私の思いは
「さて…今回も外来種の駆除をすることになった。対象の名前は天野 勇魚。現在は領主の屋敷の一番奥の部屋にいることが確認されている」
日は流れて仕事決行日になりました。あれから迷いを振り切るように訓練をして、嫌な事を忘れたい一心で夜を過ごしてきました。転移課の部屋で隊長が口を開いていつも通りの話をします。私はそれを聞きながら、自分の武器を見ます。
今回使う武器は転移者がここで復活した時に支給された武器とほとんど同じWA2000、XM8、コンバットナイフ、グレネード各種、サブのグロック18c、グロックとMXにはレーザーサイトが付いています。それともう一つ、今回の転移者対策として、ある物と一般人対策のスタンガンを持っていくことになったので、ポーチに一個だけ入っています。
「それでどうやって転移者を殺すかだが、単純に正面から突破することにする。正面から突破して、向かってくる一般人は無力化して転移者だけを殺す。シンプルな作戦だ」
隊長の言う通り今までで一番シンプルな作戦では無いでしょうか?シンプル過ぎて何のひねりも感じません。
「シンプル過ぎるっスけど、何か理由があるんスか?」
ユッカさんが手を挙げて質問をします。転移課なら建物の中に直接転移することも可能です。そして今回の仕事をする世界の技術レベルからして転生者が使っていた結界みたいなものは張れないことも確認済みです。
「単純に敵が籠城しているから、建物内への警備も厳重だろう。いくら私達が強くても囲まれてしまうのが一番怖いそれに建物内だと圧倒的に向こうが有利だ。一般人もいるから建物を倒壊させて押しつぶすと言う手が使えないので、順当に正面から攻めた方がいいと判断した」
それとイサナさんの能力も理由の一つだそうです。イサナさんの能力は植物操作、種から急速に成長させて意のままに操ることが出来る能力です。この能力を使えば部屋中に種をばら撒けば簡単に捕獲トラップを作ることが可能になります。転移していきなりトラップの中に突っ込むことになるよりも、ある程度距離を離してでも安全な場所から攻めていくべきだと判断したそうです。
「それともう一つ注意することがある」
隊長は持っていた紙を床に広げて置きました。おかれた紙には直線で何かの図面が描かれていました。
「これは…建物の見取り図ですか?」
バロックさんが紙を覗き込んでしばらく見た後に隊長に確認しました。言われてみると見取り図と前回フレアさんに招待されて訪れた時の建物の内装を思い出して比べてみると、確かに似ているように感じます。
「ああ、今回攻める屋敷の見取り図だ。前回の仕事の時に下水道が役に立っただろう?何か今回も役に立つのではないかと、記録課で資料を漁っている時にふと思って少し深いところまで探してみたら、これを見つけてな。よく見てみたら見つけたんだ…ここだ」
そう言って隊長はとある場所を指差します。そこには正面玄関裏口とは別に続く一本の通路が書き込まれていました。
「隠し通路っスか」
「そうだ、もし万が一転移者がこの通路を使うようなことがあったら逃がさない様に見張る人員を割くことにした。そして、それを私とアイビーが担当する」
…え?私と隊長が見張りをする?それは、つまり
「…つまり、私は攻めに参加しないということですか?」
「そうだ、攻めはナギ達四人に任せることにした」
その隊長の言葉に少し焦る。そんなことになったら私はフレアさんに会うことも話す機会が無くなってしまいます。
「私も攻めの部隊の方に参加したいのですが、駄目なんですか?」
私が参加すると利点もいくつかあります。まず、いくら調べたとしても実際に行ったことの無い人だと迷ってしまう可能性があります。私も観光している時に地図を見ながら歩いても場所が分からなくなって迷子になりかけたことがあるので知っています。
私は一度その建物に入ったことがあるのである程度内部の事も把握していますし、ナギさん達の役に立てると思います。そのことを隊長に訴えかけますが
「…駄目だ。少なくとも今の状態では行かせることが出来ない」
首を振った後に私の目を真っ直ぐ見て隊長は話始めます。声色からも隊長はこの決定を変える気が無いことがうかがえます。
「アイビーはこの数日よく頑張っていた。今まで以上に訓練を励んでいたし、私もそれは分かっている」
「なら!」
「しかし、今回は事情が事情だ。聞けば、今回の転移者はアイビーの知り合いだそうだな」
「それは…」
その話は関係ないと言おうとして、自分がどうして攻めの部隊に参加したいのかを改めて思い返します。私が参加したい理由はフレアさんともう一度話す機会が欲しいからです。つまりそれは今回の件が思いっきり関係していることになります。関係ないとは言えません。
「今までのアイビーの頑張りを見れば悩むのを止めて真剣に撃ち込んでいるのは分かる。だが、いざ実際に目の前に現れた転移者を撃つ事が出来るのか?その疑問は私の中から消えることはない。もし、撃つことが出来なくてそこからナギ達が危険にさらされるような事が起きた場合を考えると、アイビーを攻めの部隊に加えることは許可できない」
「そんなことは無いです!私は!」
なおも食い下がろうとする私を隊長が止めて話を続ける。
「どちらにしても、攻めの部隊にアイビーを入れることは出来ない。分かってくれ」
隊長の言葉に私は口を噛みしめて俯きます。隊長の言っていることも分かります。たった一人のために皆を危険にさらすことは出来ませんし、私自身どうなのか自分でもよくわかっていません。でも、それでも私はフレアさんに会ってもう一度話をしたかった。説得とかそう言うのではなくて自分の中でケジメをつける為に話をしたかった。でも、そんな悠長なことを出来る時間を仕事中に確保することは難しいでしょう。私は悔しい気持ちを抑えて頷きました。
「…はい、わかりました」
震えるような声でそう答えると
「…ありがとう、ではこれより、外来種の駆除を始める。」
隊長は私の頭に手を置いてポンポンと撫でた後にナギさん達の方を向いて宣言しました。それと同時に転移が開始して私達の体が浮遊感を感じて視界が白く染まっていきました。
それでも、私はもう一度フレアさんと話をしたいです。
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