不老不死系ヒロインの呪いを解くために、一緒に旅に出ることになりました。

kirinboshi

第一章・再会

第1話「こんにちは、世界」と少女は歌う

さらりさらりと音もなく、静かに光が降り積もる。

流れる雲の切れ間より、木の葉や枝の隙間より。

砂時計が時を刻む、未知なる世界の到来を祝って。

黒蝶真珠よりも尚昏く、暗澹とした森の奥。

真昼も夜の如き場所、夜に近しいものが住まう園。

──佇むは、廃墟と化した一軒家。

人々の生活から外れて久しい屋敷へ、儚く幽かな陽光が、さらりさらりと訪れた。




ワンス・アポン・ア・タイム。それは後世にまで伝わる物語。

飢饉を初めとした、ありとあらゆる大災害に見舞われた世界を救うため、

身寄りなきひとりの少女がその身を神へと捧げた。


……けれどたったひとりの代償で、大きな世界が救える筈もなく。

少女は己が身一つで天災を贖わんとした罪により、半永久的に世界から弾かれる事となった。

人ではなく、また神でもない半端な存在として。

久遠の時を生きる呪いを、少女はかけられた。



その日アーサー・M・クロックマンはウォルヌリーチの街にある自宅を発ち、

幼い頃に暮らした祖父の家へ向かうため、人里離れたハイロ村の森を進んでいた。


そこは鬱蒼とした草木が陽の光を拒むほどに生い茂り、

昼夜の区別がつかなくなくなるほどの薄闇に包まれている。

湿った土の上には小石や木の根が散乱し、一、二歩の移動すら遮る困難さ。


また森の中ではカラスやコウモリがそこらに飛び交い、

ハブやネズミですら、誰にはばかることなく暮らしている様は、

まるでおとぎ話に登場する「魔女の森」ようだった。


「なるほど、これは人々に敬遠されるわけだ」


アーサーは額から流れ落ちる汗をぬぐいながらひとりごちる。

全身がゆだるような熱さに苛まれていた。

日頃、身体を動かしていなかったツケが出たのか、体の節々や腰が微妙な痛さに支配されつつある。

道中、森中に張り巡らされた木の根に何度足を滑らせ転倒したのか、もはや覚えてすらいない。


やっとのことで折り返し地点まではたどり着いたものの、

森の奥へと続く道は、およそ悪路と呼んでも差し支えないものであった。


「よくもまぁ、こんな危険な場所で遊んでいたものだ」とアーサーは幼いころの自分に思いをはせる。

整備された平坦な都市部の道に慣れてしまった己の脚が、今日に限っては恨めしく思えた。


「あんな危険なところに行くんだって?

 あんた頭おかしいのか?」


ハイロ村に着いた当初は、どこにでもいる普通の青年のアーサーを村人は物珍し気に眺めていた。

しかしいざその目的を話すと、よそよそしい態度でアーサーをあしらうようになった。


しょうがないよな、とアーサーは嘆息する。

彼は途方にくれながらも、その反応が正常であることは理解していた。


「誰がこんなところに、好き好んでくるものか」


そしてもうひとつ。

だからこそ、この森が住処に選ばれたのだという事も。


「よし、もう後半分だ」


悪路そのものであった道も、それは入り口から折り返し地点までということは

過去この森で暮らしてきた経験から、アーサーは己ずと感じ取っていた。


周囲を覆う暗闇は相変わらずだが、目が慣れてしまえばさほどでもなく。

木の根や小石は奥に進むにつれて段々と減っていっている。


遥か上流の滝から流れてくるせせらぎや、ときおり響く小鳥の声も相まって、

森は先ほどまでのような不気味さよりも、神秘的な雰囲気を漂わせていた。


──整備されているのだ。

人の訪れないこの森を、祖父が亡くなった後でも、誰かが整備しているのだ。



「ありがとう」


胸に温かいものがこみ上げるのを感じ、アーサーは自分でも知らずしらずのうちに微笑を浮かべていた。




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