新婚旅行と始祖の神
1
ほとんどリリアローズの強行で、エレノアとサーシャロッドは太陽の神の世界――太陽の宮に向かうこととなった。
身重のリーファはエレノアが心配なので一緒に行くと言っていたが、ラーファオとユアンの二人から止められて渋々留守番で落ち着いた。
月の宮の奥にある部屋が太陽の宮とつながっているそうで、実は行き来は意外と簡単なのだそうだ。もちろん、その部屋には出入りが制限されているために、誰もかれもが勝手にそれぞれの世界を行き来することはできないそうだが。
太陽の宮にある、フレイディーベルグの宮殿――太陽の宮殿は、サーシャロッドの月の宮殿とはだいぶ趣が異なった。
何と言うか――、派手。その一言に尽きる。
建物自体は、いくつもの棟が回廊でつながっているような形で、サーシャロッドの月の宮殿とよく似ている。だが、黄色や緑、オレンジなど、とにかくカラフルな柱が並び、あちこちに妙な形をした壺や置物が並べられていて、飾ってある絵画は何の絵なのかよくわからないし、廊下の天井からは星や魚のモチーフをした人形がいくつぶら下がっている。
「………に、にぎやかなところですね」
見た目が。だが、リリアローズには伝わらなかったらしい。
「そうかしら? ここには妖精さんたちもいないし、たまに庭のお花たちがおしゃべりするだけで、意外と静かなのよー?」
花がしゃべる? エレノアが首をひねったとき、突然庭先の方から「ケーケケケ!」と不気味な声が聞こえてきて、エレノアは思わず飛び上がった。
「ひぃ!」
「あーほら、ちょうどおしゃべりしているわ」
今日は楽しそうねー、などと当たり前のように笑っているリリアローズに、エレノアは少しゾッとする。
(楽しそう……?)
どう考えても聞いたものが呪われそうな声だった。楽しそうなんて感想は一ミリたりとも持てない。
サーシャロッドの腕にしがみついてぷるぷると震えていると、よしよしと頭が撫でられた。
「お前のこの不気味な住処は何とかならないのか」
エレノアの心の声を代弁するように、サーシャロッドが前を行くフレイディーベルグに言えば、彼は肩越しに振り返った。
「私に言われてもね。だって、リリーの趣味だし。言っても聞かないからね」
「あら、可愛らしいじゃありませんの」
「あー、うん。君と結婚して三十年になるけど、このあたりは永遠にわかりあえそうもないねー」
「ひどいですわ!」
リリアローズが拗ねたように頬を膨らませてフレイディーベルグの腕に甘える。
「相変わらず食事は丸焼きだし」
「あら、ちゃんと新し味付けを覚えたではありませんの」
「リリー、肉に砂糖をかけるのは味付けとは言わないんだよ。甘いものが食べてみたいと言ったけど肉を甘くしろとは言っていないからね?」
「じゃあ、今度はお酢にしますわ」
「わかった、リリー、今夜はお仕置きだ」
「いやん」
ポッと頬を染めたリリアローズに、どうして「お仕置き」でそんなに嬉しそうなんだとエレノアは怖くなる。
怖くなってサーシャロッドの腕にぎゅうぎゅう抱きつけば、察してくれたのか、優しく抱きしめてくれた。
「あいつらは相手にするな」
エレノアは、首輪につながっている鎖を引っ張られて、「あぁん!」と恍惚に浸っているリリアローズを見て、太陽の宮に来たことをひどく後悔したが後の祭りだった。
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