3
サーシャロッドはたまに変なスイッチが入ると思う。
昨晩、なかなか寝かせてもらえなかったエレノアは、眠たい目をこすりながらカイルと雪像を作っていた。
どうしてエレノアとカイルが雪像を作っているのかと言えば、すべてはカイルとラーファオのせいである。
最初は、リーファと仲良く雪像を作る予定だったのだ。
それなのに、当然のように現れたカイルとラーファオが喧嘩をはじめて、あれよあれよという間に、完成した雪像の出来栄えで勝負! という話になった。
もちろんラーファオが、リーファとカイルをペアにするはずもなく、エレノアはなぜかカイルと一緒に雪像を作っているのだ。
まったく子供みたいなんだから――とリーファもあきれていたが、隣でラーファオと雪を固めている様子を見ると、なんだか楽しそうだ。結婚して十年だと言うが、まるで恋人になったばかりのように仲良しな二人である。
雪像を作るための雪の塊を作りながら、エレノアはさてどんな雪像にしようかと考えた。
本当はサーシャロッドを作りたいけれど、絶対にうまく作れない。悩んだ末に、そう言えば妖精たちが「雪ウサギ」と言っていたのを思い出して、ウサギを作ることにした。
「ウサギなら、とってもリアルなウサギを作りましょう」
ラーファオと勝負中のカイルは拳を握って気合を入れ、ざくざくと雪を掘り返しては雪像の土台を積み上げていく。
エレノアはサーシャロッドにもらった広い手袋をつけた手で、ぺたぺたと雪の表面をなだらかにしていった。
サーシャロッドが出かける前に、「風邪を引くなよ」とマフラーを巻いてくれた首元が暖かい。
雪像がうまく出来たら、サーシャロッドは「上手にできたな」とほめてくれるだろうか。
想像するだけで嬉しくなって、エレノアは雪像づくりに没頭していたのだが。
「うわあ―――!」
「ゆきがー!」
「せっかくつくったのにー!」
突然後ろが騒がしくなって、エレノアが後ろを振り返れば、綺麗に作られた雪の像が、次々に崩れ去っていた。
「どうした!?」
カイルも驚いた様子で、近くにいた雪の妖精を捕まえて訊ねると、きちんと固めたはずの雪像が、いきなり崩れはじめたという。
崩れたのはたくさんある雪像のうちの一部だから、まだまだ雪の像は残っているが、雪の像は人が乗ったくらいでは崩れないほどきちんと固めるそうで、そう簡単には崩れ落ちないそうだ。
怪訝そうに雪だるまの妖精の話を聞くカイルの遠くうしろで、ぴょこんと何かが跳ねるのを見つけて、エレノアは目を凝らした。
(あれは……?)
ぴょんぴょんと、それは跳ねるように雪山の方へと消えて行った。
「黒い雪だるまの妖精?」
冷えてきたので、雪像づくりを中断して温まりに城の中へ戻れば、今朝どこかへ出かけていたサーシャロッドが帰ってきていた。
エレノアはリーファやラーファオ、カイルとともに部屋で温まっていたが、サーシャロッドの姿を見つけて先ほど見た「もの」を口にすると、サーシャロッドが首をひねる。
「聞いたことはないな。雪だるまの妖精はみんな白いはずだが。カイル、知っているか?」
「僕も聞いたことはありませんね」
「エレノア様、本当にそんなものを見たんですか?」
寒がりなラーファオは暖炉に一番近いところで暖を取っていたが、訝しそうに振り返った。
「その、見たと言えば見たような……。遠くだったので見間違いかもしれないので、確かではないんですけど」
途端に自信がなくなってきてシュンと俯けば、サーシャロッドに抱きしめられる。そして、エレノアの頬の冷たさに驚いた彼は、両手で頬を優しく包んでくれた。
「エレノアが見たというならいたのかもしれないな。突然雪像が崩れ落ちるのも妙だ。調べてもいいかもしれない」
「そうですね……」
カイルは小さく頷いて、「母に話してきます」と席を立つ。
「エレノア様、紅茶が入りましたわ」
リーファに紅茶を手渡されて、エレノアはまだ熱いそれを、ちびちびと舐めるように飲んだ。
ラーファオも妻に呼ばれて暖炉のそばからこちらへやってくる。
「もしエレノア様が見た黒い雪だるまの妖精がいたとして、雪だるまの妖精が雪像を壊すとはどうも思えませんけどね」
「それについてはそうかもしれない。だが、エレノアが言うのは雪山の方へ消えて行ったのだろう? 何か知っているかもしれないな」
「まあ、その可能性もありますか。にわかには信じがたいですけどね。だって黒い雪なんて見たことがありませんから」
雪だるまの妖精が黒かったら、それはもう「雪だるま」じゃないとラーファオが言う。言われてみれば確かにそうだ。
エレノアは少し首を傾げて、
「じゃあ……黒だるまでしょうか?」
ぽやん、とそんなことを言えば、ぷっとサーシャロッドが吹き出して、ラーファオががっくりと肩を落とした。
「エレノア様、俺たちは呼び方について協議しているんじゃなくてですね……」
しかしそれ以上説明するのが疲れたのか、ラーファオは「もういいです」と苦笑した。
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