レッズ帰還
7月の下旬、秀徹はリヴァプールのレッズ本拠地にあるクラブチームで、代理人の小林と話していた。
「今季の活躍で、世界が君を本物だと確認したようだ。とんでもない金額のオファーも舞い込んでいるぞ!!」
少々小林は嬉しそうだ。あまりにも秀徹に関する仕事が増えたため、小林は8選手ほどと契約するつもりだったが秀徹とあと2人の選手とのみ契約した。現状の仕事量からすれば半ば秀徹の専属だ。流石にここまで増えた仕事を4万€で引き受けてもらうのも悪いと思った秀徹は契約金を年15万€にまで引き上げた。
「見てくれ!君の評価額は現在1億€だ。十代の選手では2位になる。1位はフランスのナバッペとかいう選手だな。正直、実績は君が圧倒的に上だが、彼はクラブチームにタイトルをもたらし、チャンピオンズリーグで活躍したという点で君よりも評価されている。
…いや、君の実績と良い勝負かもしれないな。彼は現在1億3000万€(約169億円)の値札がついている。今後君の好敵手になるだろう。
そして、そんなナバッペはパリシティに移籍する。パリシティはナバッペと君を前線で組ませたいらしく、1億5000万€での売却をレッズに迫っている。君への提示年俸は1000万€(約13億円)だ。いい話ではあるが…、どうする?」
レッズというチームは去る者は追わずというスタンスを取るチームだ。もし、秀徹が行きたいと言えばクラブへの提示額1億5000万€はレッズも納得の額。移籍は成立するだろう。が、秀徹はパリに行くつもりは全く無い。
「僕はいいですよ、パリは行きたくないしナバッペとすごくプレーしたいとかはないですし。何よりレッズでプレーできるチャンスが目の前にあるのにそれを逃す訳には行きませんよ。」
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「やあ、シュウト!待っていたよ!」
そう声をかけるのはクラップ監督。秀徹の帰りを心待ちにしていた一人だ。
「君ならやれると思っていたが…、セリエAであれほどの活躍をするとは。本当に凄いよ。」
そして惜しみない称賛を与える。リヴァプールレッズは16-17シーズンを4位でフィニッシュ。ぎりぎりでチャンピオンズリーグの出場権を確保した。クラップ監督の戦術は確実にチームに浸透してきており、3季目となる今季にどう結果に結びつくかが一つのポイントとなる。
レッズには他に、昨季のローマFC戦で死闘を繰り広げたサリーや、DFとしては世界最高額の9000万€でCBのファン・デークが加入した。レッズはこれで、秀徹を含めて世界屈指の戦力を誇るクラブチームとなった。以下は主な選手の特徴一覧。
GK:ロレス 金髪のイケメンだが残念な性格で、よくミスる。
CB:ファン・デーク 落ち着きのあるCBで、対人守備力や空中戦では世界屈指の実力。レッズ最強DF。ロングパスも上手い。
CB:メティプ カメルーン代表の実力派CB。フィジカルが強い。
CB:ロヴラン 元ディフェンスリーダー。傲慢で自分を世界一のDFと言ってはばからない。実力はそれなり。
LSB:ロバート 攻撃的SBでパスセンスが抜群。クロスやロングフィードにも期待でき、足は秀徹並に速い。数年前まで4部リーグでプレーしており、レジ打ちのバイトもしていた苦労人。
RSB:アレキサンダー・アーロン 秀徹と同じ18歳で元MFというのもあってパス精度がえげつない。一度見ると忘れられない顔をしている。
CMF:ミレナー 尋常じゃないスタミナと高い戦術理解度を武器に中盤でプレーする。アシストも上手い。
CMF:ヘンドレーソン チームキャプテンでこちらも尋常じゃないスタミナと守備力を持ち、チャンスになると前へと飛び出す。
OMF:コウケーニョ チームのエース。昨季は36試合で13ゴール。
LWG:マニャ 秀徹以上のスピードを持ち、得点を量産するストライカーでもある。ゲーゲンプレスの理解者。昨季は29試合で13ゴール。
RWG:サリー 瞬発力は秀徹以上。抜群に速いウイングで、ドリブルも上手い。得点力もある。昨季は41試合で19ゴール。
CF:フェルノーネ 中盤の選手だったがCFのポジションで偽トップのようなことをしている。ボールを扱うのが上手いが、得点力はさほど高くない。昨季は41試合で12ゴール。
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練習が始まった初日、まあ正確には今日はスポンサーとの交流会みたいなものなのだが、秀徹はこの日久々にコウケーニョと会った。
「久しぶりだなぁ!」
コウケーニョは相変わらず陽気に秀徹と抱擁する。彼は現在、バルサシティの関心をひいているらしく、移籍も噂されている。
「俺も昔セリエAにいたけどよ、あそこ難しくねえか?全然活躍できなかったんだぜ、俺!」
冗談混じりにコウケーニョはそう言う。彼からはちょくちょく電話も貰っており、仲は常に良好であった。
それに対し、フェルノーネとの関係は複雑であった。秀徹が狙うポジションはCFかLWG。となると、彼の確実な競合相手となる。これなら食うか食われるかの争いをする彼に何と声をかけていいか、よくわからなかった。
また、マニャにも秀徹は話しかけられた。彼は黒人であり、黄色人でヨーロッパで活躍する秀徹に親近感を覚えており、
「おめーみたいな奴と一緒にやれるのは嬉しいぜ!」
と話しかけてきた。話し方はヤンチャだがすごく良い人っぽい。仲良くなれそうだ。一方でサリーはローマで散々秀徹に苦しめられたことで恨みを持って…はいなく、親しげに話しかけてきた。
「やあ、君とまたプレーできて嬉しいよ!」
サリーはだいぶ話し方は丁寧で、紳士的である。半アフロヘアーであり、エジプト人なのもあって、中東の方の顔と言うのが一番わかりやすい雰囲気だ。無論、アフリカ人ではある。
リヴァプール・レッズは今年から日本のゲーム会社の「NONAMI」と契約したらしく、その会社の社員が来ている。どうやら今年のノナミのサッカーゲームのパッケージにはレッズの秀徹、サリー、デーク、マニャ、コウケーニョがデカデカと載るらしい。これはレッズにとっても、金銭的にもそうだがブランド力を上げる大きなビジネスとなる。
その他にも、去年と同様に他のゲームメーカーも来ており、今年もよくわからないパネルを持って写真撮影された。今回の数値は86。去年よりも上がったが、良いのだろうか。秀徹にはよくわからない。
また、スポーツ用品の大手と秀徹は今年から個人契約も結んだ。そのスポンサー料は年間400万€(約5億2000万円)。クラブから支払われる年俸よりも高い。これは非常に魅力的である。他にも日本の会社の数社とも契約を交わしており、CM撮影やらイベント参加は定期的に行わなければならないが、それらで年間3億円ほどの収入が見込める。18歳にして、彼は年間10億円を稼いでいるのだ。正直、荒稼ぎだ。
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練習二日目、やっと練習が始まった。このチームは個別に課題が出される。秀徹に与えられた課題は走り方を改善することであった。
クラップ監督は秀徹の速さを勿論知っているが、彼は走りを誰かに習ったことはない。野生の本能だけで走っているような走り方をしている。まあ、それでも十分に速いのだが、どうせならちゃんと走り方を身につけてほしい。なので、トレーナーを呼んで少し走り方を改善させることにした。
午前中の最初はやはりペアを組んでのトレーニングで、秀徹はコウケーニョと組む。秀徹と練習していて、コウケーニョは彼の状況判断能力が格段に上がったことを感じる。いくら莫大な才能と能力を備えていても、判断が悪ければそれらを活かしきれない。以前、コウケーニョが見ていた彼はそんな課題を抱えていたように見えたが、見事に克服したようだ。判断速度も素早く、戦術的にも理に適った動きばかりだ。
そして午後、個別での練習となり、秀徹はトレーナーとともに走り方を学んだ。
「君陸上習ったことないの?にしては有り得ないほど速いねぇ…。」
そんな声を秀徹にかけたトレーナー。彼は秀徹のスピードにダイヤの原石のような可能性を感じる。幼少から陸上のトレーニングをしていれば、オリンピックに出るような選手になったかもしれないとすら感じていた。
改善の内容は主に姿勢、手の振り方、足の動かし方の3項目。特に姿勢について改善点が指摘された。この数日のマンツーマンによる練習で速さはともかく、走る姿勢やフォームは劇的に改善。特にドリブルの際にスピードをより落としにくくする走り方を習ったのは大きかった。
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数日後、各々の課題を終わらせたレッズの選手たちはついに全体練習を開始させた。そこで監督のクラップからこんな話がされた。
