第27話 王様達の到着 3


 1艘目の船からがやがやと人が降りだす頃には、2艘目の船にも渡し板が掛けられていた。

 ブルスの民族衣装を着た若い王様が降りてくる。

 しかも、同じように民族衣装を着た王妃様までもが一緒だ。

 で、2人とも半透明のショールみたいのを何重にも巻いているけど、でも基本的に露出度が高いのは判る。ただ、南のブルスであればよくても、ここだと寒いんじゃないかなぁ、その格好はさ。

 漆黒の銘木に、ダイヤモンドかなぁ、きらきら輝く石と珊瑚色の石が嵌め込まれている王冠を、おそろいでかぶっている。これはこれで、今まで見たことがないほど美しい。

 俺には判らないけど、南の海に面した国だから、本物の珊瑚かもしれないね。

 「絵に描いたような」なんて表現があるけど、そのとおりだ。美男美女は羨ましいよねぇ。

 でも、これって、予定外なんじゃないかな。王妃様まで一緒に来るとは聞いていなかった。

 そのあと、やはり書記官さんや魔術師さんが降りてきている。



 俺、ダーカスの王様がエディの女王様の前から離れるとき、小さくため息つくのを見逃さなかった。いやいや、さすがのダーカスの王様でも、泣く子には勝てませんねぇー。

 で、明らかにさっきよりリラックスした表情で、ブルスの王夫妻とあいさつを交わしている。なんか可笑しいなぁ。



 そして、王様同士のあいさつや握手が終わると、各王はトーゴのみんなの拍手と歓声に、片手を上げて応えた。

 トーゴの開拓組は、もともとダーカスの人達じゃないからね。リゴスの人が一番多いけど、エディやブルスの人もいる。きっと、彼らなりの懐かしさもあったと思うんだ。


 そして……。

 王様達、俺の前に来ると、揃って片膝を着いた。

 俺、ぎょっとしたよ。

 もう、驚いて、びっくりして、仰天して、たまげた。

 同時に、俺を逃さないよう、ルーが(威圧)を掛けてた理由も解った。ホント、こんなんあらかじめ聞いていたら、逃げ出してたと思うもん。



 「本来ならば、サフラを足した五王でのごあいさつをさせていただくところ、略儀ながらこの場で一度、お目見得を許されたく」

 ……リゴスの王様だよね。

 俺も、膝をついた。

 この世界での王様は、やっぱり絶対なんだよ。その人達に、一方的に膝をつかせておけないじゃん。

 かといって、どうしていいかは判らなかったから、真似てみただけ。

 きっと、本郷だったら、うまく対応を考えられるんだろうな。


 「ご丁寧なあいさつ、いたみいります。

 こちらに来て、230日が過ぎておりますが、ダーカス王のお陰を持ちまして、不自由なく過ごさせていただいております。

 この度は、誠に烏滸がましいことながら、微力をもって尽くさせていただきますので、何卒よろしくお願いいたします」

 そう答えたよ。

 ルーに、晩餐会用ってあいさつを練習させられていたからね。それらの言葉を組み合わせて作った即興だ。

 そか、あの練習は、このためだったのか。

 


 今日は、ちょっと強行軍になるけど、このままケーブルシップでダーカスに向かうことになっている。

 速度をちょっと早めれば、暗くなるには間があるって時間にダーカスに着くという見込み。

 残念ながら、トーゴには、まだ王様達を宿泊させられるだけの施設がないという事情もある。そのうちに商館や宿泊施設、迎賓館なんかも作られていくんだろうけど、まだまだそこまで行かないよ。


 強行軍なので、今晩の食事も個別に用意され、晩餐会は明日になる。4歳の女の子に、無理はさせられないからね。

 そのかわり、各王様には、今日からもう大浴場は入って貰う予定。疲れをとるのに、お風呂は最高だからね。

 あと、ブルス王夫妻も、それが正装でも寒いものは寒いだろうから、温まってもらいたいし。ケーブルシップでは、寒さを切り抜けられるよう、毛布かなんかをお渡ししないとだろうね。



