八月の葬式

黄と黒

夜通し、寝ずの番をしなければならない。

この子の体に、邪（よこしま）な者が入り込まないように。

灯りを絶やしてはならない。

この子を見張り続けるために。

寂しがらせてはいけない。

明日には、いなくなってしまう。

お別れをしなくてはいけない。

未練が残らぬように。

私が。

私に。

この子に。

この子と。

いつも

一緒に

これからも

これからは

一人。

一人。

ずっと

一人。

他に

誰も

いない

あなた

だけ

そんな、の

でも、

そう

だけど

やはり

いや、

やはり。

そう

そうだ。

我慢。

耐えろ

がまん。

いつまで？

いつまでも

これからは

ずっと

いつまでも

一人

なのだから。

ああ

蒸し暑い。

部屋は冷えているのに。

コップを掴（つか）み、注ぎ込む。

とくとくとく

氷水を飲む。

ごくっと、喉が動き

生きている心地がする。

あの子は、死んでいる。

視線を、落とす。

死んでいる。

生きていない。

動かない。

もう、動いてはいない。

白い、肌。白い、着物。死に装束。

もう、動かない。

笑わない。

怒りもしない。

泣くこともない。

私を、見ない。

何も、見ない。

見なくて、いい。

これからは

これからも

私だけを

私だけに

それは、向けられるべきだ。

注がれるべきだ。

そう、あるべきだ。

あるべきものが、ここにある。

ここに、いる。

私は、何を、

ためらって

胸が、高鳴る。

よく晴れた、月夜。

涙雨など、一滴も。

お別れは、

なし、ね。

おやすみなさい。

お眠りなさい。

私の腕の中で

揺りかごの中で

ずっと。