一章 女王になりたい! その2
ちょうど大きい丸太があったので、二人はそれを椅子にし、目の前で火を起こし、肉を焼いた。
「そういえば、君名前は?親はいないの?」
括正は均等に切った肉を口に入れながら、少女に質問した。少女は笑顔で答えた。
「親はいません。二人ともろくでなしということは言われたんですけどね。」
括正は言われた?、と引っかかったことを言うと、少女は淡々と答えた。
「あ、そうでした。私5歳まで修道院で育ったんです。確かその時の名前は…2112番だった気がします。」
それを聞いた括正は青ざめた。番号で子供を呼ぶ修道院はこの世界で一組織だけ、赤爪連合の系列の修道院だ。表向きは慈善活動を行なっていた非営利組織だが、本性は兵士には洗脳教育をしては世界中に悪事を働いていた組織だった。修道院の目的は孤児を集めては、強力な組織の一部にするか奴隷として売るかのどちらかだった。数年前に括正の父とその仲間たちが赤爪連合の悪事を暴き、組織の中枢を再起不能にしたのだが、根元はなかなか刈り取ることが難しく、東武国にも赤爪連合の修道院が存在したという訳だ。括正は恐る恐る聞き出した。
「言いたくなかったら言わなくていい。君は今いくつだ?」
「え?確か、私今11です。」
それを聞いて括正は内心ホッとした。つまり彼女が修道院にいたのは6年前で、実は3年前には赤爪系列の修道院捜索と取り壊しが全国的なスケールで行われて見事に完全解決されていたのが、もしや生き残りがいたと焦ったが、そうではなかったらしく安心したのだ。
「お侍さんはおいくつですか?」
少女は無邪気に質問した。括正は意識をうつつに戻した。
「ん?ああ、僕は13歳だ。」
へーという顔を彼女はすると、括正はまた喋った。
「話を戻していいかい?君の番号は体のどこかに刻まれているはずなんだけど、僕の情報が正しければ、その番号は魔法の呪いで消えない仕組みになっているはずなんだけど…まだ残っている?」
「はい、実はまだ残っています。」
少女は震えながら答えると裾の下を巻き上げた。よく見ると、2112と彼女の左太ももに刻まれていた。括正はそれを見るや荷物の中から蓋のついた黒い瓶を取り出した。
・・・
話は括正が先ほどの戦に出向く前に遡る。
「おい、括正。キャーチッ!」
括正の住む家の前で細身の人間の男は括正に黒い瓶を投げた。括正は慌てながらキャッチした。
「これは何だ、父上?」
括正は尋ねると、男は答えた。
「そいつは刻まれた文字の呪いをよく塗れば解ける液体だ。僕と相棒で作ったのさ。持ってきな。」
「だけど父上、もう“被害者”はいないんじゃない?」
括正は父にまた尋ねた。父は楽しそうにからかいだした。
「そう思うぅ?じゃあ知らないよぉ。そういう境遇の人に会って、あっこの瓶持っていけばよかったってなっても知らないよおぉ?」
「わかりましたよ、持って行くよ。だけど父上、僕はいないと思うよそんな人。」
・・・
話は今に戻る。
(いたよ、父上えええ。疑って悪かったよ。ただ問題が二つある。一つはこの子が僕と年齢差が大してない女の子だということ。もう一つはこの番号が刻まれている位置だ。何でよりによって太ももなんだよ⁉︎ すごく誘惑的で困るんだけど!正直言ってすごく触りたい!だけどこの子はかなり肉体的にも精神的にも色々傷ついているだろうし、僕の性欲塗れの浅はかな願望によってさらにこの子を傷つけてしまったらそれは僕の武士道に反する!となると答えは一つ!)
