第14話
そこは工場だった。
大小の様々なパーツが次々と作業員たちの手によって組み立てられ、一つの形となっていく。
完成したのは逆関節型の脚部を持った、ヒト型に限りなく近い兵器。
ウォー・パフォーマ。
ただし、その形状は現在軍で運用されている旧式の01型、現行モデルの02型、ロールアウトしたばかりの新型である03型のいずれとも異なっていた。
特に顕著なのは腕部である。右腕部こそ通常のWPと同じであるが、左腕部はT字形状の中型マシンガンに置き換えられていた。
脚部も03型に近いものの、よりマッシブな印象を与えるものになっている。
全身をダークグレーに塗装したその姿は、軍属のWPとはまた異なる不気味な雰囲気を
と、そこに一人の男が入ってくる。作業員たちは手を止めて男に敬礼を返す。
その男とは、襲撃事件を指揮していた『血塗られた英雄』だった。
「ご苦労さん。こいつが例の新型ってわけかい?」
「はい、開発コード01『スペクター』です」
それを聞いた男は満足げにうなずくと、返答を返した作業員のチーフらしき人物に続けて話した。
「なかなかいい出来具合だな。今の生産ペースは?」
「パーツ次第ですが、今なら一日3台まで確実にこなせます」
「次第によっちゃそれ以上も可能って訳か、上等上等」
チーフの回答に男は満足した様子であった。
「これから忙しくなるでしょうか?」
「間違いない。計画はフェーズ2に入るそうだ。となると、どうしても頭数を揃える必要が出てくる」
「休むなら今のうちでしょうかね?」
「そうしておくんだな。いずれ休む暇もなくなるだろうさ」
男はそう言ってその場から立ち去ろうとしたが、途中で思いとどまったかのように振り向いて言った。
「ところで、こいつはもう動かせる状態かい?」
工場の端に置かれていた先行試作機らしき機体を指さしている。
「それですか? 左腕部の動作確認がまだですが、基礎部分の稼働試験は既に終わっています」
「そうかい。なら、持ち出しても平気だな?」
その言葉にチーフは顔色を変えた。
「……まさか実戦で使うつもりですか?! 確かに問題なく動くでしょうが、まだ予備パーツや弾薬の手配が十分ではありませんし……」
「ふん、俺を誰だと思ってんだ? 『血塗られた英雄』って
そう言って、男はチーフにすごんでみせた。
「……リーダーの許可はもらっていますね?」
チーフは努めて冷静に、事務的な口調で問いかけた。
「あん? ……もちろんだとも」
そう言って男はククク……と低く嘲るように笑った。
時間が流れるのは、あっという間だった。
それまで担当していた作業任務を基地に補充された兵士に引継ぎ、私物をまとめて自室を引き上げ、復旧途上のヴェレンゲル基地を出たのがブリーフィングから五日後の話だった。当然、見送りも何もない、素っ気ない旅立ちであったが、別に僕たちが望んだわけでもない転属であったから、それくらいで丁度良かったのかもしれない。
僕たち、第一旅団予備操兵科第一小隊改め独立任務部隊の新たな拠点として選ばれたのは、リヴェルナ共和国西部に位置するヤーバリーズ基地だった。
ヤーバリーズは共和国西部の交通の要衝であり、経済的にも北部にある首都リヴェルナに次ぐ位置を占める大都市である。当然基地の規模も大きく、海軍を除く三軍がここに第二司令部を置いていた。
それまで共和国南部から出たことのなかった僕にとって、西部の大都市ヤーバリーズの光景は
「すごい……これがヤーバリーズ……」
僕は素直に感嘆の言葉を発した。
「そう言えば、ナオキはヤーバリーズは初めてだったか? どうだ、ヴェレンゲルとは比べ物にならねぇだろう?」
曹長に昇進したジャックが自慢げにそう言った。彼はヤーバリーズではないが西部の出身だ。自分の地元を誇らしく思うのは当然かもしれない。
「はい、南部とは全然違いますね。流石は共和国第二の都市だと思いますよ」
「そうだろ、そうだろ。ヤーバリーズはいいとこだぜ、マジで」
「ジャック、お国自慢はほどほどにしておけよ」
得意気に話すジャックに、隊長が苦笑いを浮かべながら言った。
「あー、隊長、大丈夫です。大切な戦友にちょっと地元のことをレクチャーしてやろうかと思って、ですね……?」
「教えてどうするつもりだったのかしら? 風紀違反になるようなことを教えないで頂戴ね」
「サフィール准尉まで……いやいやマジで大丈夫ですから、ね?」
ジャックが上目遣いでそう言うと、全員から笑いが起こった。
今回の独立任務部隊編成に先だって、僕以外のメンバーはそれぞれ一階級昇進することが言い渡された。隊長が少尉から中尉に、サフィール曹長が准尉に、ジャックが軍曹から曹長に昇進している。
僕の昇進については
これについては隊長からも謝罪の言葉をいただいていたが、軍の組織というのはそういうものであると僕は割り切っていた。
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