第97話 ワンコミュニケーション

「ふぅ、いきなり話しかけられたからビックリしたよ」

「ふふっ、お疲れさま」


「でも俺と違って、春香は全然動じてなかったよな? もしかして春香って、初対面に強い系だったりする?」


 俺も別に初対面の相手におどおどしたりはしないんだけど、春香はそういうレベルを超越して、普段と全く変わらない様子だった。

 メンタル強過ぎね? って思ってしまった。


「そういうわけじゃないけどね。ワンコ界隈だと、初対面でお互いのワンコ談義は結構あるあるだから。ワンコミュニケーションって感じかな」


 ワンコ+コミュニケーションで、ワンコミュニケーションか。


「今の、上手く言ったと思ってるだろ?」

「でへへ~、ちょっぴり……でね?」

「ん?」


「多分なんだけど、さっきの人、わたしが『慣れさせ散歩』をしてたから、手伝けしてくれたんだと思うんだよね。おかげでピースケが、人と犬の両方に慣れられたし」


「さっきのはそういう意図だったのか。いいな、そういう関係って。ワンコ愛から発生する自発的な協力関係……なるほど、これはワンコミュニケーションだ」


「でしょでしょ?」


 そしてマダム&ポッキーちゃんとのワンコミュニケーションのおかげで、ピースケの慣れさせ散歩は一気に進み。


「じゃあピースケ。リードを外すね」

 満を持して、春香がピースケのリードを取り外した。


 キャウン?

 お外で突然リードを外されたピースケが、不思議そうに春香を見た。

  

「ピースケ、今日は自由に遊んでいいからねー」


 リード無しでいいんだよ、っていうのが伝わるように、わかりやすくリュックにリードを仕舞ってから、春香はピースケの頭をわしゃわしゃっと撫でた。


 リードを外されたピースケは、最初は『いいのかな?』みたいな様子でおっかなびっくり歩いていたが、元より元気印のピースケである。

 すぐに走って遊び始めた。


 ダダダダダダダッ!

 ダダダダダダダッ!

 ダダダダダダダダダダダッ!


 ピースケが右に左に、広いドッグランの芝生を縦横無尽に走り回る。

 その力強い走りと無尽蔵のスタミナに、俺は驚きを禁じ得なかった。


「犬ってこんなに運動能力が高い生き物なんだな。普段はリードに繋がれて大人しくしてるから、全然知らなかった」

「柴犬は特に、運動するのが好きみたいだよ?」


 さらにピースケは俺や春香の足元にまとわりついて、一緒に走ろうとアピールをしてくる。


「しょうがない。ちょっと競争してくるよ」

「頑張ってね♪ わたしはこーへいを応援するから。ピースケには悪いけど」


「おうよ」

 ブンブンブンブン!


 俺はピースケと一緒に走り始めたのだが――、


「ぜぇ、はぁ……ぜぇ、はぁ……ちょっとごめん、いったん、はぁはぁ、休憩する……」


 帰宅部エースの俺、リトルリーグやサッカー部時代からは考えられないほどに早々と、バテてしまった件……。


 息も絶え絶えに、思わず芝生にヘタリ込んだ俺に、


「はい、ポカリ」

 春香がリュックからスポーツドリンクを取り出して、渡してくれた。


「サンキュー……」

 すぐにごくごくと飲み干す。


 ああ、美味い。

 五臓六腑ごぞうろっぷに染みわたるようだ。


「今度はわたしが遊んでくるから、こーへいはしばらく休んでて」

「そうさせてもらう」


「ピースケ、おいで♪」

 ダダダダダダッ!


 ポカリ片手に、春香がピースケとじゃれ合っているのを眺めている内に、俺の疲れた身体もすぐに回復する。


 その後、俺たちと春香は一緒にピースケと走って遊んだ後、今度はピースケをワンコ用遊具のあるところへと連れて行った。

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