第16話
そこでようやく俺と共にいる人に気が付いたのか、ケリーはリーンスタさんのほうを見た。
「あなたは?」
「あ、この人は……。
みんなに会えた時にぜひ紹介したくて。
だから紹介はまた今度ね」
「ふーん?
あ、今晩にでも来れるか?
皆には俺から連絡しとくからさ」
「そんな急で大丈夫なの?」
心配になった俺をよそにケリーは大丈夫大丈夫と軽く返した。
「それより、ずっとハールに会えていないからきっとみんな喜ぶよ」
「俺もみんなに会いたいよ。
じゃあまた後で」
「え、もう行くの?
親父に会っていけばいいのに」
「まあ、後で会えるなら今は邪魔しちゃ悪いかな」
「そう?
まあいいや。
じゃあまた後で」
じゃあね、と手を振ってケリーは奥へと入っていく。それを見送って俺はリーンスタさんと共に街へと出て行った。
安くて重宝した服飾店、フェリラがケーキを買ったお菓子屋さん、よく3人でご飯を食べた屋台。いろいろなものがすでに懐かしい。そしてここでの思い出は常に3人でのものだ。今はどちらもそばにいないことがふとした時に寂しくなる。
「……リーンスタさんが一緒にいてくれてよかったかもしれません」
「どうして?」
ぽつりとこぼした言葉はしっかりとリーンスタさんに聞こえていたらしい。返ってきた言葉に苦笑いした。
「なんだかここを歩いているとリキートたちといたことを思い出してしまって。
寂しい気持ちに。
でも、こうしてリーンスタさんと一緒に歩くことでまた違ったところみたいに見れて」
「リキート、というと……。
君と一緒に冒険者になったという?」
「はい。
ここで一緒に冒険者になったんです。
全然活動しなかったんですけどね」
いやー、結局本当に冒険者らしいことしなかったわ。自由に冒険に出かけたい。その思いがなかったわけではないけれど。まあ、選ばなかった未来を考えても仕方がない。
少しずつ思い出話もしながらいろいろとめぐっていく。再び訪れた伯父との時間はやはり穏やかに過ぎていった。基本的にこの人は聞き上手で、思わずいろいろと話してしまうのだ。それを穏やかに聞いてくれるんだよな。
そうこうしているうちに夜は更けていく。俺たちは一番の目的であるシラジェさんたちの家へと向かった。
家を訪ねるとすぐに扉が開かれた。
「ハール!
本当に来たのね!」
「み、ミグナさん⁉」
「ケリーから聞いてはいたんだけれどね、なかなか信じられなくて」
あ、ケリーはちゃんと伝えてくれたらしい。忙しそうだったのに申し訳ない。でも、よかった。
さあさあ入って、と促されるままに俺はリーンスタさんと共に家の中へと入っていった。
あっというまに整った夕食には全員がそろっていた。今日はたまたま皆そろう日だったらしい。せっかくなら皆に会いたかったからよかった。
では食べようか、と席に着く直前。俺は慌ててみんなに話しかけた。さすがにそろそろリーンスタさんを紹介したい。
「あの、この方を紹介してもいいですか?」
「あ、ああ、ごめんなさい。
ついついうれしくなってしまって……。
ハール、紹介してくれる?」
聞く体勢が整ったことを見て、俺はようやく紹介できることにほっとした。
「この方はリーンスタさん。
俺の母親の兄、つまり俺の伯父です。
親族に、皆を紹介したくて」
俺のもう一つの家族を。小さくなってしまった声でそう付け足す。何となくみんなの顔を見られなくて、俺はうつむいてしまった。
「本当に、ハールの親族なのか?」
ふいに聞こえたのは思っていたのと違う声音だった。その声は固く、怒りを押し殺しているかのよう。お、俺何か怒らせるようなこといったか?
「はい。
私は確かにこの子の伯父です」
「なら……、なら、どうしてこの子を一人きりにした⁉
あんなに人の目にもおびえて、一体ハールに何をしたんだ」
予想外すぎる言葉にぱっと顔を上げる。声の主はシラジェさんだった。だが、その近くにいる皆も硬い表情でこちらを見ていた。なんだか怒っている?
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