<ノーブラッド編>第三話 VI
「うーん、繋がらない」
茜色の空の下、携帯とにらめっこをする天姫。
「謝ろうと思ったんだけどな………」
先程、紅白と別れてからというもの、心のもやもやがどうにも収まらなかった天姫は、紅白に電話をかけていた。しかし、何度かけても紅白が出る気配がない。
「コウの家に行こうかな…。でも今日はお父さんが帰ってくるし………」
―――――
「え?」
そんな時、知った声が聞こえた気した。
後ろ振り返り、声が聞こえた方を見る。
しかし、視線の先には道行く人が映るだけ。
聞き慣れた声の人物はそこにはいない。
「………気のせい?」
若干腑に落ちないのはそうだが、辺りを見渡してもその人物はいないので、気のせいだと納得するしかない。
「明日にするかぁ」
天姫は、強くなった西日の下を歩いていった。
赤く輝く西日が、暗い路地裏を微かに照らしていた。
そこには、男が横たわっていた。
その数、五人。
「プロ、ねぇ」
地面に横たわり、動かない五人の中で、一人たたずむ黒の人物。
五人は全員血だらけで、まだ息はあるものの、見るも無残な姿となっていた。
「なんだっけ、好都合?不幸の間違いじゃないのか?」
「くっ………」
その中の一人、リーダーは意識こそ残っていたが、両足と右腕の骨を折られ、動くこともままならない状態となっていた。
「さて、もう一度聞く。お前らの『上』は誰だ?どこにいる?」
「……………」
黒の人物は、男たちに何度も聞いていた。しかし、一向に応える気配がなく、さらに向こうから攻撃してくるので、反撃し、そして拷問のような状態となっていた。それが幾度となく繰り返され、意識が残っているのは、リーダーただ一人となってしまった。
黒の人物は、パチンと右手の指をスナップさせた。瞬間、リーダーの顔は微かに歪んだ。さっきから何度も聞いた地獄絵図の引き金。直後、折れた右腕の肩口から鮮血が噴き出した。
「ぐぁああ!」
薄暗い路地裏の空間のみに、男のうめき声が響き渡る。しかし、それ以上の言葉を発することはない。
「………しっかりと教育が行き届いてるじゃないか」
「おかげさまでな…」
これ以上の拷問は意味をなさないらしい。
ブー、ブー、ブー
と、その時、リーダーのポケットに入れられた携帯のバイブ音が鳴る。
しかし、リーダーはその音に反応せず、動かないままだ。
「出ないのか?」
「………あいにく、怪我がひどくてな」
「左手は残してるんだがな。まぁいい」
黒の人物は、リーダーのポケットから携帯を取り出す。
「やめろっ!」
リーダーは電話に出ようとする黒の人物を止めようと、残された左腕を伸ばすが、黒の人物に腕をはじかれ、そして、奇妙な音と共に、また鈍い悲鳴をあげる。
「うぁぁあああ!」
そんなリーダーを気にも留めずに、奪い取った携帯の着信に応答する。
『やっと出たか。おい、何してるんだ。まだ終わらんのか』
声の主は女性だった。口調からして、男たちのさらに上司、『上』の人だろう。黒の人物が邪魔したこともあって、彼らの任務に大幅な時間の遅れが生じていたようだ。
『おい、聞いているのか?』
黒の人物は、電話に出ただけで何も喋らなかった。いや、聞いてすらいなかった。何かほかのことに集中しているようだった。そして、黒の人物は、自らの携帯を取り出し、何かを調べ出した。
「なるほどここか」
『………誰だ?』
黒の人物の言葉を携帯が拾ったのか、電話先の女性が、事態の異常に気付いたようだ。先程までとは、声の雰囲気がまるで違っている。
「お電話ありがとう。感謝する」
『何が起k………』
女性が何かを言い終わる前に、黒の人物は電話を切った。そして用が済んだ携帯をリーダーの身体の上に放る。
「電波を追うのは中々疲れるんだが、お前たちのおかげだ。じゃあな」
黒の人物は、男たちに背を向け、路地裏から通りに向けて歩き出す。
「ま、待て、どこに行く…!」
この状況になっても、なお抵抗し続けるその精神は対したものだが、体が動かないのであれば話にならない。
「それをお前に言う理由はないな」
そう言って、黒の人物は左手の指をスナップさせた。
黒の人物が先程までいたその路地裏には、血など一滴もこぼれておらず、ただ五人の男が横たわっているだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます