第40話 コルトは凄い銃


 ちらほら人のいる港をラナと2人で散歩し終えて、キングの待つ倉庫へと戻る。

 潮風は感じられなかったが、雰囲気だけでも楽しむことは出来た。槍の修行時代に戻ったかのような、懐かしく良い時間だった。

 

「ぐぎぃ」

「ただいま、キング」

「ふふ、キングは本当にエイトが好きだよね」


 ラナは倉庫に戻るなり、キングの歓迎を受ける俺をみて言った。

 

「俺とキングは相棒だからさ。な、キング」

「ぐぎぃ」

「ん……エイト、簡単に相棒増やしすぎじゃない?」

「ぁ」


 ラナの不機嫌な声にびくりと震える。


「も、もちろん、ラナの方がランクは上だって。そうそう、″最″相棒。はは、はは…」

「ふふん♪」

「…ぐぎぃ」

「え、キングも″最″相棒ポジションに着きたいって?」

「ぐぎぃ!」


 キングは愛くるしいくりっくりした瞳を潤ませて″最″相棒ポジションを要求してくる。

 だが、ラナはすかさずキングの甲羅をペチンっと叩いて丸まらせた。有無を言わせない。無慈悲な速攻である。

 にしても、うーん、俺、深海に来てからみょうにモテるな……。


「帰ったぞ」

「エイト様、ただいま帰りましたよ!」


 ガアドとファリアが帰ってきた。

 丸まったキングの上に、俺を挟んでファリアとラナが座る。これは……最高だ。


「3人とも、この注射を使え」


 ガアドに俺の知ってる外感より、やや質感が未来チックな注射器を渡される。

 彼の説明によると、これは体内のナノマシンを抑制する効果があるらしい。

 ラナとファリアはそれぞれ注射を打つ。

 が、俺はいまいち自分が注射器を渡された意味がわからなかった。


「俺は、打つ必要ないだろ? ナノマシンが入ってるわけないんだからな」

「……お前は、そうだな、別の意味で必要になる」

「?」

「とにかく打っておけ」


 ガアドは俺の手から注射器を奪い、首にぶっ刺して中の物質を打ち込んだ。

 注射は一瞬で済んで、傷痕もほとんど何も痛まない。


「これで終わり? こんなんで、本当にナノマシンを無効化出来たのかな?」


 ラナは手首の傷をさする。


「問題ない。これでディザステンタのナノマシンを無効化し、彼にこちらの位置を掴むことは出来なくなった」


 ガアドは注射器を回収して、そこら辺に投げ捨てると、今度は俺たちにキングのうえから退くように言ってきた。

 ガアドはキングの甲羅のうえに足を乗せて、ポケットから煙草を取り出すと、それに火をつけて一服する。

 気持ちよさそうに煙と戯れたあと、彼はキングを見下ろした。

 

「『カモフラージュ』。偽装用のコカスモークだ。注意して見られない限り、アルゴンスタであるキングを別の生物に見せられる」

「何に見せかけるんだ?」

「三毛猫だ。特に理由はない」


 ガアドはそう言って、口にため込んだ煙を勢いよくキングに吹きかけた。

 キングの体が紫色のキラキラした煙に包まれていく。煙が晴れた時、そこには丸まった状態から戻ろうとするキングの姿が見えた。一見して、猫に変わっているようには見えない。


