第74話 姉妹達のティー・パーティー
「どうぞ、クッキーと紅茶です」
「あ、ありがと」
<リンゴ>が新作のクッキーと紅茶を運んでくる。
「紅茶、できたの?」
「
5姉妹は、その様子をじっと見ている。
<リンゴ>の味覚については、
美味いとか不味いなどの味覚に関連する神経系が育ちきっていないのか、そもそも操る
そして、<リンゴ>はそのブレを許容範囲内と認識している節がある。
まあ、主に
本来、AIならAIらしく味覚測定器などで絶対値を検出するのが正しいのだが、わざわざ
というわけで、5姉妹は新作系については非常に警戒していた。
<リンゴ>もそれは承知しているのだが、どうも、慣れない味を苦手に思っている程度に理解しているようだった。救われない話である。
ゆえに、いつも被害者は
「……。うむ。悪くないわね」
とはいえ、最近はそういう爆弾も少なくなってきた。味覚に関するデータが揃ってきているからだろう。
それと、
「よかったです」
ニコニコする<リンゴ>と、実際美味しそうに紅茶を味わい、クッキーを口に運ぶ
まあ、いつもの光景だ。
「うーん。日々の食事に加えて、間食も揃ってきたわねぇ。牧畜も順調なんだっけ?」
「
「そ。適度にお願いね」
イルカを食肉にするというのは、そういえば、どうなのだろうと
とはいえ、彼女が転移前、現実世界で食べていた食肉が本当にパッケージ通りの肉なのかどうかは分からないのだが。
特に疑問に思っていなかったその頃を思い出し、少し懐かしい気分になる。あの頃は
「どっこいどっこいね」
「……?
「なんでも無いわ。まあ、このままぐだぐだするのも勿体ないし、続きをしましょう」
というわけで、
「フラタラ都市の今後について。当面、……そうね、あの領主の傷が癒えてメディカルポッドから出てくるまでの間に、今後の統治について決めちゃいましょう。猶予はそうね、5日くらいかしら?」
「
彼女の確認に、<リンゴ>は奇妙な返答を返した。そのことに違和感を覚え、しばし彼女は黙考し。
「それは、銃創の治癒以外に処置すべきものがあるということ?」
「
「……」
折角来てくれた外部の使節団を襲う、と判断しなければならない程度には。
そして、どうもその決定も、比較的理性的に下されたと思われる。統治はラダエリ・フラタラによるワンマンだったようだが、それでも誰も反感を覚えないほど、周辺環境は悪い状況だったようだ。
「何か、可哀想になってきたわね……。治癒できるところはしてあげて」
「
現在のラダエリ・フラタラのバイタルは非常に安定している。安らかに眠りこけているらしい。いや、主に投与された薬の影響によるものだが。
「
「はいはーい。わたし、補給基地にすればいいと思う!
「わたしも! ね、滑走路を作ろうよ!」
イチゴ、ウツギ、エリカはフラタラ都市は継続させ、何かしら利用するのがいいと思っているようだった。
「……あの、補給拠点がいいと……思う。
オリーブも、フラタラ都市は拠点化してしまえという意見のようだ。そうなると、最後のアカネは。
「……。私は、大使館だけ置いておけばいいと思う。拠点化するのは、情報漏洩の観点からリスクが高い。アフラーシア連合王国との全面戦争を避けるのであれば。露骨な侵略は行うべきではない」
「なるほどねえ」
なんとなく、彼女も程度の差はあれど、拠点化すべきではないかと思っていた。
だが、考えてみればわざわざ人が住んでいる場所に基地を作るメリットはない。
むしろ全く人が居ない場所に一から作り上げたほうが早いだろう。何と言っても、自重する必要がないのだから。それは、現在建設中の第2要塞の事を考えても自明だ。
「そうね。テレク港街はもともと、情報収集のために接触して、ま、鉄をたくさんもらったわね。その恩もあったし、何より唯一の鉄の入手先だったわ。心象を悪くしたくなかったし、私も虐殺する気も無かったし。鉄の町も同じね。我々が占拠することもできたけど、まあ、人道的見地からそれは見送ったわ。それに、ある程度周辺状況も分かって、そこまで急ぐ必要はなかった」
当時の思考を思い出しながら、彼女は語る。
「あるものは使わないと、っていう思考は間違ってないわ。モッタイナイ、って言葉もあるくらいだしね」
「あ、
そうね、と彼女は頷く。
「そ。もったいない、って、少なくとも私はそう思っていたわ。折角手に入れたのに、放置するなんて勿体ない、ってね。でも、もっと長期的に考えて、損得勘定をしないとね」
「
「あら」
しょんぼりしてしまったイチゴに、
「いいのよ、それで。これで、次からもう少し考えられるでしょう。それに、ちゃんとアカネがフォローできたんだし。言ったでしょう、第2要塞は2人で管理してもらうわ。2人で考えれば、しっかりやっていけるわ」
イチゴとアカネ、2人の頭を撫でながら、
「それに、正直、私もイチゴと同じようなことを考えてたし……。ま、今回はアカネに教えてもらったってことで」
ぽんぽんとアカネの頭を撫でさすってから、彼女は自席に戻る。
「さ、そういうわけで。もう少し、フラタラ都市の今後について考えましょう。それに、補給拠点の設置も考えたほうがいいわね! 第2要塞からでも、フラタラ都市は直線で640km以上離れてるわ。鉄道を敷かない限りは、空路でなんとかするしか無い。どうするか、決めちゃいましょう」
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