地下水道の調査依頼⑥

「逃げる時間を作る。君だけは逃げて……」

「いや、足の早いシーフを行かせるべきだ」


 カインの提案を遮る。

 クイーンウルフはこちらを逃すまいとゆったりと俺たちの周囲を歩き回っている。


「次に武闘家の彼をカインが連れて逃げろ」

「だが!」

「全員で生き残るんだ! 俺は人一人抱えて逃げるほどの力はない!」


 剣士のカインとテイマーの俺では基礎体力が違うはずだ。


「二人が起きるまで粘る。逃げ切れるように体力は温存してくれ!」


 クイーンウルフが動いた!


「くっ⁉」


 カインが身構える。

 初動が見えれば動きは目で追える。ということは、全く戦えない相手ってわけじゃない。


「キュルケ!」

「きゅー!」


 指先でキュルケに指示を出しながらクイーンウルフに剣を持って飛び込む。


「なっ⁉」


 カインが信じられないという声を出すが、サイズの大きい四足歩行型の魔物はスピードに乗らせるほうが厄介だ。動き出すより早くこちらから仕掛ければ……こうして対抗できる!


「押してる⁉」


 クイーンウルフはスピードタイプの魔物。スピードに乗らせなければ攻撃はDランクの俺でもなんとか押し返せる。


「そろそろ行くぞ! キュルケ!」


 クイーンウルフの巨大な前腕をなんとか弾く。体勢を崩しかけたクイーンウルフの姿を確認し、キュルケに合図を送った。


「ここだ!」

「きゅきゅー!」


 キュルケの体当たりが体勢を崩したクイーンウルフの脇腹に入る。

 よし! この状況なら剣が首に届くはずだ!


――だが


「ギュルゥアアアアア」


 クイーンウルフが怒りで吠える。空気を震わせるほどの咆哮に千載一遇のチャンスを逃した。

 それどころかこのままではこちらが形勢不利だ。


「仕方ない……目くらましくらいにはなってくれよ⁉ ファイア!」

「ッ⁉」


 狼系は炎を苦手とする。一瞬だが距離を取ってくれた。

 危なかった……。あのままなら一気に畳み掛けられていてもおかしくなかった。

 再び距離を取ってカインと並ぶ。


「君は一体……なぜこれほどの力を持っていながらソロで……」

「テイマーと組んでくれる物好き、めったにいないのはわかるだろ?」

「それにしたって……まさか君は上位の冒険者なのか⁉」

「いや、さっき言ったろ? Dランクだよ」

「でも……危険度Bランクのクイーンウルフ相手に互角以上に……」


 そう見えたなら良かったな。

 こっちは精一杯なんだけど……。

 そしてこの状況、動かせるかもしれない。


「実はテイマーは、一対一になればクイーンウルフを止める方法がある」

「そんなものがっ⁉」


 もちろんない。


「だからカインたちは、できる限り早くこの場を離れることを優先してほしい。念の為上位の冒険者がいれば応援は頼みたいけれど……」

「わかった! 今の戦いを見れば分かる……足手まといは残念だけど俺の方だ……」


 相手を知らなかっただけだろう。Cランクのパーティーを率いているんだ。弱いことはない。

 ただ未知の相手には安全に戦えないというだけだ。魔物のことを知っている俺の強みが出しやすかっただけだと思う。

 だがいまはそんなことより早くこの場を離れてもらったほうがいいだろう。

 全員で死ぬくらいなら、俺が彼らを逃がす時間を作れたと言ってもらえるほうが気持ちがいい。

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