「失敗か?」

「いいや、成功だ。『カモフラージュ』は能力を使用した場に居合わせたものには効果がない。俺たちには、正常に、普段のプリプリにデカいアルゴンスタが見えてるわけだ」


「本当に猫になってるのかなー」


 ラナはキングをつつく。

 俺もキングを注視する。

 うーん、何かが変わってるようには見えないけどな……。不安だ。


「ファリア、デカい武器は捨てていく。この先の街はどうどう武装できないからな」

「オッケー、パパ。あっ、ラナちゃんも、リボルバーは見えないところにしまった方がいいですよ」


 ファリアはラナのコルトを、腰裏とジャケットの内側に隠すようにしまわせた。


「あれ? この銃……」


 ファリアはラナの銃を手にとり、不思議そうな顔をする。


「どうしたのよ」

「これ凄いですよ…質量弾の銃だとは思ってましたけど、まさか倍率が半端じゃないです! こんなものどこで手に入れたんですか?!」

「えっと……」


 ラナが俺の顔を見てくる。

 その隙に、ガアドはコルトを手にとり、軽く眺める。


「小峰マクレインを倒したらくれたんだ」

「っ、あの伝説の『ガンスリンガー』を……流石はエイト様! まずありえないような偉業がさらっと口から飛び出すあたり、もうー! 最高ですよ! 惚れ直しました!」

「ふむ、良い銃だ。こんな銃があるなんてな、だが超能力者『ガンスリンガー』の銃ならば納得できる」

「ねえねえ、ガアド、その銃の何がそんなに凄いわけ?」


 ラナの問いかけに、ガアドはシリンダーから弾を抜いて、そのあと一発だけ弾を込める。「実戦じゃ無意味なことだが……」と前置きしてから、彼はシリンダーをクルクルと勢いよく回転させて、銃口を俺に向けてきた。


「この銃には射手を選ばない『追加能力』が多数、加わっている」

「『追加能力』? 俺たちの世界で言う、魔法の武器みたいなもんか?」

「超能力者が愛着のあるものに込めた異能のことだ。超能力者が意図して能力をつけたり、無意識にある種の能力をつけていたりと様々なケースが存在する」


 俺の目と鼻の先の銃口がどけられる。


「たとえば、この357の場合、ひとつ目が″運命干渉″。狙った獲物は逃がさない。相手を必ず殺す。運命をねじ曲げて敵を撃つ、そんな超能力に派生する前段階の意味づけだ」


 ガアドはシリンダーのなかに装填された弾を見せてくる。たった1発しか込められてない弾は、ちょうど引き金を引いたら飛び出す位置に来ていた。

 ガアドは再び、シリンダーを回転させて、カチッと音を立てて狙いをつける。再度、シリンダーを確認したら、今度も1発しか込められていない弾は、引き金を引くだけで打てる位置に来ていた。偶然ではない、と言うことだろう。


「ロシアンルーレットする時は、この銃を使うんだな」


 ガアドは薄く笑い、慣れた手つきで全弾シリンダーに込め直すと、コルトをラナに返した。


「他にも良い能力が盛りだくさんだ。大事にしろ」

「いいなー! ラナちゃん、その銃、ファリアに貸して欲しいなー!」

「ふっふふ、残念だけど、ファリア、それは出来ない相談ね。だってこれ、エイトからわたしへのプレゼントだもん」


 ラナはコルトをくるくる回してガンアクションし、俺の腕に手を回してくた。ありがとうございます。


「ちぇ、いいですよ、それじゃ。ファリアだって、超能力者のアイテムを奪って使ってやりますもん!」


 ぷんぷん怒るファリア。ガアドは娘をたしなめながら、倉庫を出ていく。

 俺は少し考えたあと、ポケット空間から一つのアイテムを取り出した。


「それは?」

「カジノの超能力者から記念でもらったんだ」

「トランプだ。ん、なんか硬くない?」

「……」


 俺とラナは開封したトランプが、異様なまでに″硬い″ことに気がついた。

 指で軽く折り曲げてみる、弾力があり、そして、微妙に光沢のある『金属製トランプ』であることがわかった。


「なにこれ…カジノの時は、紙製じゃなかった?」

「このトランプも、なんか効果あるのかな?」


 俺はサイキから奪取したトランプを、磁力を操作して空中に浮かしてみる。


「なにしてるんだ、はやく来い」

「エイト様、ピカッと、キャッーチ! 2人きりになった途端にいかがわしい事しようとしちゃだめですよ!」


 ファリアにピカッとキャッチされ、俺とラナはガアド達のあとを追いかけた。



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