2章 高校生最後の日(恋愛、コメディ)

1.1 長いこと巻くんに恋をしていました

 私、長井斗貴(ながい とき)はそれはもう、長いこと巻くんに恋をしていました。1年生でクラスが一緒になって以来ずっと。


 やたら背が高いこと以外これといった特徴のない巻くん。なんとか表情を読み取れる分の幅だけを確保した細目にあたりさわりのない鼻や口。実用的だろう、と言わんばかりの男の子らしい短髪がよく似合っています。

 

 なんで巻くんなのかと聞かれても答えようがないのですが、彼はこう、間がいいのです。


 起立、気をつけ、礼。そんな一挙手一投足がいちいち速い。


 びしっと動きます。終わるとのてー、っと止まったままになります。


 動くときは一瞬、あとはずっとのったり。そんな動きがとにかく可愛いのです。


 自覚したのは1年の夏休み。家でほけーっとだらけながら、そういえば巻くんはくつろぐときもきびきびしているのかな、と思ったあたりです。


 縁側で寝っ転がっている巻くんが立ち上がって冷蔵庫にのそのそと歩み寄り、急に扉をばたっ開けてしゅたっとペットボトルを取り出し、扉をぴしゃっと閉める。

 

 腰に手を当ててゆっくりと麦茶をペットボトルから直飲みした後、しばし余韻にひたる。そしてまたばたっ、しゅたっ、ぴしゃっ、とペットボトルをしまう。


 終わるとまたのそのそと縁側に戻ってぐだっと寝っ転がる。


 そんな勝手な想像をして、ああ、そんな巻くんをずっと見ていたら楽しいだろうな、と。


 気持ち悪くひとりでふふ、と笑ったあたりで気付いてしまったんですね、これが。巻くん好きだな、って。かなり前から、かなりの強度で好きだな、って。

 

 さて。


 夏休みが終わって2学期。


 私といえば、さして背が高いわけでも低いわけでもなく、そこに肉付きが十分であると主張するには若干無理がある胸をくっつけています。

 純和風の黒目と、肩に届くかどうかという無難な長さの黒髪。絵に起こしたら省略されてしまいそうな低い鼻と目立たない口。人様に自慢できるような部分は特にありません。


 黙っていてお声がかかるような美人でないことは分かっているつもりです。

 

 なにかと巻くんのそばをうろちょろしてみるのですが事務連絡以上のお話がなかなかできません。


 わりと一緒にいる時間は長かったと思うんですけどね。話が弾むかんじになかなかならなくて。


 もういっそ直接想いを告げよう。


 この頃からもう、そう思ってはいたのです。


 ただこれが存外に難しい。いやまああれですよ。言えませんよ普通。こっぱずかしい。分かりますよね?


 うちの高校は3年生から文系・理系が分かれます。ただでさえ同じになるのが難しいクラス分け。文理が違ってしまうと確実に別クラスです。


 とはいえ、さすがに将来に関わることなので巻くんに合わせるというわけにはいきません。自分で理系を選択します。


 ……嘘です。聞く勇気がなかっただけです。なんかもうそれだけで告っちゃってるのとおんなじでしょ、無理! とか思っていたのは私です。


 今思えば真面目に進路を考えているふりしてお話しすればよかったですね。


 結果。

 じゃじゃん。

 巻くん理系でした。

 そして同じクラスでした。

 ばんざーい!

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