乱入に次ぐ乱入

 左肩から右の脇腹にかけて水の刃で切り裂かれて傷口から血が流れる。


「ぐっ・・・」


 転生者の理不尽な幸運を呪いながら魔法が放たれた方向をみる。


 私達がここに突撃した時に開けた穴から一人の女性が入ってきていた。転生者に似たようなローブを羽織ってはいるが転生者よりも装飾品が少ないな。まぁ転生者とか転移者って部隊や国に所属している場合は大体トップにいるから、そこの転移者は隊長か何かで部隊を率いているのだろう。


「武器を手放して両手を上にあげなさい!何か一言でも話せば魔法詠唱とみなします」


 そう言って女性は手をこちらに向ける。


 少し甘いと私は思う。すでに戦闘が始まって終わろうとしている時に降伏勧告を流すのは遅すぎないだろうか?ある意味教科書通りの動きなのだろうが・・・もしかして戦いなれていないのだろうか?

ならこう言う場合は考える為に少し時間があるから、その間に考えることにしよう


 今の状態は余り良い状態ではない。先ほどの攻撃は上着の魔法耐性がある程度防いでくれて思ったほど傷は深くない、皮膚の表面を切り裂かれたぐらいだ。足の傷もまだ我慢できる痛みだ。

本来なら向こうよりも転生者を優先して行動すべきだから、振り向かずにユッカに任せるべきだった。


「どうしました!早く武器を地面に下ろしなさい」


 女性の手に水が集まって鎌の形状になってきている。


 ここは刀を落として注意を刀に向けて銃で不意打ちが一番だな。


 全ての部隊が魔法と物理無効を持っているから実弾を撃っても大丈夫だろうが、一応手足を狙っておこう。まだ命中精度に自信はないが当たらなくても問題ない。


 私は刀を手放して地面に落とす。女性のホッとした表情を見た後に銃を女性に向けて撃とうとしたがユッカに襟をつかんで手繰り寄せた。


「なに?」


「ウィンドサイズ!」


 ユッカが引き寄せたほぼ同時に私の頬を何かが掠めていき少し頬が切れた


 私の頬を掠めた何かは天井に当たったらしく石製の天井を切り裂いた。


 風魔法か。それに後ろからということと、聞こえた声からして転移者が撃ったということだろうな。


「ウルト様どうして!?せっかく武器を置いたのに」


 いや、その後すぐに撃とうしていたのだが・・・


「何を言っているんだ?彼らはすでに攻撃してきている!その時点で降伏や和解の道はすでにない」


 確かにその通りだが私達を放置しているのは、どうなんだろうか


 今のうちにユッカの方に顔を向けてコクンと礼をする。


 ユッカは無言でサムズアップした後に私を指さした後に女性を指さして、次に自分を指さして転生者を指さす。私が女性を担当してユッカが転生者を担当すると・・・


 本当なら私が転生者の相手をしたいがこの状態で一人で戦って勝てるかと言われると自信がない。それならば向こうの方がいいか・・・


 私は渋々ながら頷く。


 さて決まったことだし始めるとするか。


 音を立てないようにライフルを操作してグレネード弾に切り替えて転移者に向けて発射する。発射音でこちらに気が付いた二人だったが既に遅く不意打ちに近い形でグレネード弾が炸裂して転生者を吹き飛ばしたのと同時にユッカが走り出して追い打ちをかける。


 私も、突然のことで呆気に取られている女性の脇腹に向けて飛び蹴りを放つ


 転生者のことを目で追っていた女性を目掛けて放った跳び蹴りは無防備な脇腹に命中して屋根の上に蹴り上げた。


 屋根の上に出たのを確認しながら着地をして地面に落とした刀を拾ってから上に上がるためにジャンプする。しかし鈍く傷んだ足の傷のせいで少し力が入らずに少し届かない。


 しかたない、なるべく不自然にならないように気を付けながら飛行装置を起動して上に昇る。

上に昇ると先ほどの女性がただ顔を俯いて立っていた。手には先ほどのように水が集まっていなく魔法を発動している気配もない。


「なんで、ですか?」


 彼女は広げていた手を握りしめて顔を上げて睨む。


「?」


 私は彼女が何故怒っているのかよくわからない。


「何で攻撃をしたのですか?私はあなた達を助ける為に!」


 そう言って彼女はうっすらと涙を浮かべる


「助ける?何故助けられる必要がある?私達は転移者・・・ウルト=オウルガストを殺害と回収のために来た。そちらに殺されるようなことがあっても助けられるいわれはない」


「それはあなたが勧告に従って武器を捨てようとしたから!」


「あれは君の油断を誘うための演技だ」


 世の中全ての戦いを正々堂々戦って勝てたら苦労などしない。ましてや相手は神の力の一部を持っているヤバイ奴ばかりだ。馬鹿正直に正面から戦ったら負ける可能性が高い。ならば私は皆のために勝てる作戦を必死に考えて提案し実行する。もう二度と失わないために、二度と失望されないように自分が考えられる最善を尽くす。


「なんで・・・そんな卑怯なことを」


 多分だが彼女はアイビーと同じように新人なのだろうか?だとするなら戦うことにある程度忌避感があるのは理解しているが、この子はこれからこんな調子で大丈夫なのだろうか?


 アイビーは最初の仕事に転移者を撃つことができたからまだ大丈夫だが、この子はまだ殺すことに慣れてないのではないだろうか?というか教えられたことをそのまま戦場に持ち込んでいるのな?


 とりあえず会話を続けよう別に彼女を殺す必要はないから、出来るなら戦うことを延ばしてアイビー達と合流して戦闘不能に追い込みたい


「確かに卑怯だが君たちが言えることか?一方的に広範囲殲滅魔法攻撃を撃っているのは正々堂々なのか?」


「それは・・・」


 今の所彼女の価値観は教えられたとおりの考えで動いている。ならばここでその教えを完全に否定すれば少なからず動揺を誘うことが出来きて不意打ちが成功しやすくなる。


「戦いに卑怯もラッキョウもないぞ。勝てば生きて負ければ死ぬそんな戦いなら卑怯だろうが勝利すればいいのだからな」


 戦いを避けたいのなら転生者を最初に交渉部を行ったときに素直に差し出せばよかったのに決まったことなら作戦から降りるなりすればいいのに


「いえ・・・そうではなく・・・」


 言い返したいようだがうまく言葉が出ないようだ。今が好機かなそう思い近づこうとした時だ。下から爆発音がしてユッカが下から飛び出てきた。


「ユッカ!?」


 ユッカは空中で身をひるがえして私の隣に着地すると


「済まないっス隊長。もう少しだったんすけど邪魔が・・・」


そう言った直後に私達が出た穴から、いくつかの人影が出てきて話していた女性の近くに浮かびました。

その中にはあの転生者の姿があることから、多分転生者の仲間なんでしょう。


 またしても転生者に振ってくる幸運を私は舌打ちしながら呪った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る