 で、とりあえずは、揺れない陸の上でお弁当の時間。

 お弁当の蓋を開けて、各国の書記官さんたちから感嘆のどよめきが湧いた。

 「なんと華やかな」

 「このような色とりどりの食事、生まれてこのかた食べたことはおろか、見たことすらない」

 「これが、話に聞く『始元の大魔導師』様の持ち込まれた食材なのか」

 「おおぅ、異なるのは野菜だけではない。肉の脂がなんとも甘いぞ」

 そんな感じの声が、あちこちから聞こえてくる。

 王宮の料理人さん達が、思い切り腕をふるったからね。

 ヤヒウのケバブ、野菜のトマト煮込み、野菜のマリネ、ピラウ(ピラフ)とそれはそれは色鮮やか。しかも、食後には秘密兵器が待っている。

 トマトやカボチャの鮮やかな色は、この世界の食品にはなかった。もちろん、トウモロコシの黄色もだ。


 そして、1つだけ、さらに特別なお弁当がある。

 お子様ランチボックスだ。

 ちょっと見だけど、ハンバーグとか、フライドポテトとか、あろうことか赤いチキンライス的なものまで入っている。ブロッコリーの緑が鮮やかだ。しかも、どうやら、玉子焼きも入っているみたいなんだよ。

 うーむ、この世界での初めて玉子を食べるのは、味見をした料理人さんを除けば、この女王様なんだ。ひょっとしたら、甘い玉子焼きかも。

 あまりに華やかなので、一目見ようって人がたくさん。

 俺の世界の料理本、活用されているなぁ。


 これで、ダーカスの王様を怖がってから、なんとなくぐずった感じだった女王様の機嫌が一気に良くなった。 

 「えっとねぇ、これ、私のなんだよー」

 「食べたら、美味しいんだよー」

 「見せてあげるだけなんだからねー」

 そかそか。

 好きほど見せびらかして、そして食べるがいいさ。

 絶対に旨いからなー。



 食後に、チテのお茶が回されて、さらに秘密兵器であるスィートポテトが配られた。こればかりは、王宮の料理人さんたちの作ではない。ダーカスの名物菓子の方なんだ。


 「かような金色の菓子は見たこともない」

 「いやいや、先程の弁当は見事であったが、果たしてこれはどうかな?」

 「ビナイ殿は美食家ですからのぅ。一家言お有りですかな?」

 「まずは食せねば、一家言もありますまい。おひとつ……」

 「ふっ。

 まぁ、先程ほどの驚きは、もはや在るまいて。

 うぐっ、うごっ、うばぁ。

 な、なんと!

 なんと甘く、そして芳しい。

 このようなもの、我が人生に今までなかった。

 し、しまった!

 念入りに味わう前に、一瞬で胃の腑に落ちてしまった。これでは記録を残せぬ。

 これ、そなたのを頂けぬか。しっかりと記録を残せるように食するゆえに」

 「ご、御冗談を。

 なにを言わるるか。はしたないにも程がある」

 「冗談とはそちらのこと。

 此度の記録を残す、我が責をなんと心得る。

 ええい、それを寄越せ」

 「お渡しするくらいなのば、いっそ」

 「あーっ!

 食いやがったな、コイツ!」

 「渡すか、へへーんだ。一昨日来やがれ!」

 「このバカちんがぁ。いっそ、力づくでも!」


 「止めぬか。

 余も食したゆえ、復命はいらぬ。

 頼むから、このような場で、国の恥を晒すでないわ」

 おお、鶴の一声が出た。

 ダーカスでは普通に子供でも買えるお菓子だって、あとで種明かししよう。

 絶対、反応が見ものだよね。

 ただ、ダーカスの子どもたちの分まで、食い尽くされたら困るよなぁ。


 まぁ、この世界の慢性的な甘み不足につけ込んだ、ずるいメニューではある。まずは、屈服させたぞ。

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