第17話
皇后の視点/第一皇子キャバランシアの視点/リヒトの視点
の順になっています。
「それで?」
「はっ、役目はきちんと果たしたかと。
この目で第三皇子の死を確認いたしました。
あ、しかし……」
視線が泳ぐ。言いたいことがあるならはっきりせよ。こういう態度が癪に障るのだ。
「その、第七皇子の姿が見えず、手を出せませんでした」
あやつの姿が? ということは、どこかへ行ったのか。だが、一番あり得るのは、スランクレトがなんとか逃がしたということだろう。しかし、あやつが、か。
「まあよい。
あれはいまだ毒にも薬にもならぬ存在だからな。
そう、神剣はどうした?」
「それが、どこにも見えませんで……」
見えない、つまり消えた? ならばやはりあやつが主だったと? 噂程度だが、神剣は主が死ねば次の主を待つために忽然と消えると。
あやつが、神剣の主。
「どこまでも目障りな奴よ!」
「こ、皇后陛下……?」
ガシャン! と大きな音がする。手元を見れば血が伝っていた。グラスが割れたか。中身も散らばり、実に不愉快。
「すぐに手当てを」
ああ、煩わしい。だが、ひとまずの邪魔は排除したわ。わたくしはもう止まれない。止まる気もない。これでよいのだ。
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この者は今なんといった? スランクレトの遺体が発見された、だと?
「あいつか!!」
間違いない、あいつが手をまわしたんだ。神剣の主がこの国の皇族にいる。それがどれほどの価値がある事実なのか理解していないのか? いや、理解しているからこそ、かもしれないが。
「神剣はどうなった?」
「それが、消えた、と」
消えた。ならばほぼ確定だろう。本当に余計なことを……。
「そうだ、スーベルハーニはどうなった?」
「あの、どこにも、いらっしゃらないそうです」
どこにもいない? どういうことだ? 遺体が見つからないということは、恐らく死んではいないのだろう。なら、逃げだした? あの幼さで自分の判断で逃げたとは思えない。むしろ助けようとするだろう。報告ではよくなついていたようだし。
ならば結論は一つ。おそらくスランクレトが逃がしたのだ。あやつは元からスーベルハーニをここにかかわらせたくないと思っていた節があった。
「追いますか?」
目の前の人物も同じ結論に達したのだろう、そう問いかける。ふむ、どうしようか。
「……いや、いい」
わざわざ身近に毒ともなりえる存在を置く必要もないだろう。必要になった際にまた探せばいい。今はそれよりもやらなくてはいけないことが多すぎる。
「本当に余計なことを」
思わず最後に一つ、恨み口を漏らしたのは許してもらいたい。
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妙に酒を飲まされて、目が覚めたのは昼近くだった。その時には宿舎内が騒がしく、とても嫌な予感がした。
なぜか私に強い酒を勧めてきたのに、自分は水。そいういった真似をするのが珍しく、なにかわけがあるのだろうとは思った。だから、今日はそれに騙されてやろう、と。その時からずっと嫌な予感はしていた。私にいきなりスーベルハーニ皇子が生まれた際の話をしたことも。
「副隊長!
目、覚めてますか!」
「ええ、起きています。
一体何があったのですか?」
「何がって、その……。
隊長が、亡くなったと」
亡くなった。その言葉が耳に入ってきて、最初に思ったのは、ああ、やっぱりという感想だった。それなら昨夜の行動の意味が分かる。でも。
「どこでですか?」
「それが、南門近くの城内でやられていたらしく」
城内。最も安全でなくてはならない城内で皇子が殺された。この事実が他国にどうとらえられるのか、あいつはわかっているのか? いや、きっとそこまで頭が回らないのだろう。
「それと、神剣と……、スー皇子も見当たらず」
「皇子が!?」
神剣とスーベルハーニ皇子が消えた。それから考えられるのは、スラン皇子が何かした、ということだけだ。きっと神剣を正当な主に渡し、ここから逃がした。きっと元からそのつもりだったんだ。でも、ならばこそ。
「私も、巻き込んでくださいよ……」
「あの、副隊長?」
私をこの貴族の世界にとどめたあなたがいないのならば、今すぐにでも去りたい。でも、最大の釘として約束を用意してしまった。スーベルハーニ皇子を助けるという、この国の中枢にいないと果たせない約束を。最後の約束となってしまったこれを、私が破ることができないなんてきっとあの人にはお見通しだろう。
今はどこにいるのかわからない。でも、どうか無事に逃げ切ってください。私が力になれることは本当に少ないですが、それでも精一杯お役に立ってみせましょう。
恨みますよ、スラン皇子。あなたが巻き込んだ騒動に、私を取り残していったことを。でも、親友として支えて差し上げます。
「まずはこの隊を守らなくては」
さあ、やることは多い。すぐにでも動き始めなくては。ねえ、スラン皇子。あなたが引き起こしたこの騒動が終わったとき、その時なら私が涙をこぼしても許してくださいますか?
今はこのつらさに蓋をしましょう。これは今必要ない。でも、いつか必ず思い出せるように。あなたを悼めるように、大事に鍵を付けてしまっておこう。
今立ち止まったらきっと、もう動けなくなるから。でもそれではだめだ。
「すべてが終わった後に、絶対に文句を言ってやる」
今は、動き続けなくては。
「副隊長、な、……いえ、なんでもありません」
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