case5 異物混入
騒いだ翌日
「…んぅ…」
体を起こして少し痛む頭を軽く抑えながらゆっくりと目を開けます。確か皆さんと飲みながら騒いで食べて遊んで…そこから先の記憶がありません。何があったんだろう思い返しながらベットから出ようと体を起こして手をかけようとしましたが、その手は空をきってバランスが崩れます
「うわ!?」
思わず下を見ると私が寝ていた場所はベットではなく、昨夜私が皆さんと騒いだ場所の椅子を並べた物の上に寝ていました。それは分かりましたが、咄嗟の出来事だったのでリカバリーできずに体が倒れてしまい大きな音を立てながら落ちてしまいます。
「いったぁ…」
体の節々からの痛みを感じながら体をもう一度起こして立ち上がります。どうやら、私はあの後自分の部屋に戻らずに、ここで寝てしまったようです。毛布を回収して顔を上げて周囲を見回します。
部屋の奥にあるソファーに隊長がセラさんを膝枕しながら寝ていて、ユッカさんが酒瓶を抱えながら床でいびきをかいて寝ています。
「おや、よく眠れましたか?」
そう言って奥の部屋からバロックさんが出てきました。
「おはようございますバロックさん。昨日は皆さんのおかげでぐっすり眠ることができました」
飲んで騒いだおかげで嫌な物を忘れてぐっすりと眠ることが出来ました。
「それは良かったです。それにしても、昨夜は大騒ぎでしたね」
苦笑を浮かべながらバロックさんが机の上に残っているお皿を片付け始めました。
「あ、私も手伝います」
毛布を一旦私の寝ていた椅子に置いて自分の立っている場所から一番近いお皿を重ねていきます。
「ありがとうございます。お皿は奥の部屋でナギさんが洗っているのでそこに運んでください」
「分かりました」
少し高く積みあがったお皿を抱えてゆっくりと歩き出して、開けられない扉の前で軽く絶望した後に頑張って開けて奥の部屋に入って行きます。
奥の部屋の窓際に水場が設置されていて、そこにナギさんがお皿を洗っていました。
「おはようございますナギさん。お皿は何処に置けばいいですか?」
「おはようございますアイビーさん。お皿はそこにおいてください」
ナギさんがすぐ左側を指したので、そこにお皿を置きます。反対側を見れば昨夜宴会で使っていたお皿が綺麗に並べられています。
「ありがとうございます。それでアイビーさん今日は休日ですけど何か予定は立てていますか?」
「今日はせっかく教えて下さったので、裏の森でゆっくりしてみようかなと思っていまして」
前回は暗かったので余り見て回ることもなかったので、明るいうちからのんびり歩いて回ろうかと思っています。
「そうですか」
「ナギさんは何か予定は?」
「特にないですね。冒険者稼業も今回はいかなくてもいいので部屋とかでのんびりしようかと」
「でしたら、今回の休日の都合のいい日に食事に行きませんか?」
「食事…ですか?」
「はい、前回の休みの日に一緒に観光に付き合ってくれたので、そのお礼として、あと誰かと一緒に行きたかったので丁度いいなと思いまして」
「でしたら最終日の前日というのはどうでしょうか?日帰りですよね?」
「はい、一度行っているので迷うこともありませんし味も保障します」
「いいですね、では楽しみに待っていますね」
「はい!」
「では、話もまとまったところでバロックさんを手伝ってあげてください」
「あ、そうでした。手伝ってきます」
ナギさんに背を向けて部屋を出ます。部屋を出ると隊長が目を覚ましていて、セラさんの頭を撫でながらバロックさんと談笑していました。よく見るとセラさんがうるさくて起きないようにもう片方の手で耳を塞いでいます。
「隊長、おはようございます」
挨拶をすると、隊長は私に気が付いて顔を向けました。
「おはようアイビー、よく眠れたようだな」
「はい、おかげ様で。…それで隊長、何でセラさんを膝枕しているんですか?」
「それは…アイビーが寝た後に私がソファーに座りながら悪乗りでセラに膝枕をさせていたら、お互いそのまま寝てしまったんだ。先ほど起きた時に少しビックリしたが、頭をどかそうとすると起こしてしまうかもしれないから、しばらくはこのままだな」
個人的にはどんな経緯でそうなったのか、もっと詳しく聞きたいところですがそれはセラさんの方に聞くことにしましょう。
「そうなんですね」
「ああ、だがバロックから聞いたがナギも起きているのだろう?三人とも起きるのが早くて、片付けも率先してやっている。偉いな」
「いえ、私は少し前に起きただけなので、バロックさんとナギさんの方がもっと働いています」
「だが、手伝ったのは事実だ。褒められたら謙遜せずに胸を張った方がいいぞ」
「そうなんですけど…少し、気恥ずかしです」
私自身としても実力不足で経験不足なので褒められて嬉しくはありますが、素直に喜べません。他の皆さんはもっと上手にやっているのが見えます。作られてからの年月分の差だとは分かっていますが、それでも皆さんに追い付きたいのでまだ追い付けていないのに褒められるのは少し恥ずかしいです。
「そうか、しかし褒められたらたとえ不満だったとしても受けておけ」
「…わかりました。ありがとうございます」
そう返事をした直後でした。けたたましい音と共にいつも仕事内容を送ってくるFAXがカタカタと動き出しました。
「ウェ!?」
「なんですか~」
その音に反応してユッカさんとセラさんが起きました。ユッカさんは跳び起きるように立ち上がって酒瓶を小指にぶつけてうずくまりました。
いつもと違う機械音を発しながらFAXは動いていましたが、突然ピタリと止まって音声が流れてきました
『緊急事態 緊急事態 転移者が蘇生され転移課から逃走し現在行方不明。各隊員は指示に従って対処してください。なお装備に関しては直接転送されますので創造課に寄る必要はありません。部隊部屋にて少々お待ちください。繰り返します…』
その後は同じ言葉を繰り返しながらFAXが再び動き出して、紙を数枚吐き出しました。
セラさんが体を起こしたことで自由になった隊長が紙を拾ってしばらく眺めた後にため息をつきながら顔を上げました。
「皆すまないな。緊急の仕事だ。他の部隊が運んできた転移者が何かしらの手段で復活して暴れているようだ。私達753部隊も協力して事の対処に当たることになった」
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