第19話 シンジテル

寂しい。

また同じ事を繰り返すのだろうか?

ナリだって好きで出張してるわけじゃない。


「これが仕事だからしょうがないだろ」


前の彼氏の口癖。

我慢してたら浮気されていた。

また同じ事を繰り返すの?

何度同じ事を繰り返せば気が済むの?

もう二度と彼氏なんていらない。

これを最後の恋にしたい。

願えば願うほど、想えば想うほど離れていく。

私は寂しかった。

ナリが私の事を想ってくれているのは分かってる。

毎日のようにメッセージを送ってくれるから。

私が寝ているだろうと思ってメッセージを残してくれる。

でも前の彼も同じだった。

信じていたら裏切られた。

ナリに限ってそれはない。

本当にそうなんだろうか?

ナリは自分で思っているほどダメな男じゃない。

見方を変えたら純粋で誠実な人。

でもそんな人ほど道を間違えると簡単に転がっていくと、誰かが話していた。

ナリは私と会ったことで変わっていくのが分かった。

じゃあ、私とナリは出逢わなければよかったの?

そんな事無い!

今日はクリスマスイブ

当然の様にナリはいない。

友達とカラオケで騒いでいた。

そういう趣味はないのだけど寂しさを紛らわしかったから。

日付が変わる前に家に帰る。

誰もいない私とチョコさんの家。

チョコさんとはナリと私が名付けたフェレットの名前。

ナリとチョコさんも同じように何度クリスマスを迎えたのだろう?

ナリにとってクリスマスは一人で当たり前の日なんだろうか?

シャワーを浴びて寝ようとした時、スマホが鳴った。

ナリからのメッセージ


「ハッピーバースデー」


時計を見ると日付が変わっていた。

今はクリスマス。

私の誕生日。


「もし俺に彼女がいたら、彼女の誕生日に誰よりも早くおめでとうとメッセージを送る」


前にナリが言っていた事。

ちゃんと約束覚えてくれたんだ。

私の誕生日覚えててくれたんだ。


「ありがとう。大好きだよ」


シンプルだけど想いのこもったお礼。


「俺も大好きだよ」


こんなに動揺する「大好きだよ」は今までなかった。

どんな顔をしてナリはこのメッセージを送ってくれたのだろう。

それから何日かしてナリが地元に帰ってくる。

その日がどれだけ待ち遠しかっただろう。

何を作ってあげようかな?

毎日コンビニ飯や外食と言っていたから手料理らしいものがいいかな?

肉じゃがでもいいんだけどナリはジャガイモが嫌いらしい。

ジャガイモというか芋類がダメらしい。

ナリは偏食だから心配だ。

毎日カップ麺なんて無茶してないだろうか?

ナリが会社に来た。


「おかえり」


そう言って抱きしめたかったけどここは会社。

あまり見ないようにしていた。

そんなのは家に帰ってから思う存分甘えたらいい。

定時で会社を出るとナリにメッセージを送る。


「今晩夕食何が良い?」

「今日は何も買ってこなくていいよ」


どうしてだろう?

また外食?

たまには私の手料理食べて欲しいのに。

家に帰るとナリが待っていた。

テーブルには少し卵が破れたオムレツがあった。


「これナリが作ったの?」

「そんなに作れる料理ないんだけどね」


ネットでレシピを見ながら作ったらしい。

文章での説明ではわからないから動画を見ながら作ったそうだ。

何度も確認してから作ったらしい。


「上手だね」

「ありがとう」


もう我慢できない。

私はナリに抱きついた。


「おかえりなさい」

「……ただいま」


ナリは優しく私を包んでくれた。

私はナリの目を見つめる。

約束したよね?

プレゼントしてくれるんでしょ?

今がそのタイミングだよ?

……ナリには通じなかった。

夕食を食べてお風呂に入ってテレビを見ながらナリはゲームをしている。

そんなナリの隣にぴたりとくっついて横に座る。

ナリの鈍さはこれまでに十分味わって来た。

ちょっと誘うくらいじゃ全然乗ってこない。

だから、魔法使いと呼ばれるんじゃないのか?

ナリの腕を掴んで、ナリの顔を見つめる。

さすがにナリも気づいてくれた。


「あ、あのさ冬莉……」

「そう言う事は一々聞かないで」


察してよ。

感じてよ。


「え、えーと目を閉じた方がいいのかな?」


そう言えば初めてだっけ。

仕方のない人だ。


「ナリは目を閉じてるだけでいい」


私がそう言うとナリは目を閉じる。

私もナリの顔に手を添えて目を閉じるとナリの唇に私の唇を近づける。


「ちょ、ちょっと待って」

「どうしたの?」

「眼鏡邪魔じゃない?」


本当にしょうがないんだから。


「じゃあ、外したら?」

「ご、ごめん」

「初めてなんでしょ?次はナリからしてね」


そう言ってナリとキスをする。

ナリは私の唇をどんな味だと思っただろう?

もちろん唇に触れるだけじゃ済ますつもりはなかった。

舌を上手くナリの口の中に滑り込ませる。

ちょっとナリが驚いていた。

このくらいで驚かないでよ。

濃厚なキスを堪能すると体がその気になってしまう。

ナリも例外ではなかったらしい。

私の背中に手をまわして抱きしめる。

やっとその気になってくれたのかな?

でも、ナリはここまでだったみたいだ。


「これ以上はやばい」


そう言って私から離れる。

この私の火照った体はどうしたらいいの?


「別にいいじゃない。恋人なんだし」

「あ、いや。ほら、ゴムもってないし」

「しなくちゃまずいの?」


ナリの子なら私は平気だよ。


「そ、それはさすがに。まだ結婚してないし」

「じゃあ、結婚するまで私はお預けなの?」


それは流石に寂しいよ。


「ごめん、もうちょっとだけ心の準備が欲しい」


仕方のない人だ。

でもこんなナリなら浮気なんてないだろう。

こんなナリだからきっと私だけを見ていてくれるだろう。


「わかった。じゃあ、そろそろ寝ようか。明日休みだし」

「明日休みなら遅くてもいいんじゃ……」

「ナリも疲れてるだろうし、この空気で何もしないままなんて辛すぎるよ」

「ごめん」

「いいの。ナリに合わせるって言ったでしょ。その代わりお願いがあるんだけど」

「どうしたの?」

「今夜私を抱いて寝て欲しい」

「わかったよ」


そうして照明を落とすと、ナリに抱かれて眠りについた。


「あのさ、ナリに質問があるんだけど」

「どうしたの?」

「どうして魔法使いなの?」


風俗とかそういうのは考えなかったの?


「初めてが風俗なんてなんか嫌だと思ったから」

「その割にはこんな美人を目の前にして何もしてくれないじゃない」

「……冬莉。目を閉じて」

「うん」


私が目を閉じるとナリが不器用ながらに私がさっきしたようにキスをしてくれた。


「……大好きだよ」

「私も……」


きっとその言葉に嘘偽りはないだろう。

ナリなら信じても大丈夫。

ナリを好きだと思う気持ちは本物だった。

好きだと想うのに理由などいらなかった。

ただ今夜はナリの優しさに包まれて眠った。

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