悪役令嬢の兄、復讐する-三度目の世界でモブ令嬢と恋に落ちたのでヒロインにざまぁします-
枝豆@敦騎
前編
「聞いてくれ!俺はこの場を借りて皆に伝えなければならないことがある」
日の光をキラキラと反射して輝くステンドグラスが彩るホールで突然声が上がった。
声の主は黒髪に赤い瞳の青年。
彼の上げた声に百人ほどの人間が集まっていたホールは一瞬で静まり返った。
ホールの全体がよく見渡せるように青年が壇上に上がれば一気に視線が集まる。
青年は多くの視線を物ともせず隣に控えていた俺をちらりと見た。
その視線を受けて会場を見回せば視界の端にふわりと揺れる影が映る。それを確認した俺は青年にしっかりと頷いて見せた。
すると青年は声を張り上げ話始めた。
「私はこの卒業パーティーの場を借りてある者を断罪しなければならない。この国の第一王子として、また一人の人間としてこの悪行を見逃せないからだ」
青年の言葉に数人が息を飲む気配がした。
彼こそはフランシス・テイル。
このテイル国の第一王子であり将来は国王の座につく人間だ。そしてフランシスは俺と同じく今日、貴族学校を卒業した卒業生でもあった。
そんなフランシスが卒業パーティーである人間を断罪するという。
穏やかではない雰囲気に誰もが息を潜めていた。
「まずはみんなになぜこんな事になったのかを説明しなくてはいけない。これから名を呼ぶ者はこちらへ登壇してくれ。ヴィアリーナ・クロイス嬢。フローラ・ノルト嬢」
フランシスに名前を呼ばれ二人の令嬢が彼と同じように壇上に上がった。
一人はヴィアリーナ・クロイス。
公爵家の令嬢でありフランシスの婚約者でもある彼女は太陽のような輝く金髪を波打たせた青い瞳の美女だ。
俺の妹でもある。
もう一人はフローラ・ノルト。
元々平民であった彼女は貴族しか持っていない魔力を持っていたとして、男爵家に養子として迎えられた。
ピンクブロンドの髪は艶のあるストレートで赤みがかった瞳は大きく、不安そうに眉を下げたかと思うとフランシスに駆け寄り当たり前のようにその隣に寄り添った。
その姿を見たホール内の卒業生達がざわつき出す。
婚約者のいる男に、婚約者がいる目の前で寄り添うなど不貞を働いていると公言したようなものだ。
「フランシス、やっと私達結ばれるのね!」
しかもあろうことかフローラは不安そうな顔から一転、花が綻ぶような笑顔を浮かべたかと思うとフランシスの腕に自分の腕を絡ませ密着したのだ。
これには成り行きを見守っていた卒業生の若き貴族達もさすがに顔をしかめ、ざわつきが大きくなる。
「……っ!」
顔を歪めたのは観衆だけでなく婚約者のヴィアリーナもだ。
といっても長年の王妃教育の賜物か、眉をピクリと動かした程度だったが。
フランシスは密着するフローラの腕を離さないようにしっかりと固定したかと思うと、女性なら誰もが見とれるような微笑みを彼女に向けこう言った。
「断罪されるのは君だよ、フローラ・ノルト男爵令嬢」
フランシスの良く通る声にざわついていた会場は再び静寂に包まれた。
「……え?」
その言葉を疑うようにフローラがフランシスを見上げる。
「フローラ・ノルト。認知されていない魅了魔法を使って異性を思うままに操り、ヴィアリーナ嬢を貶め私に取り入ろうとした。それだけでなくヴィアリーナ嬢の命まで狙った。未遂と言えどこれは立派な犯罪だ」
「違っ……誤解よ、フランシス!私はそんな事してない!」
慌てて言い訳を口にしながらフローラはフランシスから離れようとするが、その腕はしっかりと掴まれている為離れることは出来ないようだ。
「ねぇ信じて!私はヴィアリーナに虐められていたの!命を狙ったなんてあの子の嘘よ、私とフランシスの仲を妬んで同情を引くために嘘をついたんだわ」
精一杯か弱い小動物の皮を被り、大きな瞳を潤ませていたフローラはフランシスの傍に控えていた俺の姿を見付けると、助けを求めるようにぱちぱちと目を瞬かせる。
(そろそろ俺の出番か)
俺は彼らの方へ一歩進み出ると「お待ち下さい、フランシス殿下」と声をかけた。するとフランシスは大袈裟な動作で振り向き俺を睨み付けて見せた。
「なんだ、レイス・クロイス。まさかこの罪人を庇うつもりかい?」
俺が声をかけた事でも救いの手を差し伸べられたと思ったのか、フローラは涙に頬を濡らしながら俺に駆け寄ろうとする。それもフランシスに掴まれていることで阻まれたが。
(自分の利益になる相手に全力ですり寄る、まるで寄生虫だな。お前が過去ヴィアリーナにしてきた仕打ちをここで全て返してやる)
何も俺はフローラを助けるためにこの断罪劇に割って入ったのではない。
全ては計画のうちだ。
フローラに一瞬の希望を持たせて絶望のどん底に突き落とすための。
俺は真っ直ぐにフローラに対峙すると口の端を持ち上げて笑って見せた。
ここからは俺が復讐する番だ。
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