第8話 あなたはどっち? YES or NO!
『マジカルナンバー7』
タイトルコールと共にステージに明かりが戻り、無数のドローンカメラが観客席を飛んでゆく。
緊張感に包まれる八人の後ろ、上段ステージでアダムは白い歯を光らせた。
「東京国際第四文化ネオホールAステージから生放送中、日本二十代部門マジカルナンバー7。既にステージには八人の参加者が肩を並べております」
「現在の視聴率は3.4%。番組開始時間にしては好調ではないでしょうか」
「視聴者の皆さんには、この八人の中に知った顔があるのかもしれませんね」
会場中と七人の視線を浴び、雪永はにっこりと笑ってみせた。言根は羨むような、九条は恨むような目で雪永を見ている。
既に他の七人、雪永がマジカルナンバーに選ばれることは想定済みのようだった。
「ではここで本日のステージ内容をご紹介しましょう。エヴァ」
センターモニターに説明画面が映し出される。
アメリカのコミックのような絵柄のそれは、エヴァの説明に合わせて動き出した。
「はい、アダム。マジカルナンバー7は凡そ二時間のショーで参加者の誰が人類進化において最も不必要であるかを審査します。審査内容は、人間指数を図るための楽しいコーナーをランダムに行うほか、フリートーク、スピーチも行っていただきます。果たして何が吉と出るか凶と出るか。それはまだ誰にも分りません。しかしこのショーが終わったその時に、世界はまた一つ人類存続に近づき、残された七人のこれから先の人生は輝かしいものになっていることでしょう」
「我々アンドロイドの務めは人間を守ること。それ即ち、人類の未来を守ること。そして人類の未来を守ること即ち、人口を最もベストな数である七十億にすること。それこそが人類の友である我々にできる最大の奉仕そして貢献なのです!」
高らかに言うアダムに、須和が「ばからしい」と吐き捨てるようにぼやく。
しかしアンドロイドはそんな小さな音まで拾って「ハハ、お口が悪いのも個性です」と満面の笑みで須和を指さした。
「果たして審査員はそれを是とするか非とするか」
「まずは八人がどういう人間なのかを知ってゆかなければね。ではさっそく、運命のルーレット!! スターッ、トッ!!」
モニターに巨大なルーレットが出現する。
アダムのコールと共に様々なコーナータイトルが映し出されてゆく。
「これって私たちがストップを言う権利はないのよね。本当にランダムだって、誰が証明できるの?」九条が鼻の頭に皺を寄せてぼやく。
「何が来ても優勢である人間こそ選ばれるに相応しい」風坂も、九条の呟きを拾ったわけではないだろうが、自分に言い聞かせるようにそう小さく口にした。
ババンッという決定音と共にコーナータイトルが光り輝く。
『あなたはどっち? YES or NO!?』
「最初のコーナーはこちらに決定しました」エヴァがにっこり笑う。
「ルールは簡単。お題に対し、イエスであるかノーであるか選択するだけです」
「ん~っ、肩慣らしにはちょうど良いコーナーだ」
軽快な音楽が鳴りだし、ステージの上手が青色に下手が赤色の照明に変わった。
「八人はステージの中央に集まってください」とエヴァに指示され、八人は言われるがままに動く。
「自己紹介が良かったな。特技披露とか」中井谷が不服そうに言った。
「いきなり情報が多くても混乱します」とケナン。
「まずは簡単なところから、ね?」とヤレド。
「それじゃあさっそく、いってみよう!!」とエノス。
嵐のような勢いで、ついに審査が始まった。
「現在、一人暮らしをしている」
観客席上部に設置されたモニターに表示された文章を八人が見上げる。
「YES or NO!?」
アンドロイドたちはYとNの人文字を両手で作った。
八人は戸惑うような素振りを見せながらもそれぞれ、YESとNOが表記された場所へ歩いていく。
YESには中井谷と須和と雪永。他の五人がNOに足を踏み入れた。
八人はそれぞれ他の七人がどの位置にいるのか確認する。
ステージ上のアンドロイドたちは口元に微笑みを携えその様子を観察していた。アダムは軽快なリズムに合わせて身体を揺らしている。
「自分は既婚者である」
「YES or NO!?」
NOに留まるものもいればYESから移動をする者もいる。
斎藤は最終的にYESの場にいるのが自分だけだと気づき、信じられないものを見るように青い光の中にいる七人を見た。
「まじですか。あなたたち二十代なんですよね?」
「このご時世だ。むやみやたらと他人を巻き込む人生は選ばないさ」
風坂が言った。
確かに彼の言う通り、マジカルナンバー7制定以来、招集後に婚姻関係を結ぶ人々も少なくないのだ。
「自分にはこどもがいる」
「YES or NO!?」
NOの中からツカツカとヒールを鳴らしてYESに移動したのは、九条だった。
「え、でも」
「なによ。このご時世、珍しくもないでしょう」
驚いた様子に雪永に、九条は噛みつくように言う。雪永は曖昧に笑って気まずさを胡麻化した。
「さてどんどんいきましょう。自分はプラス思考だ」
「YES or NO!?」
抽象的な質問に変わり、八人は考えるそぶりを見せる。
YESには雪永、斎藤、中井谷、柏原。NOには九条、風坂、言根、須和がいた。綺麗に分かれたようである。
「頭脳派か肉体派かと言われれば、頭脳派だ」
「YES or NO!?」
ええ? という声をあげながら数人が悩む様子を見せていた。
風坂と斎藤は悩む余地などなしとばかりにYESに移動してゆく。
雪永はわりとすぐにNOへ移動し、最終的にそこに残ったには彼女と九条と須和と中井谷だった。
YESに移動した言根は斎藤と風坂と柏原に囲まれ、縮こまって「ス、スポーツに自信がないだけなんですぅ」とか細く言い訳をした。
「お次がラスト。自分は……マジカルナンバーに選ばれる自信がある!」
「YES or NO!?」
八人の中ですぐに動いたのは雪永だけだ。
彼女はスキップでもしそうな勢いでYESへと移動してゆく。
彼らは互いを品定めするように見合って、八分の一という確率を改めて考え、そしてYESの位置についた。
NOに残ったのは言根だけである。
七人と会場中の視線が自分へ集中したことに気づき、言根は蒼白な顔で「あの、私もやっぱりそっちに」とYESを示した。
と同時に中井谷は注目されている彼女を見て「俺そっちにしようかな」と軽薄に言う。
「保身はダメ」
「目立ちたがりも」
エノスとケナンが言根と中井谷を指差す。二人は気まずそうに首を竦めた。
魂胆はアンドロイドにはお見通しのようである。
「さて、緊張感も解けてきたところで……」
「解けてないですッ!!」
ヤレドの言葉に言根が子犬のように鳴いた。
八人それぞれが言われるがままに二つのゾーンを行ったり来たりしただけだが、たったそれだけの行動と選択から人間性を見出そうとされているのだ。一体どんな結果に繋がるのか、言根以外だって気が気でない者ももちろんいた。
「次のコーナー行ってみよう! ルーレット、スターッ、トッ!!」
再びルーレットが開始される。
「自己紹介自己紹介」と中井谷は祈り、言根は何が来ても意味がないとでも言うように肩を落としていた。
ババンッとコーナータイトルが光る。
「並んで答えて、
アンドロイドたちのコール、その字面に八人は困惑と不安の表情を浮かべる。
審議はまだ始まったばかりだ。
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