第6話 サイコメトリーとお金の話
※ガネシとは、ヒンドゥー教のガネーシャをモチーフにした架空の生き物です。ねずみのラッタ♂と子猫のビラロ♀と一緒に地球でたくさんの経験を積んでいます。
「見て、ガネシ!散歩してたらこれを拾ったんだ!」
「何それ?コイン?」
「何って、これはお金だよ。人間はこれで自分が欲しいものを買うみたいだぞ」
「そうなんだ、貸してみて」
ガネシは百円玉に触れた。百円玉にはたくさんの感情と人々の記憶が入り混じっていた。走馬灯のようにガネシの脳裏に次から次へと浮かび上がった。
(なんだあいつまた人を責めてんのか。人のせいにしてばかりで自分はなんなんだよ。あーイライラするなぁ。タバコでも吸うか。ん・・・?またタバコ切らしたわ。自販機でタバコ買ってくっか)
(百円見ーっけた!やった!これで駄菓子が買える!)
(あぁ、またお金使っちゃった。何かとお金がかかるわね。出ていくお金が増えるばかりで収入が増えやしないわ)
(あれ?百円落としちゃった。まぁでも百円だからいっか)
(このお金誰が触ったかわからないな)
(今日も疲れたなぁ。自販機でコーヒーでも買って、もう一仕事するかぁ・・・。いつになったら家に帰れるんだろう)
「なんだかすごい悲観的な感情がたくさん詰まっているよ、このコインに。なんだろうこれ、気持ちがいいものではないよ」
「ガネシ大丈夫?顔色悪いわよ。物にもね、記憶が宿るのよ。人間界でもそれはプラナリアの実験で実証済みなのよ」
「プラナリアの実験?なんだそりゃ」
「簡単に言うと、プラナリアという再生能力のある虫に『光がある場所に餌がある』というトレーニングを行った。そして頭部を切断、頭部再生後、プラナリアに餌を探させたの。すると餌への到達時間がトレーニング後の時間と同じ速さだった」
「たまたまじゃないのか」
「これだけではないわ。人間はね、医療といって人間の体の治療をする技術が発達しているんだけど、その治療に臓器移植というものがあるの」
「臓器・・・移植・・・?まさか・・・?」
「そのまさかよ。臓器不全を起こしている人の臓器を取り出して、他人の健康な臓器を移植するの。まぁ、それでたくさんの命が救われているのだから、それはそれでいいと思うの。だけどね、驚くのはこの先で、臓器移植をした人に、その臓器を持っていた人の記憶が宿ることがあるの。これってきっと臓器にも記憶が宿るってことでしょ」
「なるほど・・・。ということはオイラのこの手にも、尻尾にも、オイラの記憶の一部が宿っているってことか」
「そういうこと。そしてその物に宿る記憶を読み取る力をサイコメトリーというのよ。ガネシはたくさんの能力を持っているのね。サイコメトリーまで持っているなんて驚きよ」
「サイコメトリーか。いつか人の役に立つ日が来るのかな」
「そうね・・・。人が持っているものからその人がどんな人で、どんな経験をして、どんな人なのかがわかるものしれないけれど、ガネシは神通力でもわかるものね。あって損はないと思うけれど、もしかしたらなくてもよかったかもしれないわね」
「そうだよね、まぁ深く考えないようにするよ。ちなみにそのお金なんだけどね。そのお金自体にも意思というか、念というか・・・。気持ち?に近いのかな、が読み取れるよ」
「まじでか、なんて言ってるんだ?」
「もっと大切にして欲しいんだって。でもそれはどの生き物も、どの物でも同じ気持ちなんだよ。このコインはね、いつも雑に扱われてきたみたい。人間がテーブルに向かってこのコインを投げるところが見える。パンパンの財布に苦しそうに入っているところも。そんなところにはもう二度と行きたくない、行かないって言っているよ。お金、大切にしてあげないとね」
「わかった!オイラがこの子を大切にしてやるよ!水で綺麗に洗ってあげて、そうだな、何か柔らかいものの上にでも乗せて飾ってあげるか。日向ぼっこもしてみるか?」
「ラッタってそういう素直なところもあるのね、感心したわ」
「ラッタはいつも素直だよ。素直で思ったことをなんでも言っちゃうんだよ」
「話す前にちょっとは考えた方がいいわね」
「オイラは何も聞こえないー何も聞こえないー、キュッキュッ。おっ!綺麗になったぞ!よかったな!」
「ありがとう、本当にありがとうってラッタにお礼を言っているよ。よかったね」
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