだろうか?

まるで人間みたいだ。


「そう、名前はそうね、「ジョマ」ってよんでね」

「ジョマ…」


「ええそうよ」

そう言うジョマはニコニコと笑う。


「さて、千歳さん」

「え?名前?」


「だってログインしたIDとパスワードは個人個人で違うもの、ちゃんとわかっているわよ」


ああ、そうか…。


「あなたは今からこのセカンドガーデンを体験して貰います。

そして体験終了したらアンケートにもう一度答えて貰います。

そうしたら端末もIDとパスワードもあなたのものよ。

この端末、普通に買うと5万円近くするし、多分生産が追いつかなくて当分手に入らないんだから」


そう言ってジョマは笑う。

5万円…14歳の私には途方もない金額に驚く。


「私、アンケートなんて書いた覚えがないの」

たまらず打ち明ける。


「あら、そうなの?でもログインしてくれて助かったわ。

運営にはこちらからその旨を伝えるから安心して、損害賠償請求なんて起きないから」


良かった。

怒っていて家に来る損害なんて気にしなかったはずなのに、今は安心してしまっている。

変だ…。星空で心が洗われてしまったのかもしれない。


「まあ、テストプレイを3時にしたのは、こちらでイベントが始まるのがこっちの時間で12/1の午後10時くらいなの。

今は大体、午後5時から6時の間って所ね、後3時間くらいあるから自由にしていて」


「え?そんなに待つの?」


「大丈夫、セカンドガーデンの中では時間なんてあっという間に過ぎるわ。

初心者向けに用意したガーデンの成り立ちとか読んでもいいし、お風呂に入ってもご飯を食べてもいいわよ」


「そんなことまで出来るの?」

「ええ、そこら辺は今回のセカンドガーデンのVR化に伴って一番開発が力を入れた所かしらね。千歳さんも一度食事をしてみるといいわ。大丈夫こっちの世界で食べすぎても現実のあなたは太らないわよ。うふふふふ」


そう言ってジョマは仕事があるからと言って去っていった。

開始前になったら呼びに来ると言っていた。


私はとりあえずガーデンの成り立ちについて読んでみる事にした。

凄いのは目の前に実際の本棚がある事。

成り立ちの本以外の他の本は洋服のカタログだった。


初期に発売されたガーデンのゲーム性、フリーライフゲームと言うジャンルがとにかく流行って売れた。

ゲーム中、世界中をほぼ無制限で旅できる快感。数多くの綺麗な景色。そして世界の人々との交流が賞賛された事。

ただ、段々にユーザーの興味が、フリーライフを楽しむゲームからゲーム中に冒険していて出てくる一部の魔物等との戦闘に焦点を当てられていき、ユーザーアンケートやSNSで見かける声でも「もっと魔物を倒したい」「もっと強い魔物と戦いたい」と言う声が多く聞こえるようになってきた。

そして3年前に新しく、ガーデンのシステムを流用した「セカンドガーデン」が発売された。

セカンドガーデンではユーザーの声が多数反映されて、大型の魔物と仲間を集めて退治するゲームとして爆発的なヒットを巻き起こした。

そして今回、大型アップデートの一環としてVR機能を追加して専用端末を使用してのゲームプレイが可能になったと言う。


え?

成り立ちを見ていて私は愕然としてしまった。

「セカンドガーデンって危ない所なの?」

てっきり花が咲き乱れる場所を見るとか、そのくらいの事をして花の美しさとかをアンケートに書けばよいと思ったのだが、どうも雲行きが怪しい。


そして不思議なことなのだが喉が渇いた気がした。


私は部屋の中を見るとジョマが部屋を出る際に教えてくれていた食事のメニューと呼び鈴を見つけた。


そんなにお腹は減っていなかったので飲み物だけと思い見てみると案外豊富で、私は好物の「キャラメル カフェオレ」があった事に気を良くして頼んでみる事にした。


呼び鈴を鳴らすと可愛らしいメイドさんが来てくれたのでキャラメル カフェオレを注文すると、後おススメはモンブランと教えて貰ったのでそれも頼む事にした。


…今、普通に会話をしてしまっていた。

ジョマの時にも思ったが相手がとてもAIとは思えなかった。


こんな所もリアルだと思ったが、少し待たされてキャラメル カフェオレとモンブランが出てきた。

普通、ゲームなのだからパッパと出てきてもいいと思うのだが、開発者のこだわりの強さがうかがえる…ってダメオヤジか…。


「やりそうだな」

そう呟いて笑ってしまった。

今は不潔だが、父は真面目なのだ。

そこが変わっていなかったことに私は何となく嬉しくなった。


そして驚いたのは食べたものも飲んだものも味がキチンとわかった事。

そして私の好きな近所の喫茶店のキャラメル カフェオレの味と、お母さんが好きなスイーツ店のモンブランの味に近い事にも驚いた。


「これ、いくら食べても太らないって凄くない?」

私はメニューを見ながら、食べたいものをついつい探してしまった。


後はお風呂を見てみよう。

私は呼び鈴でメイドさんを呼んでお風呂に案内してもらう。


お風呂は豪華ホテルの大浴場と言った感じで物凄く大きくて物凄く綺麗だった。

お風呂のお湯も本当に暖かいし、しばらく入って居ると汗も出てきた。


お風呂を後にした私は部屋に戻ってみるとある事に気が付いた。

家具が実際に大型家具店で見たことがあるものだった。


「何だろ?ユーザーへの配慮なのかな?」


そうして再び飲み物を注文した私は時間までのんびり過ごす。


そして時間30分前と言った所でメイドさんが服を持ってきてくれた。

それは民族衣装のような、ゲームやアニメの中で見たことのあるようなファンタジーな冒険者が着るような服だった。


「こちらにお着換えください」

「はい」


そうして私は服を着る。

半袖のシャツに短パン、そして赤いジャケットに着替えると嫌でも気分が乗ってきてしまう。


だが、ここで一つ不安になった。

「あー、この世界って魔物と戦わされるんだっけ?怖いなぁ…」


それを聞いていたメイドさんは微笑みながら。

「大丈夫ですよ、気楽に構えてくださいね」

と言ってくれた。


どこまで気遣いが出来るんだこのAIは…

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