52 それぞれの戦果
「Sランクの方の納品は緊張しますね……」
「ふふ。私だけじゃなくほかのメンバーもすごいと思うよ?」
「ええ、心してかかります。それで、納品物はどちらに?」
ギリスも持っていなかったように収納袋は貴重な存在だ。当たり前のように4人ともがそれをもっていたことに驚きながら場所を開けてくれた。
「じゃ、私からいこっか!」
ビレナが収納袋からユキウサギの素材だけを取り出す。
「これは……」
「へへー。頑張ったでしょ?」
「すみません。ちょっとギルド中の人間を集めます!」
取り出されたユキウサギの素材は最低限の下処理だけ施されていた。数はざっと見て1500ほど。
「数は負けたわね」
「と、すれば私が数では勝ったようだな」
ティエラとベルがそれぞれそう言う。2人とも最終結果で負けるつもりはないという思いがありありと見える。
「で、ご主人はどうだ?」
「ああ、数じゃ勝てないよ」
「ふふ。その様子じゃ、結果は良さそうなのね」
「どうかな」
とはいえ、1500という数字が最高と考えればいい線まではいけるじゃないだろうかという期待が生まれるのも事実だった。
「おまたせしました! 査定額は後ほどまとめてお出しさせていただきますので、一旦みなさんのも納品していただいても……?」
「わかったわ」
「いいだろう」
それぞれ収納袋から取り出す。
ティエラの出したものはもはやそのまま武具屋に卸せるくらいきれいに解体されている。肉ももうその辺の店で見るのと同じレベルに切り分けられていた。
「これは……すごいですね」
「精霊魔法は便利だな」
「ふふ、ありがと」
続いてベル。
「これも……なるほど綺麗に心臓とそれ以外に分かれているんですね」
一発で見抜くあたりさすが鑑定士だなと思う。
数で言えばティエラが1300、ベルが1800だ。
「すごい数ですね……ユキウサギのクエストは締め切りにしないと……」
慌ただしくギルド職員が動き、それぞれの処理をしていく。国が混乱していた中で人員だけは集まっていたとのことだったので余剰要員がすべてうちのパーティーの対応に当たることになったらしい。
「さて、リントくんは?」
「ああ、ここに出していいのか迷ってて……」
意味がわかったのはベルだけだ。他の2人はベルからこれをもらったことも知らないわけだから当然か。
「もしかして、旦那さま、生きたまま……?」
「数はどのくらいだ? ご主人」
「1000ちょっと、だと思う」
「じゃ、場所を作ってもらったほうがいいねー」
ギルド職員だけはついてこられない様子を見せていたが、ビレナから説明を受けるとしっかり場所をつくってくれた。
逃げたり暴れたりする心配は基本的にないんだがギルド内で混乱を起こさないためのスペース。ましてやテイマーに向けられる視線は厳しいからこのあたりはギルド側も神経質だ。
「じゃ、改めていってみよー!」
ビレナの掛け声に合わせて収納玉からユキウサギたちを解放した。
「さすがご主人だな!」
「これは……ちょっと負けたわね」
「わわっ……ちょ、ちょっとまって下さい。念の為高ランクの職員や冒険者に周りを固めさせ……」
「必要なかろう。ここにこれだけの人間がおるのだ」
そう言ってベルが黒魔術を発動させ、周囲に魔法陣を浮かび上がらせた。空間を支配する魔法だ。
外に出ようと飛び出したユキウサギが吸い込まれるように壁に消え、すぐに反対側の壁から飛び出してきていた。
「すごい魔法ですね……冒険者登録は仮のようですが、今回の功績もしっかり記録しておきます。本部に戻った際に反映されますので」
「うむ」
満足気にうなずくベルだが見た目は幼女なのでギルド職員も戸惑いや驚きよりほっこりさせられていた。
「これはもう見るまでもなくリントくんの勝ちだろうねー」
「旦那さま、こんなことまで出来たんですね……」
「言うたであろう? ご主人」
「そうなのか……」
よくわからないけど3人がそういうならそうなんだろう。
「すみません。やはり時間がかかりそうですので査定の結果は後日、本部からという形でも?」
「いいよー!」
と、いうことで正式な結果は後日ということになったが、一旦勝負はおれの勝ちということで収まった。
ちなみにギリスはあのあと仲間を助けるためにユキウサギの納品額くらいでは済まない損害をおった上、Cランクパーティーに喧嘩を売って惨敗したということでクランの評価を大きく下げたらしい。
絡んでくる元気もなくなっていたところを見ると、もう面倒なことにはならずに済みそうだった。
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