戒名付けと防御の仕方

「なるほどな」


 セラが通信回線を開いたままにしてくれたので向こうの会話を聞けることができた。


ではこちらに誰か助っ人は誰だろうか?


「いや、なるほどなって納得して考えている場合じゃないっスよ隊長!!俺達が振り落とされる前にその手を放して欲しいっスけど!!」


 私達は現在、私達を振り落とそうと体を揺らしているドラゴンの背中の上にしがみついている。


 全員体は丈夫に作られているからこの高さから落ちても打ち所が悪くない限り死にはしないが、落ちるのが嫌なのでしがみついている。


 まぁ私がしがみつくときに体に突き刺した剣を握ったから動くたびに剣がグリグリしているので、ドラゴンが痛がって余計に動いているのだがな。


「なにを言っているユッカ。手を離したら私が落ちてしまうじゃないか」


「なに言ってんのはこっちのセリフっスよ!!ナギさんを見てください顔がグロッキーになっているッ

スよ!!」


「・・・大丈夫です・・ユッカさん。今日は打ち上げの為に何も食べてないので出すものはありません・・・」


「それはそれで問題っスよ!!俺らは別に食事とかは必要ないっスけど、モチベーション維持のために食べた方がいいっスよ!!」


「いや、そうではないと思いますが」


 ・・・話がそれているし、皆結構余裕があるな


 と言うかナギ、別に今日打ち上げはしないのだが?


 そう思っていると体の揺れが止まった。


 セラの通信を聞く限りアイビーのレールガンをチャージし始めたのを感じて本能的に止めようとしたので、こちらよりもあちらを優先したということだろう


 ならばこちらがすべきことは目標を移動させないことだ。


 今までの作戦ではアイビーのライフルの有効射程まで接近する必要があったが、『オーベルテューレ』なら射程は気にしなくていい。


 むしろ近い方が危険だ。


 アイビーにとっては初めての武器だから、目標を動けないようにしてアイビーが狙いやすくすることが出来れば御の字だな。


 だとするならば、まずは翼を切りたいった方がいいだろう


 空を飛ばれると行動範囲が広くなってアイビーが狙いにくくなってしまう


 未だに使っていないがこの先も使わないとは限らない


 こちらにも誰か来ると言っていたが・・・


 そうこうしている間にドラゴンから無数のブレスが放たれている


 細かいのは途中で爆発しているので通話で効いた通りにセラが対処しているのだろう


 だがブレスを放ちながらドラゴンがセラ達に近づいている


 このままではチャージが間に合わずに押しつぶされてしまう


 試しに背中の剣をグリグリしたが動きは止まらない


 痛みの気が付いていないか無視をしているか・・・先ほど振り落とそうとしたから後者だろうな


 周りを見るとユッカたちが振り回される前と同じように別の場所で鱗を割って攻撃している


 しかし動きは鈍ってはいるが止まる気配はない


 このままではレールガンのチャージ前にドラゴンに押しつぶされる


すると


「お待たせしました」


 そう言ってカルセさんが私の前に転移してきた


「カルセさん、なるほど武器を持ってくるのはカルセさんでしたか」


「はい、持ってきました。ですが急いで用意したのでメンテが終わっていた隊長の『戒名付け』しか用意

できませんでした。他はオーバーホール中で分解されています」


「それでも十分です。ありがとう」


 そう言ってカルセさんから差し出された刀を受け取る。


 鞘は無く代わりに峰に部分を挟むようにクリップが設置されているので、そこに刀をつるす。


「アイビーさんのは、定期メンテナンスがちょうど終わっていた旧装備を引っ張り出して渡しました。動

作に問題はありませんので大丈夫です」


「そこに関しては心配していない。あの室長が不良品を渡すわけがないからな」


「ええ、その通りです。では私はこれで」


 そう言ってカルセさんは転移していった。


「さて切るかユッカ達は嫌がらせを継続してくれ」


「了解っス」


 ユッカ達に指示して私は翼の付け根に向かう。


 途中に刀を抜いて重さを確認する。


 前回使ったときとあまり変わっていないようだ。


 後は切れ味だがそれは実際に切った時にわかるか。


 翼の付け根を切る前に付け根の太さを確認する。


 少し大きいなので問題ないな。


 私は腰を落として居合切りをしようとしたが、鞘がなかったことを思い出した。


「・・・そうだった。危ない危ない」


 刀をいったん下げて気持ちを落ち着かせてから、上段に構えて付け根を斜めに切るために振り下ろす。


 付け根に当たった刀は切ったという感触すらなく入っていく骨も肉も当たる感触がなく刃が通る。


 一切引っ掛かることがなく刃は翼を切った。


 私は付け根に近づき軽く押す。


 最初に少しつっかえたが、あとは簡単にズレた。


 飛膜しかついていない翼は自身の重さに従って地面に落ちて行った。


 ドラゴンの動きが止まる自身の体が少し軽くなったことに違和感を覚えたのか、こちらに振り向いて地面に落ちた翼をみる。


 落ちた事実を確認して受け入れる。


 痛みに今気が付いたのだろう、耳をつんざくほどの咆哮があたりを揺らす。


「翼の破壊に成功した。逃げるぞ」


 ユッカ達にそう連絡して、そのまま前足に向かって走り刀を突き刺しながら前足から落ちて行った。


 鱗すらも空気を通るように刺した刀は一切つっかえることなく、一緒に落ちていく


 落下する速度が上がっていくがそのまま受け身を取って着地する。


 直後に前足の切った部分からシャワーのように血が降り注いでくる。


「アイビー!!撃て!」


 走りながらアイビーに連絡をする。


『チャージ完了、照準よし!オーベルテューレ発射!!』


 そう言った後に轟音が鳴り響き青い閃光がドラゴン目めがけて飛んでいった。


 オーベルテューレは旧式のレールガンだがドラゴンの頭を吹き飛ばすには十分な威力がある。


 当たる、そう思ったがドラゴンが体勢を崩してしまい弾丸は左目を穿った。


 前足から崩れているから私が前足を切ったのが原因か、失敗した。


 しかも体制を崩しながらも口にこれまでよりも大きい火球を作り出している。


 あの傷では長くないだろうから、破れかぶれの一撃だろう。


「まずい」


『いや、これで終わりだ』


 勇者が言った直後にドラゴンの口を壁が塞いだ。


 直後にドラゴンの頭が爆発した。


『俺のオリジナルの魔法のウォール・マスクです』


「ネーミングセンスについては気にしないでおこう。見た所、防御用の魔法をドラゴンの口に被せて内部で爆発させたところか?」


『はい、今までの威力では倒せるほどの火球ではなかったので使いませんでしたが、先ほどの攻撃は今までの攻撃よりも大きな火球だったので使いました』


 説明してもらった後に上から血とかその他諸々をまき散らしながらドラゴンの頭が落ちてきた。


『隊長』


 声が変わりアイビーの声が聞こえる。


「ああ、よくやった。」


 そして全員に回線をつなげる。


「諸君これで作戦は完了した。全員無事でドラゴンの駆除を完了できたことに感謝を」

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