50 ユキウサギとかませ犬と
「そういえば勝負を挑んできた冒険者たちはどうするつもりなんだろうな?」
「きゅ?」
カゲロウはもう纏っているので直接のやり取りができるのはキュルケだけだ。胸ポケットから顔を出して首をかしげている。
「あの3人が山に入ってることを考えると、あたり一体狩り尽くされてもおかしくないよな……」
「きゅきゅっ!」
急げと言わんばかりにキュルケが声を上げるがそう言われてもどうしようもない。
というよりもうすでに自分のこれまでを考えれば早いんだ。めちゃくちゃスピードは出ている。
と、視界の端に純白の何かが横切った。まだ雪原に入ってないことを考えるとはぐれ個体だろうが、お目当てに早くも出会えたようだ。
「とりあえず肩慣らしにはいいだろ! やるぞ!」
「きゅっ!」
ユキウサギは1匹だとすばしっこく逃げ惑う厄介な相手だ。それでいてちょこちょこ氷属性の攻撃を放つ。小さな身体から放たれる魔法ではあるが、カゲロウなしの俺なら当たりどころによっては致命傷になりかねない攻撃なのであまり油断は出来ない。
だが――。
「テイム」
「?!」
ユキウサギの逃走はそこで終わった。
おとなしくこちらを振り返ると不思議そうにしきりに首をかしげながらも、こちらに少しずつ歩み寄ってきた。
「よしよし、ひとまず成功だな」
「きゅっ!」
このくらいの相手であれば弱らせたりしなくてももういけるんじゃないかと思って試してみたがいけたらしい。
ベルの指示通りそのまま生体を収納玉に入れようと動き出したところで、横やりがはいった。
「お、当たりだなーこりゃ。一番弱ええやつだ」
現れたのはあのときのクランリーダーだ。名前は……。
「おっと、こいつは俺、ギリスのもんだぜ。お前を襲いそうだったから助けてやった。異論はねえな?」
そういいながらすでにテイムが終わって動けずにいたユキウサギを踏み潰すように見せつけてきた。
「はぁ……まぁいいか」
「くっくっく……そうだよなぁ。Aランクには逆らうもんじゃねえ」
どうもこの感じだと、それぞれ横取りのために動き出してる様子だな。かわいそうに……。俺以外のところに行った人たち……。
「俺たちと勝負なんざちょっと調子に乗りすぎたよな? お前もそう思うだろ?」
「そうだな?」
とりあえず話をあわせて早く離れることにしよう。
このギリスという男は俺のところに来れて本当に良かったなと思う。ビレナのとことか行ってたら場所柄全然違和感なく行方不明者が増えていただろう。
「さってと、お前が苦労して捕まえようとしてもユキウサギは俺のとこにくる。この意味がわかるか?」
ただ俺でもちょっと鬱陶しくなってきたな……。無視していくか。
「この勝負、俺たちには勝てねえってことだよ!」
取り巻きあわせて5人。高笑いしている男の横を駆け抜けた。
「……へ?」
しばらく走ると視界から消えたが、雪原に入ってユキウサギの姿を再び捉えて立ち止まったところで、すぐに追いついてきた。
腐ってもAランクだな……。
「てめぇ……俺を無視して行こうなんざいい度胸じゃねえか」
どうしようか。ここでカゲロウと暴れれば別に戦闘不能にはできそうだが、直接の戦闘に関してはギルドが厳しく取り締まる。一方こいつらの横取りはマナー違反で当然ギルドも目を光らせているとは言え、私闘に比べれば遥かに軽い。
「さてと、じゃあお前がユキウサギを弱らせてくれるのをここらで見させてもらうとするか」
どかっと雪原に座り込むギリスたち。座っても寒そうにもしていないところを見ると多分精霊石は持ってるんだろうな。原理はやはりイマイチわかってないが、とにかく雪も降るようなエリアに来ても寒さを感じないすぐれものだった。精霊の力、恐るべしだな……。
「ん?」
「なんだぁ? 諦めたのかい?」
ギリスがなんか言ってるが無視だ。それよりこれ、いい方法なんじゃなかろうか。
カゲロウに意識を向ける。
『カゲロウ。あいつらの精霊石より、お前のほうが強いよな?』
問いかけると当然だと言わんばかりの声が帰ってきた。
とすると、あっちの精霊石でコントロールしている精霊たちをカゲロウで押さえつけてしまえば、ギルドの制裁対象にもならないで追い返せるかもしれない。
そうすれば残るのは奴らの横取りの事実だけだ。証拠は別にないけど他のとこで同じことをしてるなら俺がわざわざ用意する必要もないと思う。
『じゃ、たのんだ』
カゲロウに指示してしばらくするとギリスより先に取り巻きの様子がおかしくなった。
「おい……なんか急に寒くねえか?」
「ああ……なんでだ……俺たちちゃんと準備してきたよな?」
身体を震わせて不思議そうに会話する取り巻き。その様子を見てギリスも違和感に気づいたらしい。
「おい……てめぇ何しやがった」
「なにかしたように見えたか? 一歩も動いてないぞ?」
「なにか卑怯な真似したんだろ?! 精霊石が効かねえ。くそっ!」
そういってギリスは手のひらから炎を生み出して暖をとる。だがそれすらカゲロウの支配下に置かれた精霊に阻害され炎が凍てついた。
「は……?」
「バチでもあたったんじゃないか?」
「てめぇ……!」
「いいのか? 俺はCランク。横取りはともかく流石に手を出すとギルドも黙ってないぞ?」
「くそが! いいさ。てめえはどうせ雑魚だ。さっきも目の前に獲物がいるってのにぼーっとしてただけだったしな。おい! こいつはもう無視して降りるぞ!」
どうもテイムを知らないらしい。であればほんとにさっきは横取りの意識もろくになかったのかも知れない。
なにはともあれ俺の邪魔者はこうして一応穏便にお引取り願った。
他の人がどうしているのか少し気になったが、まぁろくな事になってないだろうと思いながら、自分のことに意識を戻した。
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