第126話

 ヴェレンゲル基地を出撃したノーヴル・ラークスは、数時間ほどでラグート基地周辺まで進出している。

 反乱部隊に対する前線の司令部に到着したあと、一息入れる暇もなくラグート基地司令と面会することになった。

 ラグート基地司令はいかにも人のよさそうな雰囲気を漂わせた初老の男性であったが、あまり現場指揮の経験はなさそうな印象を受けた。実際、話を聞く限りでは主に補給部隊で物資管理などを行ってきたそうで、実戦は士官学校を出た直後にわずかに経験しただけだという。


(それでこの事態か……さぞかし苦労なされているんだろうな……)


 時々ひどく疲れたような表情を見せながらも、ジェノ隊長に現状の説明を行うラグート基地司令に対して、俺はそんな感想を抱いた。

 しかし、反乱を起こされたとはいえそこは基地司令だ。適材適所、上手く部下を動かしているようであり、代わって説明に立った副司令は実戦経験があるのか的確な説明をしてくれた。


「……現在、反乱部隊は基地を制圧しているのだが、周辺市街地への進出は我々の阻止行動により何とか防いでいる状況だ。そこで貴官たちノーヴル・ラークスには基地周辺に展開しているWPを筆頭にした機動兵器群を排除し、反乱部隊の戦意をくじいてもらいたい」

「反乱部隊は前線にWPを投入していないのですか?」

「腐っても彼らも共和国の軍人だ。条約違反となる対人戦闘を避けたいのだろう。前線には主に装甲車両を投入しているようだ」


 ジェノ隊長からの質問に対し、副司令は補足的な説明を加えた。


「そういえば、彼らから何か軍に対し要求などは出ているのでしょうか?」

「……三つある。まずマクリーン参謀総長の解任、続いて国防長官の辞任、最後に革命評議会に掌握されている西部地域への速やかな全面攻撃の実施だ」

「……最初の二つに対して、最後の要求は随分と具体的ですね」


 反乱部隊の主張について聞いた隊長は、やや腑に落ちないという感じで言葉を漏らす。前二つの要求がどちらかと言えば政治的な要求だったのに対して最後の要求は軍事的な要求で、内容も過激である。

 内容の詳細を聞いている訳ではないから何とも言えないが、どちらかと言えば最後の要求こそが反乱部隊の本命の要求で、残りの二つは要求の格好をつけるために後から付け足したような、そんな印象すら受ける。

 俺も何処か妙な印象を受けた。内容もそうだが、聞いたところ基地の軍務に不満があるわけではなさそうだし、基地司令も反乱が起きるなどとは思ってもいなかったようだ。

 そもそも、反乱部隊の主張にはもっともらしい内容が並んでいるが、直接すぐに改善が見込める中身が何一つない。もし何かに不満を抱くのだとしたら、身近にいない参謀総長や国防長官に不満を抱くより先にまず基地司令に不満を抱く方が先なはずだ。しかし、彼らは基地司令の身柄には興味がないようで、基地司令部の攻撃も積極的に行っていないらしい。

 そうすると、反乱部隊は身近に不満がないのにも関わらず、突如として反乱を起こしたことになる。

 何かがおかしい。

 俺が首を傾げている間にも、隊長と副司令官は質疑を続けていた。


「……反乱部隊のWPの配置は分かりますか?」

「正確には掴めていないが、彼らはWP運用の定石に則り三機一小隊の編成で基地内で待機する遊撃と、基地周辺で警戒に当たる前衛の二つに戦力を分けているようだ」

「なるほど、仮に前衛部隊に異変があった場合はすぐに基地内の遊撃部隊が援軍に駆けつけるという手筈ですか」


 副司令の答えに、質問をしたジェノ隊長は大きくうなずく。


「そういうことだ。他に何か質問はあるか?」

「いえ、今は大丈夫です。その他、細かな点についてはまた場所を改めましてお伺いいたします」

「苦労を掛けるな、トラバル大尉。諸君らの健闘を期待しているよ」

「はっ、司令のご期待に添えるよう最大限の力で任務を遂行いたします……全員、敬礼!」


 副司令官とのやり取りの後、改めて基地司令官から声を掛けられたジェノ隊長は直立不動の姿勢を取り、それに合わせてその場にいた俺達全員が改めて姿勢を正し基地司令と副司令に敬礼を送った。

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