十二 自宅にて
「だだいまっと」
ミーケが言うと、一郎達は、ゲーム前ロビー内にある一郎の家の一室の中に移動して来ていた。
「うわわわ。凄いのです」
ガオガブが部屋の中を見回す。
「はあー!? なんで、ガオガブ?」
ミーケが声を上げる。
「うーんと、なのです。お嫁さんだから、なのです?」
ガオガブが言ってコケティッシュに小首を傾げる。
「おまええぇぇ!! あざといんじゃボケー」
ミーケが全身の毛を逆立てて声を上げる。
「まあまあ、ミーケ。お前には、エム郎がいるだろ?」
「ハーイ」
椅子になっているエム郎が言い、にっこりと微笑んだ。
「ちっ。今はそう言う気分じゃない。エム郎。ハウス、ハウス」
「キャイーン」
ミーケの言葉を聞いたエム郎が言って、消えて行く。
「帰して良かったのか?」
「べ、別に、本当のジャベリンがそばにいるからいいや、なんて思ってないんだからね」
ミーケが上目遣いになって一郎を見る。
「ふう。家に帰って来た事だし、この鎧を脱ぐか」
だが、一郎はそんなミーケには目もくれずに鎧を脱ごうとしていた。
「うーん。ミーケの立ち位置おかしくない? メインヒロインなんだよね?」
ミーケが小さな声で言う。
「旦那様。お風呂にしますか? それとも、御飯にしますか? それとも、ガ・オ・ガ・ブ?」
ガオガブが耳の先まで真っ赤に染めて言った。
「ぶひー!! もう。ガオガブちゃん最高!!」
一郎が鎧を脱ぐと、超有名な大泥棒のように宙を舞う。
「脱ぐんじゃねえ!!」
ミーケが声を上げ、空中にいる一郎の足を掴む。
「はうあっ」
空中でバランスを崩した一郎が部屋の真ん中にあったちゃぶ台に頭を派手にぶつけて、畳の上に転がる。
「だ、旦那様」
ガオガブが一郎に駆け寄ると、一郎をそっと抱き起こし、膝枕をする。
「ガオガブちゃん。本当にありがとう」
「旦那様。でも、服を着た方が」
顔を手で覆っていたガオガブだったが、また指の隙間を大きく開けていた。
「あ。そっか。俺ったらもう」
一郎は言い、すぐにアドミニミニコード、服。と言葉を付け足す。
「見たのだ。証拠なのだ。お前が、チーター達を狩っているというボットなのだ!」
突然、女の子の声がしたと思うと、天井の一部が割れ、紺色のスクール水着に身を包んだムチムチの女子高生くらい年齢の女の子が降って来た。
「な、な、な、な」
一郎は予期せぬ出来事に動揺し言葉を失う。
「シャアアアアアア」
ミーケが四つん這いになり、背中を弓なりに曲げて激しく威嚇する。
「いきなり浮気なのです? 修羅場なのです?」
ガオガブが言って、口を大きく開くと、口の中に赤色の光が生まれる。
「ふふふふ。見て聞いて驚けなのだ。わっちはくノ一なのだ。くノ一のお銀なのだ!」
そう言い放ったお銀が、顔をつんっと上に向けるという謎のポーズを取る。じゃーという音がし、お銀の上半身が、赤色の怪光線に飲み込まれる。
「浮気は許さないのです」
「けほっ。ごほっ。ちょっと、何をするのだ? 髪の毛がちりちりなのだ」
くノ一お銀の頭はアフロになっていた。
「アフロになってる」
一郎は思わず吹き出してしまう。
「アフロにスク水にくノ一って、お前絶対に馬鹿だろ」
ミーケが笑いをこらえつつ言う。
「何やら耐性を持っているようなのです。もう一度」
「ガオガブちゃん。待った。もういい。壁。穴になってるから。ね。とりあえず、落ち着こう」
一郎は慌ててガオガブを止める。
「でも、浮気で修羅場なのです」
ガオガブが悲しそうな顔をする。
「いやいやいや。ガオガブちゃん。俺、この人の事、まったく知らないから。全然浮気で修羅場じゃないから」
「そうなのです?」
ガオガブがじいーっとつぶらな瞳で一郎を見つめる。
「うん。かわいいかわいい」
一郎はガオガブの着ぐるみの頭を撫でる。
「えへへへ。撫でられるの気持ちいいのです」
ガオガブが微笑む。
「けっ。やってらんね。で。お前、なんなの? ミーケ達の事探ってんの? 事と次第によっちゃあ、酷い目にあわすぞ」
ミーケがお銀に詰め寄る。
「何もしゃべらないのだ。どんな拷問でも我慢するのだ」
「ほほお。どんな事をされてもしゃべらないと?」
一郎はガオガブから離れると、ずずいと前に出る。
「どうしたジャベリン?」
「旦那様?」
ミーケとガオガブが言う。
