第30話上を目指せ

 翼を生やした、身長二メートルはあろうかという悪魔が黒い瞳でこちらを見ていた。


巨人悪魔アークデーモンか」

 抜剣し、サンジェルマン伯爵は身構える。


 太い腕をふりあげると鋭い爪で春香たちを切り裂くべく、攻撃する。

 春香を乗せ、黒豹となったラルヴァンダードはかろやかに飛び退く。

 鋭い爪はむなしく空を切り裂いた。


 左側に回り込むとサンジェルマン伯爵は無駄のない動きで巨人悪魔の脇腹にサーベルを突き立てる。

 サーベルは根本まで深々とつきささり、巨人悪魔はぐおおっと叫びながら、のけぞった。

 サーベルを引き抜くと、どす黒い血が周囲を汚した。


 後方にのけぞる巨人悪魔の顔面めがけて、村雨丸は飛び付いた。彼女の爪が鋭くのび、巨人悪魔の顔面を深くえぐる。

 彼女を握りつぶそうと巨人悪魔は腕をのばすが、それを空中でひらりとかわし、着地する。


 血に汚れたサーベルを巨人悪魔の太い首に叩きつけるとかの悪魔の首をはね飛ばした。

 首は天井にびしゃりとぶちあたり、醜くくずれた。

 首を失った巨体は前方に倒れ、動かなくなった。


 巨人悪魔アークデーモンを撃破しました。

 ドロップアイテム「悪魔の翼」「悪魔の爪」「邪眼」をアイテムボックスに送ります。


 すでに春香たちは数十回に及ぶ戦闘に勝利していた。サンジェルマン伯爵の剣技は見事であった。舞うように剣を振るい、あざやかに敵を葬っていく。


 かなり疲労が回復したので、黒豹の背中から降り、春香は自分の足で歩くことにした。

「もっと乗っていてくれてもいいのですよ」

 名残おしそうにラルヴァンダードが言った。

「ありがとう。でも、もう大丈夫だよ。もっと敵が強くなるかもしれない。君も戦闘に参加してほしい」

「わかったわ、王様」

「ところで、今は何階層にいるのかな」

 春香はきいた。

「現在、あたしたちは三十九階層にいます。さらに上を目指してまずは獅子雄くんたちと合流しましょう」

 黒豹となっても声は少女のままのラルヴァンダードは言った。


 剣や槍をもった骸骨たちが零子たちの目の前に現れた。粗末で錆びた鎧を装備していた。

「まったく、次から次へと」

 獅子雄が愚痴をいう。

 獅子雄と零子もすでに幾度もの戦闘を経ていた。

 無論、彼らの生存が勝利したことへの証明であった。

「このさきにかなり広い部屋があるの。そこで春香たちを待ちましょう」

 零子は魔銃フェンリルで骸骨戦士の頭蓋骨を撃ち砕きながら、言った。

 固有特技ユニークスキルを使用し、獅子雄は骸骨戦士たちを面白いように打ち砕いていく。《獅子奮迅》の効力により、身体能力は格段にはねあがっていた。向かうところ敵なしとはこのことである。


 骸骨戦士の最後の一人を打ち壊すと木製の扉が見えた。


 ドロップアイテム「鉄の剣」「鉄の槍」「戦士の記録」がアイテムボックスに送られました。


 慎重に警戒しながら、木の扉を獅子雄は開ける。

そこは二十メートルほどの広さのうす暗い部屋だった。

 零子は扉を閉める。

「ここで待ちましょう」

 零子はいった。

「ああ……」

 豹の剣を鞘に納め、獅子雄は言った。

 零子もホルスターに銃を納める。


 彼女には春香の声がきこえたのだという。そして脳内にバベルの塔に関する地図が送られてきたという。零子が迷宮内を正確に踏破するということが、彼女の言ったことが真実であるということを証明していた。

 それを表にはださないが、獅子雄はくやしくて仕方がなかった。

 どうして、自分ではないのか。

 春香と同じ時を誰よりもすごしてきたのは自分だというのに。


 三時間ほど、彼らは待った。ドアに何者かが手をかける気配がした。

 ゆっくりと開く。

 そこにいたのは狐耳の愛らしい少女だった。


 迷わず魔銃フェンリルの銃口をむける。

「待って、待って。この子は味方だよ」

 少女の背後から声をかけるのは春香だった。

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