四章 道化と軍師、そして狼 その7

(策略武人…今日こそ仕留めて、我が因縁と過去に永遠の決着を!)

 獣の区の連合軍の総大将―輝本 雄也は陣の真ん中でそう考えていた。よき時間と判断した彼は兵に割礼を出した。

「獣の兵達よ。美の区の松平が朝廷を後ろ盾に我々に戦いを挑む! 」

 その中で小声で喋る兵士がちらほらいた。

「へっ、あいつだって輝本という後ろ盾だろ?」

「得体が知れない総大将がいたもんだ。」

「ただ東武国残り二つの無法地帯の一つ…獣の区という闇を守るため戦うのみじゃ。」

 雄也は構わず舌を巧みに回した。そんな中、複数の兵士が上空の異変に気づいた。

「ん?」

「なんだありゃ?」

「煙?」

「こっちに向かって…」

「え?……ええええええ!」

 ほとんどの兵士が驚きを隠さずにええええ、と声を上げていた。敵のいる方角から煙が上がるのを何個か見たと思いきや、こちらに全部向かっていた。ただの目くらましと思いきや、 近距離にてそれらは巨大な球に変化していた。

「手軽に持ててで高威力な性能を持ち、標的の近くに来てから砲弾の大きさになる銃弾を放つ砲銃。」

 望遠鏡で覗きながら遠くから見てる武天は括正に小声で言った。

「遠距離にも中距離にも活かせる優れものを俺の手によりさらに遠くへ飛ばせるように改造した。それに加え俺の軍略。獣の区は成す術あらずだ。」

 武天の自慢に括正はふてくされていた。

(そうなればすぐに降伏を勧められていいんだけど、道長殿の言ってたことが正しければそう簡単にはいかない。)

 砲弾の雨が輝本軍を襲い、不意打ちに兵士はかなりやられた。

(ぐぬぬぬ、己鬼軍師!)

 雄也は悔しさで拳を握った。

(貴様の策で軍がやられようと、俺は必ず道長を!)

 そう思うと雄也は刀を抜いて、斜め上に刀を突き刺した。

「飛斬、黒柳!」

 刀から黒い光線状の衝撃波が放たれ、遥かな上空へ飛んだところでその衝撃波は複数に別れた。

「まずい、僕の下にしゃがめ武天!」

「何を、ぐはっ!」

 括正は無理やり地面に彼を押さえ込んだ。それと同時に周りの兵士にも声を掛けた。

「上空用心! 上空用心! 備えろ! 備えろ!」

 この声掛けを本気にした者もいたが、余裕をこいていた者もいた。

「斬烈結界!」

 括正はそう言うと同時に、他にもそのように叫ぶ者がいた。

「あんた、もし国を背負うというならこれから起こり得るすべてに目を逸らすなよ。」

 括正はそう囁くと、無数の黒い斬砲が降ってきた。

「ぎゃあああ!」

「ヘルプミー!」

「ぐううう!」

「うわあああ!」

 括正と武天は括正の黒い斬烈結界によって直撃は避けられたものの、多くの兵が喰らってしまった。その攻撃の威力に不気味に笑う人が一人いた。

「ふふ、さすがよのう雄也。だがこの道長に脅しは効かないことお主が一番知っておろうて。」

 道長は長槍を片手に敵を見据えていた。すると大声で叫んだ。

「東武国の平和のために死ねる者はワシの獣狩りについて参れ!」

 道長は先陣を走り出すと、士気が上がった兵がついていくように突撃をした。

「道長殿、今回は豪快に出たな。向き合うことが目的だというのは嘘じゃねえんだな。僕達も行くぞ武天。……武天君?」

 括正は目を向けると、武天が地面にうずくまったままだということに気づいた。

「……すまない。体が震えて言うことをきかん。とんだ誤算だ。」

 武天は顔をあげて言うと、括正はしゃがんで優しく肩を叩いた。

「今感じている恐怖、忘れないでね。これが死と隣り合わせってことだよ。戦で誰が一番奮闘しているかなんてわからないけど、ちゃんと考えて軍略を練ってね。」

 そう言うと括正は前を見た。

「しかしあんたの砲銃を活かした策はすぐに戦が終わりそうな空気を読んだね。しばらくしてから歩いていくか。」

 括正の発言に、武天はああ、ちゃんと見る。と返した。

 一方で道長は槍を振り回しては突き、猛獣のようにばったばったと敵を倒していた。

「フハハハハ! 真の勇者は獣にあらず! 寄せ集めのならず者共よ!」

 道長の挑発にまんまと引っ掛かる兵達は無力に殺された。一方で美の区の兵達は雄也に接近していた。

「総大将をやれええ!」

「いえーい、手柄ゲット!」

「イチコロ、イチコロ!」

「もらった!」

 複数の兵が雄也に群がった。しかし、雄也は何一つ動じなかった。

「下郎が、美しさがナッシング!」

 そう言いながら刀を構えた。

「念術、突激!」

 雄也が刀を振ると、敵味方関係なく吹っ飛んだ。雄也は周りを見回すと徐々に自分の兵が減っていることに気づいた。

(クッ、せめて引導を! あいつさえいなきゃ東武国、いや世界が俺のものよ!)

