第3話 2万円
俺の実家が火事に遭ったそうだが.....これといって実感が沸かない。
それもその筈だろう。
何故かと言えば.....俺が借金を肩代わりされて実家を捨てたから、だ。
金の執着が凄すぎて.....俺は吐き気がしていた。
その為に.....なんの執着も無い。
だがその火災によって.....俺の部屋に女子高生が住む事になった。
クソ親は女子高生に、俺の所に行く様に、と説得した様だったが.....。
この理由を聞く為にクソ親に連絡するが.....全く繋がらない。
どこまで行っても堕ちているなアイツら。
思いながら俺は電話が掛かって来るまでこっちから連絡しない事にした。
そしてその日の夜中の事だ。
俺はバスタオルに包まり横になって。
それから布団で沙穂が寝る。
俺は.....暫く考えていたのだがそうしていると。
沙穂が聞いてきた。
「小五郎さん」
「.....何だ?」
「.....私が布団で寝ても良いのですか?私がそこで寝る必要が有ると思いますが.....」
「.....お前は女の子だろ」
女の子だからって.....と沙穂は遠慮しがちに俺を見る。
俺は視線を感じながらも沙穂に向かずに壁を見る。
沙穂は、優しいですね、と言う。
俺は.....その言葉に、いいや、と答える。
「.....俺は優しく無いよ」
「.....優しいです。少なくとも私が見た限り.....優しいです」
「.....」
「.....私、小五郎さんに出会ってよかったです。本当に優しくしてもらえて.....幸せです」
この程度で幸せを感じるのか。
考えながら.....沙穂の言葉を聞く。
そうしていると沙穂が寝息を立てていた。
俺は.....少しだけ口角を上げて。
そして沙穂に布団を被せた。
疲れているんだろうな、と思いながら、だ。
☆
「小五郎さん。朝ですよ」
「う、うーん」
「.....遅刻しちゃいますよー」
「.....はっ!」
悩んでいると沙穂が居るのを思い出して飛び起きた。
そして沙穂の方を見る。
沙穂はニコッと柔和な顔で俺に接していた。
ゆっくりと、おはようございます、と言う沙穂。
その言葉に頭をガリガリしながら答えた。
「.....ああ、おはよ.....」
「.....今日もお仕事ですか?」
「.....そうなる。申し訳無いけど俺の会社ブラックだから遅くなる」
「.....そうなんですね」
働くって大変ですね。
私も.....経験しましたけど.....と淀む沙穂。
俺は頭を掻きながら欠伸をして起きる。
そして沙穂の頭にぽんっと手を乗せて.....スーツを取った。
「沙穂。お前の生活用品が要るよな」
「.....え?要らないですよ.....ご迷惑を相当お掛けしているのに」
「.....良いから。要るよな」
俺はキッときつめに見る。
そして.....沙穂は俺に対してモジモジしつつ。
ゆっくりと答えを言った。
「.....は.....はい.....色々と要ります.....」
「.....じゃあ買って来い。1万円で良いか。2万要るか」
「そ、そんなに要らないですよ!?」
「.....良いから。持って行きな。足りなかったら困るだろ。金持ってないんだろ?」
そして俺は財布の中から万札を二枚出して渡した。
そのお陰ですっからかんだけど。
だけど有意義な使い方だ。
思いながら.....沙穂を見る。
沙穂は.....涙を浮かべていた.....!?
「.....こんなに.....嬉しい事って.....」
「い、いや、泣くなよ.....!」
「.....小五郎さんが優しいからです」
そしてその大きな瞳に有る涙を拭ながら。
満面の可愛らしい笑みを浮かべた。
それから.....エプロンを沙穂は身に着ける。
そして。
「.....ご飯を準備します。何かご要望有りますか?」
「.....ご要望って.....。この家ってあんまり食材無いだろ」
「ん?.....あ、買いに行きますから」
「.....いやいや、無理すんなよ?」
全然無理じゃ無いです。
私、小五郎さんに出会ってから幸せな事ばかりです。
とっても嬉しいですから。
と笑顔。
俺は.....溜息を吐きながら昨日のオムレツを思い出した。
味噌汁とか作れるのだろうか。
味噌有ったっけか。
「.....味噌汁が飲みたい感じだが.....可能か?」
「.....はい。ご要望、受けたまりました!」
ビシッと額に手を添える。
まるで敬礼の様な感じで、だ。
俺はニコッと笑む沙穂に苦笑しながら、有難う、と呟いた。
それを受け取った様に、じゃあ作りますね、と鼻歌混じりで台所に向かう、沙穂。
しかし.....。
「.....幸せ.....か」
「.....?.....え?何か言いました?」
「.....いいや。何もな」
幸せってこういうのを言うんだろうな。
長らく.....忘れていた。
考えながら.....俺は出勤の準備を整え始めた。
顔を洗ったりして、だ。
その間に.....味噌汁もどきが出来た。
味噌が無いのに.....信じられない感じだが。
凄い.....美味かった。
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