初めての経験
「おねがい、相沢さん。合コンに参加してくれない?」
デスクワーク中、一つ年上の先輩から手を合わせて頼まれた。
「いや……。私、結婚してるし、無理ですよ」
「かまわないから。人数そろわなくて、お願い」
私がかまうんですけど……。
「いつですか?」
「今日、今夜。お願い」
そりゃまた、誰かドタキャンしたな。
「良いですけど。本当に、数合わせ要員ですからね」
「ありがとう。恩に着る。この礼は必ず」
なんて、当てにならない礼の約束をして先輩は行ってしまった。
合コン……かぁ。
ちょっと、興味あったりして。
だってねぇ、大学出てすぐに結婚して、それまでも拓海くんがずっとくっついてたから、そういう経験無いんだよね。
そうそう、連絡入れなきゃね。
『今日は、会社の先輩に誘われたので遅くなります。合コンの数合わせだって。場所は…………』
これでよしっと、さて仕事、仕事。
「先輩。私、この服で良かったんですかね」
まぁ、こんな事になるとは思わなかったので、普通にパンツの上にざっくりしたインナーと上着って感じなんですけどね。
「十分可愛いよ。さすが、美佳ちゃん。でも、男の人の注目集めないでよ。真剣に相手探してる子もいるんだから」
いや、私そんなにモテないから。
学生時代、誰も声かけてくれなかったから……。
「へ~。普通の居酒屋……の個室でするんですね」
「本当に、初めてなんだ。大学とかでしなかった?」
「全然。誘われもしなっかったんですよね」
私は、先輩と隣同士に座ってボソボソと話していた。
ちなみに、今日のメンバーは男女5人ずつ。
女性陣は、同じ会社の部署の違う……新人がメインかな?
私、もう26歳だもんね、年増だよ。
男性陣は、そこそこ大手企業の……営業の人だったり内勤の人だったり。
まぁ、営業の男性が盛り上げ役って感じかな? 男性陣の世話役で参加してるんだろうな。
彼女いそう。
ふ~ん。男女に分かれて座ってると思ったら、だんだん席を移動したりするんだ。
……で、なんで私は男二人に挟まれてんだ?
先輩から、盛り下がるから結婚してるって言わないでくれる? って、頼まれたけど。
「あの……。私、年増ですよ。もう26だし……」
言外に、『ほら、あそこに若い子があぶれてますよ』って言ってるんだけど……。
「へぇ~、君のまわりって見る目の無い男ばかりなんだね」
さっきの盛り上げ役のお兄さんが私から離れない。
いや、あんた絶対彼女いるよね。
「あなたこそ、まわりがほっとかないでしょ?」
名前は、知らん。自己紹介なんかほとんど頭に入れなかった。
私は、そそっとそいつから距離を取る……と、反対の男にぶつかった。
まだ、こっちの方がマシかな? いかにもコミ障っぽい……かなり、若く見えるけど。
見ると、グラスが空だ。
「何か頼む?」
「あ……はい。え……と」
グズグズしてるなぁ~。なんかこの席、居心地が悪い。
うちの若い子達から、睨まれてるし……。
合コンって、こんな感じなんだ。
相手を探しているのなら、楽しいんだろうけどな~。
まぁ、そんな感じでも、無事にカップルになった子もいるし、私も未知の経験が出来たし……。
店の外に出て、感慨に浸っていたら。
「ねぇ、飲み直しに行かない?」
まだ、私から離れないや、この男。
「ごめんなさい。家で待っている
軽くいなして帰ろうとすると腕を掴まれた。
ちょっと。
「まだ、良いだろう? ちゃんと送っていくからさ」
身体密着させてくるな、気持ち悪い。
この男の反対側から、スッと腰に手をかけ私を引き離してくれる人がいた。
「美佳ちゃん、お役目ご苦労様。楽しかった? 合コン」
自分の腕の中に私を収め、そんなことを聞いてくる。
まだ、私の腕はさっきの男に掴まれたままだけど……。
私は、上を向いて拓海くんを見る。
先程の甘い
私を口説いていた相手は、慌てて私の手を離すと、逃げるようにどっかに行ってしまった。
「ダメだよ。美佳ちゃん、モテるんだから油断しないで」
拓美くんは優しく私に言ってくる。
「え……と、ごめんね」
「謝らなくていいよ。会社の人から言われて断れなかったんだろう? だから、正直に合コンって書いて、場所まで僕に教えてくれて……。だからいいよ」
そう言って、拓海くんは笑ってくれた。
「それで、楽しかった?」
「全然。拓海くんと居る方が良い」
「じゃ、遠回りして帰ろうか。僕、車で来ちゃったからお酒飲めないし」
返事代わりに、拓海くんの腕に両手を回してしがみつき、一緒につかの間のドライブを楽しんだのだった。
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