「いいか、現時点で僕ははっきり言ってレギュラーを決めかねている。特にFW陣の戦力は過多とも言えるし、本当に些細な差がレギュラー争いに大きな影響をもたらすだろう。」
予想していたことだが、想像以上に今季のスターティングメンバーに入るのは難しくなりそうだ。レッズは伝統的に3トップを採用している。昨季まではLWGにコウケーニョ、CFにフェルノーネ、RWGにマニャを配置していたが、今季はそこに秀徹とサリーという選択肢が生まれた。
そうとなると、OMFを3トップの下に置いて、そこにコウケーニョを起用するだろう。さらにマニャはLWGになるだろう。そうなると、秀徹が出るためにはサリーからRWGを奪い取るか、CFのフェルノーネかLWGのマニャを蹴落とすしかない。
ただ、現実的にはRWGは左利きの選手が好ましいので恐らく秀徹よりもサリーの方が適任であり、CFをフェルノーネと奪い合うことになりそうだ。彼とコウケーニョによるブラジル人コンビもかなり強い。油断は禁物だ。
実際に全体練習では様々なパターンで3トップを組んでみている。
まず、マニャ、フェルノーネ、サリーが組むと、戦術理解度が高いマニャとフェルノーネが前線での守備に勤しみ、サリーはあまり何もしないので右サイドに空白ができてしまう。一見すると悪いことではあるのだが、これももしかしたら戦術に応用できるかもしれない。フェルノーネは裏抜けしたりして点を積極的に決めたりはしないため、基本的に得点パターンは速攻によるカウンターか、ウイングの二人による抜け出しからのクロスになる。
その点、マニャ、秀徹、サリーのトリオは秀逸であった。このトリオは三人ともが異常なスピードを持っており、カウンターのスピードはまさに異次元だ。個の力も全員がチームのエースになれるレベルにあり、どんなシーンからもチャンスを作れる。ただ、昨季は全員違うチームの選手であった故に中々連携が上手く行かないし、全員に一定レベル以上のエゴがあるため場合によってはそれが攻撃の邪魔をすることもある。難しいところだ。
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シーズン開幕に向けて、7月の後半に練習試合が組まれた。相手は超強豪のバルサシティ。試合は中立開催地のオランダで行われる。
「バルサシティはティキタカと呼ばれるポゼッションサッカーを行っている。選手と選手の距離を小さくして、ボールをポゼッションするのだ。まあ、近年それは崩れつつあるがな。」
クラップ監督は、試合の3日前からオランダにある練習場で戦術の練習をし始めた。練習試合するだけだから三日間の練習で十分だろう。
バルサシティは昔からティキタカというポゼッションサッカーを活かして戦ってきた。元々オランダのクラエフという偉大なサッカー選手であり、監督でもあった人物の影響だ。
それを2010年頃、秀徹がミュンヘンFCと対戦した時に監督をしていたグアディオが大成させた。ブスケット、イエニスタ、ティビという最強のMFから織り成されるパスは華麗で、誰も彼らによるパス交換を止められない。
さらに、エースのメーシュはそのパス交換にも参加し、ドリブル、シュートなどを世界トップレベルの水準で行っていた。当時は間違いなく世界最高のチームだった。
しばしばバルサシティと比較される白い巨人ことクラブマドリードは大枠の戦術を決めて、それ以外は好きに個々の力を活かして動くチームだ。に対して、バルサシティはきっちり戦術を決めてチームプレイに徹する。日本でバルサシティの人気が高いのは、より戦術の気質が日本に合っているからであるような気もする。
ただ、近年そのバルサシティの戦術性も崩れている。中盤の核を担っていたティビが退団。また、だいぶ前にグアディオ監督も退任しているため、ティキタカは形は保っているものの崩壊しつつあり、現在はMSNと呼ばれる、メーシュ、スアリス、ネイワールの三人が個人技で攻撃するようなサッカーをしている。これはこれで見ていて面白いが、誰か欠ければこの強さはなくなるし、バルサシティ特有のサッカーは消えかけていた。
高橋秀徹
所属 リヴァプール・レッズ
市場価値:1億€
今シーズンの成績:0試合、0ゴール、0アシスト
総合成績:62試合、45ゴール、21アシスト
代表成績:3試合、2ゴール、1アシスト
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