括正は瓶を少女に渡した。
「この瓶にはその番号を消す魔法が込められている。それついたままは嫌なんじゃない?自分で試してみて。」
少女は首を傾げて瓶を受け取ると番号のついた脚に液体を塗った。しばらくすると、番号は消えて、少女の瞳は驚きと感動、感謝で輝き出して、一粒の喜びの涙がこぼれた。よほど重荷に感じていたのだろう。本当に本当にありがとうございます、っとお礼をした嬉しそうな彼女を見て、括正も嬉しくなった。
「いやあ、助けになれてよかったよ。どんな生き物だって生きている存在として見られたいもんね。そういえばお嬢さん、名前はもしかしてないの?」
質問をした括正に、嬉しくて足をバタバタさせながら、両手をほっぺに付けた少女は、正気に戻り、はっきりと答えた。
「名前ならありますよ。5年前にもらいました。あ、お侍さん、長いお話好きですか?」
「そういうの大好きだ。」
・・・
名前を授かったのは5年前の冬でした。その1年前に私は西洋のんん〜確かスプーンといった鉄製道具を使って毎晩監禁されていた部屋で穴を掘り、なんとかあの忌々しい修道院から脱出しました。そのあと私は戦場漁りや路上で歌ったりすることによって金を稼ぎ、かわいそうと思いながらたまには動物を狩って食べてきました。飲み物は川や井戸が近ければその水を、なかったら仕方なく、戦場跡の人の血や動物の血を飲んでいました。
・・・
「まるで吸血鬼のようなことをするんだね。」
括正は割り込むのは失礼と思いつつも、つい言ってしまった。
「はい?何ですか、そのチュウクチキって?」
括正は彼女の聞き間違いに思わず体をひっくり返してしまった。
「アハハ、違うよ。キュウ・ケツ・キだよ。」
少女は正しい言い方を聞くと思わず赤面してしまった。括正は話し続けた。
「だけどチュウ口鬼もそれはそれで恐ろしい化け物だね。吸血鬼ってのは生き物の血を吸っては空を飛び、超人的な肉体と莫大な魔力を秘めた化け物だよ。種類としては技やスピード、知恵が目立つ白吸血鬼と破壊力や腕力、殺傷能力が目立つ黒吸血鬼というのが今のところ把握されているけど、世間のほとんどは同じ災いをもたらす怪人、化け物として捉えているかもね。」
少女はへえと少し寒気を催しながらふと、あれ?と思い、括正に尋ねた。
「お侍さん、吸血鬼という存在は嫌われているはずなのに、随分とお詳しいんですね。」
括正は笑顔で答えた。
「まあそれは世間の評判だからね。だけど僕は吸血鬼の中には弱きを悪から守り抜くスーパーヒーローのような存在もいるって信じたいんだ。っていうか僕がなりたい!無敵で素敵な吸血鬼ヒーローにさ!」
「吸血鬼にですか?なることなんて可能なんですか?」
少女は不思議そうに訊くと、括正はドヤ顔で答えた。
「ああ。もちろんナチュラルな生まれつきの吸血鬼もいるけど、正しい道具で正しい儀式をすればなれるんだ。」
正しい道具と儀式ってなんですか?と少女が聞くと括正は嬉しそうに答えた。
「儀式は真ん中に十字架を描いた魔法陣を地面に描いた上で完成したら自分が真ん中に座って“血よ、弱き己を奮い立たせ、無限の力を与えたまえ!”と叫べばいいらしい。必要な道具は全部で7つなんだ。魔法陣の墨となるロック羊の血、それを書くためのファンキードックの尻尾の毛からできた筆、十字架のそれぞれの先っちょに置かなきゃならない毒の入ったリンゴ、ぶどう酒に漬けられたパン、ドカーンダイヤ、ミノタウロスの角、そして白吸血鬼になりたい場合は妖精の粉、黒吸血鬼になりたい場合はデスウォーカーの粉を自分にふっかけてから、唱えなければならない。」
「すごい下調べですね。お侍さんは集められたアイテムはあるんですか?」
少女が多少興味深そうに聞くと、括正は真面目に答えた。
「ロック羊の血は家に保存してあって、筆も最近作って完成したな。リンゴ園は家の近くにあるし、毒素も数日前の戦で敵軍が飼っていた大蛇を斬った後に毒を魔法のツボに入れたよ。僕の家は土地は狭いがそこを利用してぶどう農園を開いているし、お酒の作り方もパンの作り方も母上が教えてくれたから大丈夫だね。となると残るはドカーンダイヤとミノタウロスの角、後僕は白い方になりたいから妖精の粉だね。」
括正は己の持つ知識を発表すると、少女はパチパチと手を叩きながら彼を称賛した。
「素晴らしいじゃないですか⁉︎ あなたの強いヒーローになる夢が叶うといいですね。私勝手ながら心から応援させてもらいます。」
括正は礼をいうと、ハッ、と気づいた。
「そうだ!僕としたことがなんて非紳士的な!君の話の途中で僕の話を!本当にすまない!」
括正は謝ると、少女はそういえばと思いながらも思いっきり手を振りました。
「いえいえ、私こそ自分が話をしてたことを忘れていました。ですけど大丈夫です。この国は武士の方が私みたいななりそこない奴隷の戦場漁りより身分が上なんですから、あなたのお話が優先されて当たり前です。」
少女は自分の理屈を言い終えると、括正は不機嫌そうな顔をしたので、彼女は少し動揺した。
「僕はそういう考え方嫌いだし、そういうのを当たり前にしてるこの国のやり方は嫌いだ。人はみな平等なはずだし、女性は大地に咲く輝きを放つために生まれた花なんだ!」
少女はそれを聞いて、赤面した。
「そう言われると照れますね。…話を続けていいですか?」
「どうぞ、どうぞ。今回はなるべく邪魔しないようにする。」
少女は話を続けるのだった。
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