第101話 完全に侵略者目線
<リンゴ>によるテフェン戦の
「何らかの外的要因により、
「自我演算領域…?」
初めて聞く単語に、彼女は首を傾げた。とはいえ、
「
電磁波は検知されていませんので、こちらが検出できない何らかの手段により
「…。…?」
しばし、
「んー…。いわゆる、テレパシーとか念話とか、そんな感じのものかしら?」
「
「なるほどね。でも、それでもある程度なのね」
「
魔法技術については、本格的に解析が必要になるだろう。
できれば<セルケト>系のサンプルを入手したいが、少なくともテフェンには手を出したくない。余計な刺激を与えるのは避けるべきである。
そうすると、他の<セルケト>の群れを攫うか何かすることになるのだが。
「あいつら、遠距離通信っぽい動きしてたわよね」
「
こちらから手を出すと、攻撃、侵略と見なされ敵対される可能性を考えなければならない。
距離を取れば遠距離通信が途切れるなどであればよいのだが、それを確認する術は無い。
「んー…。保留。保留ね。とりあえず、当面は石油よ」
石油の採掘は順調に進んでいる。多輪連結運搬車に汲み上げた石油を積込み、貨物船に設置したタンクへ移す。そろそろ、貨物船のタンクが一杯になる頃だ。
第2要塞の石油精製プラントはまだ建設中のため、そのまま<ザ・ツリー>へ運び込む予定である。
第1便の容量は、およそ千トン程度。
石油タンカーが完成すれば、これが5万トンほどになる。
5~6回往復させるだけで、当初の<ザ・ツリー>備蓄石油と同じ程度の量を確保できるということだ。
「樹脂は文明の基礎じゃ…。化学薬品も作り放題…」
「
「そういえば、肥料も作れるんだっけ」
「
「うむ、分からん! まあ、ハーバー・ボッシュ法ってのは聞いたことあるわね。ウチでもできるんでしょう?」
「
技術ツリーとして展開します。
触媒を開発し、効率よくアンモニアを生成できるプラントを建設しましょう。
建設場所は第2要塞内。
他の製造設備へのパイプラインも必要になりますね。
真水精製プラントも拡張しましょう。
そうですね、沖合にレアメタル、重水素を回収するプラントを増設し、パイプラインも伸ばしましょう」
<リンゴ>がマップ上に次々と施設の建設計画を追加していく。
「水素が足りないのね?」
「
「なるほど。だいたい油田とガス田はセットだものね。…セットよね?」
「
そういえば、石油タンカーの次の建造予定は、ガス運搬船だった。
本当は、
それに、結局<セルケト>という脅威生物も発見されたため、開発するつもりであっても断念しただろうが。
「大型船舶の製造は、当面は<ザ・ツリー>で行います。北大陸沿岸では、他国の船に目撃される危険性がどうしても拭えませんので。
航空機は、滑走路のこともありますので、第2要塞での生産となります。超音速高高度偵察機
「んー、そうねぇ。戦力も揃ってきたし…例の巡洋艦も、1番艦は問題なかったかしら?」
「
「とはいえ、大型船ドックはタンカー製造で埋めちゃったしなぁ。まあでも、今の所十分かな…。ドックも追加しないといけないし、そっちはおいおいね。万が一どこかの勢力とぶつかることになっても、なんとかなるかしらね」
現在、<ザ・ツリー>の海上戦力は、1
戦闘用の潜水艦はまだ開発していない。今の所、北大陸にはこの海上戦力とまともにぶつかれる海軍は存在しないと、<リンゴ>は読んでいた。
もっとも、ほとんどがテレク港街から仕入れた情報のため、各国が保有する戦闘艦の能力は向上している可能性はあるのだが。
「よし。北大陸の偵察は進めましょう。まずは、南方地域の調査ね。対空手段を持っている可能性もあるし、やるなら1回で、全地域をスキャンする気概でいきましょう」
「
「うんうん。策定はお願いね」
彼女は雑に<リンゴ>に丸投げし、鼻歌交じりに技術ツリーを確認し始めた。
◇◇◇◇
調査船団は、帰還の途にあった。
度重なる嵐や、海面下に潜む岩礁。小型の魔物の襲撃、減っていく食料。1隻、また1隻と船を失いつつ、しかし彼らはその目的を果たしたのだ。
「我らが航海士は優秀だ。恐らく、あと1ヶ月…遅くとも2ヶ月以内に、
大型船3隻、戦艦2隻、巡洋艦4隻、計9隻で出港した調査船団も、今や残るは5隻。
その5隻も全体的にくたびれており、至る所に破損が見られる。それでも、力強く帆を張り海を進む姿は、歴戦の勇士を思わせるものだった。
少なくとも、南方大陸周辺の海図は手に入った。途中の航路はまだ不明だが、少なくとも危険な箇所はある程度プロットできている。
これがあれば、外洋船の技術は格段に向上するはずだ。まあ、本国でも似たようなものは開発されているかもしれないが。
「我々は多くの戦友を失ったが、それ以上に多くのものを持ち帰ることができた。船長、あと1ヶ月だ。これ以上、我々は失うわけにはいかん。頼んだぞ」
「お任せ下さい、船団長。この辺りまでくれば、もう我々のよく知る海です。最短航路で帰還してみせますよ」
本国は、彼らの帰還を首を長くして待っているはずだ。早く帰還して、この成果を一刻も早く伝えたい。
しかし、全権大将の懸念する南方勢力は、結局それほどの脅威ではなかった。当然技術レベルの違いはあったが、それもどんぐりの背比べというのが船団長の感想だ。
ある分野ではレベルは上だが、ある分野ではさっぱりというものも多く見掛けた。
総じて、国力はそれほど大きく違わない。
「しかし…そうだな。先が見えたことだし、近々宴会でも開くか。余剰の酒と食料を放出できるだろう。船員共も、あと少しと実感させてやりたいからな」
「それはよい考えです。そうですな…ひとまず、食料は3日分、酒は1週間分程度は使ってもよろしいでしょう。あまりに振る舞いすぎれば逆に不安を煽るかもしれませんしな」
「最後の晩餐かね? それもそうだな、ほどほどの贅沢のほうが喜ばれるか。よし、ではしっかりと準備を頼むぞ。私は他の船長にも伝えてこよう」
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