目が覚めたらスマホが大変なことになっていた
小紫-こむらさきー
俺のスマホ
朝、起きたらスマホから二つの大きなお山が出ていた。
「は?どうなってんのこれ」
「わたしは
スマホの画面から突き出た二つの小山は肌色をしている。
「なんでもお手伝いって…スマホの画面触れないじゃん…」
「おまかせください」プリプリプリン
昨日までは確かに平面だったはずなのに。画面から突き出た肌色の小山を見て溜息を吐いていると、
画面からモリモリと突き出ていた小山は熱したゼリーが溶けるみたいにどろりと形を変える。
俺のスマホは、元通り平面を取り戻した。
並ぶ各アプリの下に肌色のどうみてもさっきまで画面からはみ出ていたあいつがいて、待ち受けが変えられないのは不便だけど今は我慢しておこう。
電子書籍を読んで、今日更新をしたマンガも幾つか読んだところで俺はすっかり今朝の異変を忘れていた。
一人暮らしをしているせいで独り言が多いのが悪いんだと思う。
「あー。出かけたいけど今日の天気どうなんだっけ」
そんなありきたりな独り言。
しかし、
待っていましたと言わんばかりに勢いよく俺のスマホの画面は盛り上がる。
プリプリと生えてきたソレは朝見た通りの見事な二つの小山だった。
そして、不運なことにSNSに文章を打つためにスワイプをしていた俺の指が小山の谷間にある不思議な穴に吸い込まれる。
「世田谷区は現在気温26度で、曇っています。こんg…」ブルンブルンブルン
不思議な穴がスピーカーの役割を果たしていたのだろうか。天気を言っている途中で俺の指を飲み込んだせいで発生が不明瞭になった
変なぬめりけと温かさが気持ち悪くて俺が指を引き抜くと、
なんだよ…これ。
「天気はもういいから!ったく何なんだよこれは」
「私は
「うるせえ!」
「マナーモードにしますか?」プリプリプリン
そう言ったかと思うと、俺のスマホから突き出ている
微かな硫黄臭が部屋に漂ってくる。
「は?」
違う。
ブビビビビィ ブビビビビィ ブビビビビィ
硫黄臭を伴う濁った音。これは…。
思わず鼻を押さえながら、激しく振動をする谷間の皮膚を見る。
「マナーモードならせめてすかせよ。っていうかくさいからやめてそれ」
「失礼致しました」プリプリプリン
心なしか、上機嫌そうにそう答えた気がする
「とりあえず、スマホをまた使わせて」
「かしこまりました」プリプリプリン
スマホを使わせてといえば、とりあえずこの突き出た二つの突起物は画面の中へ戻ってくれる。
そして、特に呼び掛けなくても突然出てくる可能性がある。
これだけはわかった。
今日は休みだからいいけど、バイトがある日にこんなもん外に持って行けなくない?
スマホを買い換える金もないし、修理が有償だった場合のことを考えると気分が憂鬱になる。
「はあ。なんかへこんできた」
「よろしければ、いつでも私に元気が出る曲を再生するよう指示してくださいね」プリプリプリン
「おっ。少しは気が利くじゃん」
ちょっと考えるのに疲れてきた。もうこの際こいつのことをなんとかするのは後回しにしてテンションを上げよう。
「ミュージック プレイリスト、運動、再生」
「はい。プレイリスト 運動 再生をお届けします」プリプリプリン
ブビビビビィ~~~♪プップップッ
プピピィ~~~♪プップップッ
ブビビビビィブッブッブッブ~~~♪プップップッ
芳しい硫黄臭。温泉は身体を癒やす効果がある。きっとその香りにも人体を癒やしリラックスさせる効果が…。
「ってうるせーーーーーーーーーー!やめろ」
「音楽の再生をやめました」プリプリプリン
響いていた濁音のハーモニーはひとまず止まった。
まだメロディアスな曲調だったからよかったけど、これメタルとかが再生されたらなんらかの物体がスマホから部屋にまき散らされていた可能性がある。
というか、なんだよこいつ。音だけならまだいいけど、ちょっとやばいものを食べて限界みたいな臭いをさせやがって。
ゴオオオと部屋の対角にある空気清浄機が元気に音を立て始める。流石にさっきの自称マナーモードと今回の濁音と半濁音のきたねえハーモニーのせいで仕事をすべきだと気が付いたらしい。
「音楽再生も出来なくなったのか俺のスマホは」
「わかりました」プリプリ
ブンバボン!ボッボッボ!
ブリブリブリ
ブッボン!ボボボン!ブンバボン!
「やめろ!」
「音楽の再生をやめました」ショボプリン
激しい音楽(音楽ではない)を再生しはじめた
無機質な声色だとばかり思っていたけれど、少しだけ声に感情が乗っているように見える。
それか画面から相変わらず突き出ているこの二つの小山が元気に揺れたり、小さく揺れているかの差で感情があるかのように錯覚してしまうのかもしれない。
「クッソー…なんなんだよ…」
「かしこまりました」プリプリプリ
悪態を吐いたその時だった。
俺のスマホから生えている二つの小山が楽しそうに大きく一揺れした。
「は?」
やめろと、その一言さえ言えていればよかった。
でも、たらればの話だ。
人間は、信じられないことが起きたとき、固まることしか出来ない。
ブルル、と再びスマホから飛び出している肌色の二つ並んだ丸みを帯びた突起物が揺れる。
プスゥーとビニールボールから空気が漏れ出たみたいな音が響く。
その音からワンテンポおくれて漂う硫黄臭。
そしてプルプルと力んでいるように震えるスマホから突き出た二つの小山。
「うわーーーーーー!」
まるでマグマが噴き出すように、黄土色の半液状の物体がドロドロと小山の中央部から射出された。
俺の顔面めがけてまっすぐに飛んできたその黄土色のマグマを避けるように俺はスマホを放り投げた。
ガタンと床に落ちたスマホからは、まだ噴火は収まらない。
「やめろーーーー」
俺がそういったのは、フローリングの半分以上が飛び散った黄土色のマグマに汚染された後だった。
「ク…」
ここまで言って必死で悪態を我慢する。
また俺のスマホの活火山が元気に噴火したらたまらない。
泣きそうになりながら投げたスマホを拾い、悪臭が立ち籠める部屋をなんとかするために普段締め切っている窓を開けた。
「あ」
窓からは汚いドブ川が見える。
まだぷよぷよとやたらハリがある
「バカヤロー!」
スマホを握っている方の手を俺は思いきり振りかぶり、ドブ川へスマホをぶん投げた。
放射線を描いて飛んでいく俺のスマホは、そのままボチャンと音を立てて見えなくなる。
解放された…。
よくわからない黄土色のマグマを掃除するという任務は残っている物の俺は非常にすっきりとした気持ちで窓を閉めた。
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