 深く決意した雄也は刀を道長の方に向けた。

「策略武人、工藤道長! 一騎打ちだ! この輝本 雄也が相手致す!」

 この雄也の呼び掛けに道長は思わず、高笑いした。

「フハハハハ! 輝本? 笑止! 己が何者か見失ったか⁉︎ 弟よ!」

 道長はそう言いながら槍を構えた。

「お主は工藤 雄也!権力に媚びなかった工藤 道也の次男! 成り上がりのごますりの戦闘狂、この工藤 道長の弟じゃ!」

「黙れ! 黙れ! 黙らんか! 俺には父も兄もおらんわあああ!」

 二人の間には距離があり、一瞬二人共消えたかに見えた。次の瞬間、その距離の真ん中で二人は姿を現し、刀と槍が激しくぶつかった。

「雄也、雄也、愚か者。己を偽る愚か者。」

「二度と喋れんようにしてやる!」

 何度も何度も斬撃がぶつかり合った。途中で道長が見事蹴りを雄也のすねに直撃させた。

「んんんごおおおおおお!」

「フハハハハ、勝つため手段は選ばぬものよ!」

 そう言うと道長は槍を思いっきり突き刺した。しかし。

「ふぬぬぬぬ! 折ってくれるわ!」

 さっと突きを交わした雄也は道長の槍を脇で挟み、持っている念力で槍を折ってしまった。しかし、それで動揺する道長ではなかった。道長は手を伸ばした。

「うがあああ!」

「しまった! 動けぬ!」

 道長は念力で勢いよく雄也を斜め上に浮かせた。雄也の体は大の字の形で動けなくなっていた。

「ぐぬぬぬ、道長めー!」

「フハハハハ、愚か者が雲の下で蜘蛛の巣に引っ掛かったぞ。」

 右手で雄也を抑えた道長は左手で砲銃の小隊にこっちに来るように指示をした。

「答えろならず者の王よ、お主は何者だ?」

道長は雄也に質問すると、彼は答えた。

「こ、高貴な公家の出、輝本 雄也だ、グハッ!」

 道長は雄也が喋っている途中で、彼の首に念力を集中させて一瞬きつくさせた。

「ちがーう! 違う違う違う、ちっがーう!」

 道長の声は戦場中に響いたため、全ての者が道長と雄也に視線を向けていた。

「お主は工藤 雄也! 愚かなワシのより愚かな弟よ! そして世界にとっての悪の火種! 撃てええ!」

 砲銃隊は雄也を目掛けて弾を放った。誰もがその時雄也の死を予想した。しかし。

「ね、念拍手!」

 どうにか腕の自由を取り戻した雄也は勢いよく、強烈な勢いで手を合わせた。

「ぐっ、やはり。」

 砲銃隊と道長が弾にやられてダメージを喰らってしまった。

「ハッハッハッ、見たか道長、勝者は私だ! さあ……辞めろ。なぜ笑顔が消えない? 辞めろ! 辞めろ!」

 爆発を喰らって尚笑顔でいる道長を雄也は何度も踏みつけた。

「やはり愚か者。後ろを見ろ。」

「フン! そんな原始的な手に引っ掛かると思うか?」

 雄也は呆れ顔で質問した。

「ああ、知っている。」

「え?」

「捕縛魔法“羅生”!」

 括正が魔法陣を繰り出すと、そこから赤い鎖が解き放たれて、雄也を縛った。括正は座り込んだ。

「ち、力が入らん!」

 雄也がそう思うと、道長は大声で指示を出した。

「こやつを取り抑え、連行せよ!」

 10人くらいの兵士が雄也を持ち上げて運んだ。

「離せ! おい離せ! 離せばわかる! 離せばわかる! 離せと言っているのが聞こえないのか下郎が! おいお前ら、総大将の危機を助けんか!」

 雄也の呼び掛けに耳を傾ける獣の区の兵士は一人もいなかった。兵を人として見てなかった総大将を心から従おうとする者はいなかったのである。

「おい、おいいって! 無視をするな! 無能共切腹せんか! うがあああ!」

 戦は終わりそのままほとんどの兵がその場を去り、やがて道長、括正と武天だけが残った。

「礼を言うぞ、岩本の坊ちゃん。」

「全くだじじい。僕が魔力少ないから、体力奪われるの知っているくせに……あ、ようやく動けるようになった。」

 括正は座っていたところを立ち上がり、道長が仰向けに倒れているところに歩み寄った。

「最後にじじいとは無礼じゃのう。これから死ぬ老兵に涙くらい流したらどうじゃ?」

 道長は笑顔で括正に言った。

「僕はあんたのこと嫌いだから、泣くわけないだろ。」

 括正は極めて冷静に答えた。道長は高らかに笑った。

「ワハハハハ、そうじゃろ、そうじゃろ。わかってたぞ。お主は大うつけになるぞ。人間に好き嫌いがはっきりしてるのも一興よ。」

 道長は次に真顔に戻った。

「だがお主に問う。ワシと雄也、どちらの生き様に惚れた?」

 括正は黙って何も答えなかった。

「答えは……お主の顔に出とるの〜。……悔いなく我が終わりなり。」

 そう言うと道長は静かに息を引き取った。

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