「君達はこれで、買い物にでも行って来なさい。ここは、この家の主として、俺が役目を果たす。くノ一。拷問とくれば、ねえ」
一郎はミーケとガオガブの方に顔を向けると、デルージョン内で使える共通ギフトクーポン券五千円分を差し出す。
「五千円も? いいのか?」
ミーケが目を輝かす。
「これは、なんなのです?」
ガオガブが五千円クーポンに噛み付く。
「こら。噛み付く物ではありません。ガオガブちゃん。これはミーケに渡しとくから、使い方を教わるんだよ」
一郎は優しくたしなめる。
「ごめんなさいなのです。つい、噛み付いてしまったのです。はいなのです」
ガオガブが恥ずかしそうにしながら五千円クーポンから口を放した。
「じゃあ、行って来るな。お土産はねーから」
「行って来るのです」
ミーケとガオガブが部屋から出て行く。一郎は二人が部屋の中から出るのを確認すると、ゆっくりと、お銀の方に顔を向けた。
「さて。お銀とやら。分かっておるのう? そちのこの度の行い、誠に、無礼であるぞ」
一郎はその気になって言う。
「は、はあ? 何言ってるのか全然分からないのだ」
お銀がアホの子の顔をする。
「うーん。ごめん。くノ一だから、こういうのがいいのかと」
「お銀は帰国子女なのだ。生まれてからほとんどアメリカにいたから、日本の事はあまりよく知らないのだ」
お銀が嬉しそうに言う。
「ふむ。そうすると、君はプレーヤーなのか?」
「そうなのだ。ギルドDQディーキューのメンバーなのだ」
ギルド? 一郎はそう呟いて小首を傾げる。
「ギルドマスターがお銀をくノ一にしてくれたのだ。どうだ? なのだ。この鎖帷子格好良いだろう? なのだ」
「へ? 鎖帷子?」
スリーサイズは、うんのうんのうん。まあ、普通だ。本人の為に数値化はしないでおくけれど。いや。そんな事より。この子、スク水と白ニーソしか着ていないぞ。一郎はお銀を凝視しつつそう思う。
「なんだ? なのだ。知らないのか? なのだ。これなのだ。この来ているのがそうなのだ。防御力が凄いのだそうなのだ」
お銀がスク水を触る。
「お銀。お前、本気で言っているのか?」
「うん? なのだ? お銀はいつだって本気なのだ」
騙だまされてるのか? この子、いじめにあってるのか? いや。待てよ。俺にはスク水に見えるけど、実は、鎖帷子なのか? 一郎はそう思い、首を傾げる。
「なあ、触ってみていいか?」
「何をなのだ?」
「鎖帷子」
一郎はお銀のそばに行く。
「ふっふーん。しょうがないのだ。鎖帷子は高価だからなのだ。特別に触らせてやるのだ」
お銀が言ってぷりっと一郎に向けてお尻を突き出す。
「おっおー!」
一郎は五のダメージを受けた。
「さあ、撫でるといいのだ」
なんだ、この子。やっぱり、アメリカ帰りは違うというのか? オープンなのか? 色々と、オープンなのか? そう思いつつ、一郎はじりじりと手をお尻に向かって伸ばす。
「ちょ、えー? 駄目駄目駄目!! なんか違うのだ。これは駄目なのだ」
一郎が、エロゲーで鍛えたスキルを存分に発揮してお尻を撫でまくると、お銀が飛び上がって逃げながら叫ぶ。
「えー? なんだよー。まだまだこれからだったのにー」
一郎は不満たらたらだ。
「これは、ただのスケベなのだ。くノ一はこういう事は駄目なのだ」
「いや、でも、鎖帷子」
一郎はゆっくりと、手を伸ばしつつ、お銀に近付く。
「鎖帷子は」
お銀が自分の来ているスク水に手で触れる。
「おかしいのだ。これは、なんというか、ただの水着のようなのだ」
「まさか、前に触った時は、違っていたとか?」
一郎の言葉に、お銀が首を左右に振る。
「いや。前からこうだったのだ。けど、ギルドマスターがこれは鎖帷子だからと言い張ったのだ」
「いい人だね、その人」
一郎は心からエールを送った。
「うーん。でも、ギルドマスターが嘘を言うはずはないのだ。何かの間違いなのだ。もう一度触ってみるのだ」
お銀が言って、またぷりっとお尻を出す。
「うーん。ナイスですよー」
一郎は、ぐへへっへへと、手をお尻に向かって伸ばす。
「ただいまー」
「ただいまーなのです」
ミーケとガオガブが部屋の中に入って来た。一郎はのちにその時の状況を思い出し、部屋の温度が変わるという現象を身を持って知ったと語ったという。
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