第40話 石油が足りない
難破船の乗船調査は、成功裏に終わった。
その後、この難破船は<ザ・ツリー>へ曳航することになった。調査資料として有用であり、また積載されている大砲などの鉄資源を回収する目的もある。
この難破船についてはそれでいいのだが、別途検討すべき課題も出来てしまった。
<ザ・ツリー>に近付く可能性のある船を、早期に探知する必要があるのだ。予想される技術レベルから想定すれば、最悪、全滅させてしまえば<ザ・ツリー>の存在は秘匿できるだろう。だが、この世界に対する理解は全くと言っていいほど進んでいない。
例えば、魔法という技術体系。これに関しては、知識はゼロ。むしろ、科学的知見のせいでマイナスの補正がかかっている可能性もある。今の所、テレク港街から仕入れた情報からでは、遠距離通信に類似する技術は無いとされている。
だが、テレク港街よりも優れた技術を持っていると思われる国家が、魔法による遠距離通信技術を持っていない、とは断言できないのだ。
<ザ・ツリー>に近付いてくる船を撃沈しました。攻撃されたことを、本国に通報されました――なんてことになると、最悪だ。敵対組織として認識されると、非常に動き辛くなる。可能であれば、平和的に交渉を行いたいのだ。
ちなみに、この平和的というのは武力を伴わず、という意味ではなく、武力衝突せず、という意味である。砲艦外交は、積極的に行っていく所存だ。
「海流の調査は最優先課題かしらね。テレク港街の情勢が落ち着いてくれていて、本当に良かったわ……」
「
テレク港街周辺につぎ込んでいたリソースを、一部回収して<ザ・ツリー>周辺海域の調査に割り当てる。まずは
「衛星は……まだ無理ね。発射場の建設もままならないし、ロケット製造も資源的に厳しいか……」
「
「そういえば、そんな問題もあったわねぇ……」
転移直後に打ち上げた高高度
当面、
「でも、スイフトはスイフトで搭載制限が厳しいのよねぇ……」
「
昼間は夜間飛行用のバッテリー充電が必要だし、夜はプロペラを回すためにバッテリーを消耗する。僅かな余剰分を、だましだまし使う必要があるのだ。
「うーん……。やっぱり、大型の航空機が必要かぁ……」
そうなると、できれば大型のプロペラ機が望ましいとなる。ジェット機は燃費が悪いため、候補には上がらない。しかし、大型の飛行機は滑走路が必要になるため、今の<ザ・ツリー>では運用できない。
「飛行艇の設計がおおよそ終わりましたので、資源を回しましょうか」
「そうね。ちょっと資源計画を変更しましょ。飛行艇のテストを優先させて。あとは、そろそろ本格的に、燃料の目処を立てないとねぇ……」
今の所、石油資源は影も形もない。備蓄はあるとはいえ、今のままでは先細りだ。ここで更に航空機も運用するとなると、相応に消費量も跳ね上がる。
「うーんうーん……。水素は熱量が低くて航空機燃料には不向きだしなあ……」
「背に腹は代えられない、という言葉もありますが」
「そうね。で、実際のところはどうなのかしら」
<ザ・ツリー>には、今の所、余剰エネルギーが存在している。これを水素製造に充て、石油燃料の代わりに使うということも考えられるのだが。
「はい。水素の熱量は、基準体積あたり約13メガジュール。比較対象として、ジェット燃料は基準体積あたり約37メガジュール。ガスと液体ですので単純な比較は難しいですが、熱量はおよそ3分の1と考えて差し支えありません」
「単純に考えると、行動半径も3分の1になるかしらね」
「
「燃焼以外の方法があるの?」
「
説明しながら、<リンゴ>は資料を表示した。燃料電池による発電量や、モーター出力などの総合資料。ただ、
「イニシャルコストも高いし、ランニングコストも高いわねぇ……」
「必要な性能を確保するために、電極触媒、セパレーター、電解液、制御機器など全て高機能材料を使用しています。使用に伴って電極などは消耗するため、定期的な交換も必要です」
「高機能材料……。レアメタルに特殊化合物。化合物は分子
水素ガスタービンよりは効率がいいとはいえ、数を揃えるのが難しい
「船舶は大型のガスタービンエンジンを設置できますので、水素燃料への置換も視野に入りますが、航空機はいろいろと制約がありますので、差し引き、燃料電池の方に軍配が上がりますね」
「う、うーん……」
レアメタルは、低効率ながら海水から回収できている。しかし、ランニングコストだけで試算しても、現在の生産量では賄い切れない。運用機数を減らさざるを得ず、そうすると探索効率も落ちる。
「……ダメね。当面、航空機は石油を使いましょう。船の燃料を水素に切り替える方針でいいかしら?」
「
交易に必要な船は揃っている。航続距離とエンジン出力の観点から、建造済みの船は全てディーゼルエンジンを採用しているが、これを水素ガスタービンに置き換えていくことにする。飛行艇は現在設計済みの機体をベースに、省エネ方向で開発を継続。<ザ・ツリー>の備蓄する石油の消費を抑える方向へ舵を切ることになった。
「大規模設備を建造できれば、いろいろと解決するんだけどねぇ……」
「設備建造には大量の鉄が必要ですので、まだ着手できませんね」
「せめて地盤がしっかりしてればね」
「遠浅とはいえ、周りは全て海ですからね。土台の設置だけでも、非常に困難です。今の情勢で優先すべきは……」
「……海底鉱山用のプラットフォーム建造。陸地で鉱山が見つからない以上、海底に望みを託す」
「
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