2634年某日 フルグ・エーステライヒ国境 アルグィン 「ソマの左手③」
12月、吐息も凍え始めた國境の街アルグィン。
アルビオ陸軍東部方面隊の宿営地の一つに齢15のソマ=リュオンがいた。
「
小隊長(尉官)である彼の号令に合わせ、彼とその他隊員たちはトリガーを引いていく。
引金を2回弾き、噴射機の先端から薬剤が正常に放射されることを確認。
S16化学放射器・・・大型のタンクと3本のシリンダーを備え、圧搾空気により揮発油と高性能グリセリンを含んだ燃料、または薬剤を散布する。
ちなみに当時の衛生・化学に従事する際は、1個小隊27名。
その内この散布器をもった者が15名、予備のシリンダーを装備した者が6名、小銃と擲弾筒を装備した者が3名、その他通信特技兵3名という編成であった。(小銃手以外は皆、エンフィールド機関短銃により武装)
彼らの任務は周辺を”消毒”することである。
当時、土壌に存在する細菌から風土病に罹る者が多かったため占領地に薬剤を散布することで兵士が駐留できる環境になるとされていた。
◇◆◇――――――◇◆◇
任務・訓練後の小休止の際、部下の一人がソマに言った。
「もう少し後方で勤務できると思ってたんですがねぇ・・・少尉もその”クチ”でしょう?」
「私が安穏と過ごしたがっていると?」
「ええ・・・まあ、少なくともここは最前線とまではいかなくとも、ドンパチすることはある土地でさぁ。ここらを奪還するために奴らが反攻作戦をぶち上げてくることは容易に想像がつく・・・」
「分隊長、確かに君の言う通り私は”平和”を望んでいるさ・・・。誰しも・・・たとい”向こう”だって闘いで命を落としたくはない、それでも國のために闘うのさ。國によって我々は生かされているからね」
「國、ひいては其処そこに住む人々のために我々は闘っている・・・まぁそうでしょうな。闘いで経世済民が進むはずはねぇです。コレは何も生まない、かといってやらなきゃ國が滅びる・・でしょ?」
「そうだ。
分隊長はソマの
「写真・・・入ってるんでしょう?例の町娘の。」
「ンッ・・・アリシアのことか。そ、そうだな」
ソマの頬は紅潮した。
「恋する若人に銃は似合わないってことですよ」
「このッ!・・・・・まぁいい。確かに正直なところ早くこんなことはやめたいところだ・・・」
ソマは分隊長の後ろの宿舎にはためく旗を見遣りながら、
「欧州中央で
と呟いた。
「あっ、話題逸らそうとしてますね!」
「・・・バレたか」
笑い声が響くこの場所も阿鼻叫喚の地獄と化すのに、そう時間はかからなかった。
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