短編集

りると

火事と少女

夜、12時過ぎに僕は日課のゲームを終え、歯磨きをし、親と軽く雑談を交わした。


「今日のケーキ、美味しかったわ〜」

「あそこのケーキだけはうまい。たまに食べるのが一番や。」


2時間ほど前に食べていたケーキに大満足して、気分が良かった僕は父に眠りにつくことを伝え、自分の部屋へと戻った。

--明日は朝からゲームをしよう--

せっかくの休日であった、遊ばねは損であると僕は思う。

寝巻きに着替え、布団に入った。






気づくと私は、火事の現場を見ていた。

火元は古いアパートの二階の部屋らしい。

その部屋だというベランダには、救出を求める少女がいた。

年は10、いくか行かないかのまだ幼子だ。

それから顔を出すので精一杯であるように受け取れた。


「助けて!お姉さん!助けて、熱いよ!」


必死に叫ぶ彼女、面識はなかったが、たしかに私に助けを求めているのだと分かった。

しかし、私は無力だった。

ただ少女が不安と恐怖で泣き叫ぶのを見つめるしかなかったのだ。

消防は呼んでいたが、彼女は間に合わなかったらしく、消化後に遺体として運ばれていった。

その姿は生前とはかけ離れた状態だったが、それが私には不思議とあの子だと分かった。

焼け焦げた肌と、建物が焼けていた匂いが漂っていた。

遠目であったが、私はショックで食事や趣味でさえしようと思えず、一週間がたった。

仕事にはいくがすべてが苦痛で、常に吐き気が伴い熱っぽく感じていた。

目眩も引き起こし、さすがにおかしいと思い内科に行くも原因不明、精神科を受診することを勧められた。

行ってみると、精神的に問題があると言われた。

それからというもの治療に専念し、先生にも恵まれたため、二ヶ月後には社会復帰も叶った。

しかし、あの火事からちょうど三ヶ月ほどたった休日にインターホンがなった。


「はーい」


その時には症状も粗方治り、あのことも忘れていた。

何かの配達かな?と思いながら玄関を開けた。

そこにはあの時の焼け焦げたままの少女が。


「ア…ソボ」


口が小さく開き、そう声を出した彼女。

私はフラッシュバックをまた引き起こして、勢い良くドアを閉め鍵を掛けて寝床に震えて引き篭もった。

恐怖に溢れ、ひどくうなだれ、そのまま何時間もそうして過ごした。

しかしその時間も長くは続かなかった。

突然の空襲警報。

このご時世でも、それが鳴り響く事はとても珍しかった。

必要と思ったもののみをリュックに詰め込み、ベランダから外に出ると、そこはもう大惨事どころでは無かった。

焼け行く人々、火事にまたあの時と同じような臭いが漂う瓦礫の山々。

もう、何も思わなかった。

とぼとぼと歩いて行く。

ただ歩く。

どこを歩いているのかもわからずに。

ただひたすらに歩いた。気づくと周りには焼け焦げた人間の死体がいくとも転がっていて、あの臭いに混ざる人間の焼けた悪臭が鼻に届く。

なんとも言えずただ、言葉にならぬ言葉で叫び走った。

疲れ果て、たどり着いた先は自分の家だった。

家に帰ろうと歩き出す。

すると目の前で燃えて行く家が。

その時、あの少女が脳裏によぎる。

あの子が燃やしたんだ、きっとそうだ、何もしなかった私への復讐なのだと感じた。






目を覚まし、今までのそれらが夢だったと悟った僕だが、それでもただ怖く、眠るのがしんどく感じて、リビングへと逃げた。

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