第57話 ワームを探せ
超音波による地中探査。
地中の空洞調査に特化させた
WP2は、基本設計はそのままに調査機材と武装を交換したものだ。沖に待機する
武装は、多銃身機銃1門と擲弾発射器1門。そして、作業腕2本のうち1本に自衛用の
カーボンナノチューブ製の人工筋肉とチタン合金の骨格を採用し、打撃力を高めるとともに耐衝撃性も向上させた一品だ。元々の鋼鉄ベースの骨格では、殴打攻撃を行うと自壊してしまうとの計算結果となったため、わざわざ新規製造したのだ。
「やっぱり、近接戦闘も出来ないとね!」
という、
ちなみに現在、パイルバンカーなる武器の開発も指示されているのだが。
「やはり、多数の空洞が検出されますね。少なくとも、周囲1kmの範囲には痕跡があります。突出させている第3班は、検出頻度は落ちていますが、直線2km進んだ場所でも空洞を発見しています」
「うーん……。でも、テレク港街とか鉄の町の周りには無いのよね?」
「
つまり、この要塞建設予定地の地中に存在する、大小様々な空洞。これは、この土地特有のものであると思われる。調査範囲は順次拡大中ではあるが、第3班の調査結果を見ると離れるほど検出頻度は落ちていた。
つまり、この
「しかし、未だにワーム本体は見つかっていません」
「それはそれで気になるのよねぇ……」
ほぼ1km四方を探査し終わったが、残念ながらワーム本体と思われる反応は見つかっていない。この土地のワームは死滅している、ということであれば万々歳なのだが、その生態が調査できないのは問題だ。
なにせ、相手は溶岩石をものともせずに穴を開けまくっている生物だ。要塞の地下構造体も、同様に穴を開けられてはたまったものではない。
「ある程度対処法が確立できなければ、大型構造物は建設できません」
「そうよね。侵入防止柵を埋めるにしても、どんな材質や構造が有効か、検証できないとねぇ」
鉄板を埋没させても、穴を開けられるのならば意味がない。コンクリートも同様だ。どんな原理で地下を掘り抜いているのか、確定させる必要があるのだ。
「地元の人間が全く情報を持ってないのも問題よねえ」
あれから情報収集を継続しているのだが、有用な話は全く増えていない。そもそも旅をする人間が少なく、たとえばワームに襲われた商隊などが居たとすると、全滅して情報が途絶したりするようだった。
そもそも、ワームに襲われたのか、野盗に襲われたのか、事故なのかも分からない。到着予定日を何週間も過ぎてから、ようやく行方不明になったと判明するのだ。徒歩か馬車の旅であり、1~2週間旅程がずれるなどよくある事だ。
「うーん……。不確定情報として、緑が多い場所にはワームはほとんど居ないと……」
ただ、経験則として、木々が密集している土地にはワームは居ないようだ。通常、町は泉や森に隣接して建設されるため、必然的に周囲にワームも出現しない。
街道も、基本的に水場などを繋ぎながら走っているため、ワームの生息圏から外れていると考えられる。
「
「……ふうん?」
「調査中ではありますが、例えば鉄の町の森、その周辺と森の地質を比較すると、説明し難い断絶があります。単に元々の土地特性であるとか、地下水の働きという可能性も十分ありますが、ワームが穴だらけにした岩盤が風化したということも考えられます」
調査を継続する中で、見えてきた可能性だ。ワームが溶岩石を穴だらけにすると、やがて薄い箇所から風雨で崩れていく。雨水が溜まり、地下水脈が流れ込み、湖や泉となる。あるいは、湿った砂地に植物が生え、やがて土ができていく。
もちろんこれは仮説の域を出ない。だが、ワーム自体の目撃情報はそこそこあるため、突然変異的な魔物ではなく、この地の生態系に組み込まれていると思われる。そして、現在の要塞建設地の調査結果。
「この土地も、かなり荒らされています。そして一部は風化が進行しており、砂状になって陥没している地形も確認できます。そこに生えた植物や苔、昆虫類も居ましたので、生態系が発展しつつあると判断できます」
「なるほどねー。溶岩だらけで不毛の土地だと思ってたけど、そういう広がり方もするのねぇ」
生命の神秘、と言っていいのかもしれない。とはいえ、その仕組みの一端が分かったところで、肝心のワームの生態は判明していないのだが。
「何とか、地上におびき寄せることが出来れば、捕獲なり撃破なりが可能なのですが」
「そもそも、この土地にまだ生息しているのかしら?」
「不明です」
まあ、しばらくは調査を継続するしか無いだろう。資源調査も並行して実施しているが、含有量はともかく鉄やその他の有望な元素はそれなりに見つかっている。
何より、深く掘る必要はあるものの、石灰石が見つかったのが大きい。コンクリートを現地調達できる可能性があるのだ。
「地質調査、地中探査を実施しつつ、ワームをおびき寄せられないか試行します」
「そうね。そのあたりもお願いするわね」
◇◇◇◇
それは、地上から伝わる振動によりゆっくりと目を覚ました。
何かが、自分の縄張りに侵入している。
久々の獲物だ。ここしばらく食べていなかった所為で体が重いが、いつもの場所で待ち構えれば食事にありつけるだろう。
明確な思考でこそないものの、ただの本能ではなく周囲を認識、状況を把握しつつ自分で思考し、それは行動を開始した。今までそうやってきたように、今回も同じ場所で待ち構えるために。そこに隠れていれば、高い確率で獲物はやってくる。
そしてそこに留まってくれさえすれば、あまり機敏ではないそれであっても確実に糧を得ることができるのだ。
口を動かし、身体を蠕動させ、それは緩慢に動き始めた。正確な時間感覚は持っていないものの、随分久しぶりだと感じながら、それは口内に入り込んだ異物を咀嚼し、薄い食料を濾し取りながら進んでいく。
うまく食事ができれば、あるいは、この獲物のほとんど居ない
長距離移動に耐えられる程度の成長で良いのだ。後もう少し、糧を取り込むことが出来れば。
◇◇◇◇
「<リンゴ>。微弱な振動を探知しました」
『了解。監視を継続しなさい。時系列で解析すれば、位置、深度、移動方向を算出できる。解析領域との接続は?』
「はい。リンク正常。転送帯域、順次拡大。
『
「確認しました。
『
「ベクトル算出関数の定義が完了。パラメーター調整完了しました。予想進路のオーバーレイを表示します」
『
「ターゲット、移動速度安定しました。平均時速3.5km。移動予想地点、出します。以降、P1と呼称します」
『P1確認。43番
「ここは、何らかの哺乳類が塒にしていた痕跡のあった箇所ですね。捕食行動でしょうか?」
『不明。観察を継続する必要がある。周囲に振動計を設置し、精密観測を実施する』
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