《詩集》冬のひととき

K・t

湯気と私

しゅわしゅわ音を立てている薬缶やかん湯気ゆげ

近頃一段と冷えてきたねとささやくように噴出する


私は洗い物が入ったおけから手を引く


濡れたその手を オレンジ色が鮮やかなエプロンの裾で拭って

コンロの火を止めた


かちり という音と共に火という燃料を奪われ

湯気は勢いを失って次第に細く弱くなっていく


沸かし始めたのは ココアを飲んで温まるためのはずだった


なのにふと ココアの粉が入ったままの白いカップより

薬缶の湯気が気になっている 自分に気づく


細く長く けれど 必ずある一点で空気中に溶けて消えていく 湯気


見えなくなっただけで 台所に今も存在していることを 私は知っている


でも その儚さがすこし うらやましくて


もう音を立てなくなった薬缶の口を眺めながら

「なんだかいいな」と呟いてみた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る