僕の彼女は地味っ子だけど、裏では超人気の美少女ユーチューバー
波瀾 紡
第1話
高校二年の6月。
僕は生まれて初めて、女の子に告白した。
学校からの帰り道。
帰る方向が同じで、時々歩きながら話をする程度の付き合いしかない、同じクラスの女の子。
その名は
クラスでも地味で無口で、あんまり目立たない女の子。
クラスのカーストで言っても、下位に位置する女子だ。
髪は真っ黒なショートヘアで、結構ぼさぼさ。
ダサいデザインでレンズが分厚いメガネをかけてるから、顔はよくわからない。
背がちっこくて、制服の紺色ブレザーはダボっとしてるし、スカートは膝下長めでダサダサ。
でも僕は、そんな質素で真面目で、そして優しい彼女のことが……二年生で初めて同じクラスになった伊川さんのことが、いつの間にか好きになっていた。
「あ……あのさ、伊川さん」
「なに……?」
学校からの帰り道を歩きながらの告白。
ロマンティックなシチュエーションなんて、あったもんじゃない。
どんなシーンを演出したらいいのかわからないし、もしも映画のようなカッコいい告白シーンを思いついたとしても、そんな場所まで伊川さんを誘い出す勇気もない。
だから高校の正門を出て、最寄り駅まで歩く間に告白するしかないと考えた。
「伊川さんって……彼氏はいる?」
「はっ?」
歩きながら、僕はシンプルにそう尋ねる。
歩みを止めることもなく、彼女は見上げるようにして僕の顔を見た。
だけども分厚いメガネのせいで、表情はよくわからない。
僕は平均的な身長で、決して背は高くはない。だけど伊川さんがかなり小柄なので、僕の顔を見るためには見上げる形になる。
「なんで急に、そんなこと訊くの……?」
「いや……あの……それは……」
──君のことが好きだからです……
でもそんな言葉は、そう簡単には僕の喉からは出ない。
伊川さんは歩きながらも、僕の顔をずっと見てる。
横を見上げて、よそ見をしながら歩くのは危険だ。
早く、僕が言うべきことを言わないと。
「あの……実は……僕は……」
「うぎゃっ!」
いきなり彼女は変な叫び声を上げて、僕の視界から消えた。
「い、伊川さんっ!?」
彼女は石かなんかにつまづいて、ヘッドスライディングをするように、うつぶせにべちゃっと地面に倒れてる。
──心配したとおりだった!
心配したとおり、よそ見をして歩くのは危険だった。
「伊川さん、好きだ! 僕と付き合ってほしい!」
僕はよっぽどテンパってたんだろう。
倒れてる彼女の身を心配するよりも、告白しなきゃいけないという思いが強すぎて……
僕は地面に這いつくばってる伊川さんの背中に向かって告白していた。
両手を万歳のように上に伸ばしたまま、地面で伸びてる伊川さんは、首をひねって僕の顔を見上げた。
彼女の分厚いメガネはコケた勢いで外れて、頭の上辺りに転がってる。
そしてメガネが外れたその顔は……
小顔で目が二重でくりっとして、鼻筋も通ってる。
驚いた──
絶世の美少女だ。
彼女は慌てて、両手でメガネを拾い上げて、その可愛らしい顔にはめた。
彼女は僕の告白をどう受け止めたのかはわからない。
だけどその慌てた動作と表情から、明らかに動揺してることだけはわかった。
***
──5分後。
僕たちは下校路の途中にある公園に入って、二人並んでベンチに座っていた。
幸い伊川さんにはケガがなくて、立ち上がった彼女が「そこの公園に行こうか」と言うもんで、僕は素直に「ウン」と答えた。
僕はバカだ。
真っ先に彼女のケガを心配すべきだった。
もしかしたら僕は、世界で初めての『倒れてる女子の背中に向かって
──あ~あ、これで、僕の一世一代の告白は失敗に終わったな……
こんなに気遣いのできない男の告白に、応諾してくれる女子なんてきっといない。
伊川さんと50センチくらい離れてベンチに座った僕は、あまりに情けなくて下を向いていた。
「
淡々と話す伊川さんの言葉に、僕は思わず彼女の顔を見て、答えた。
「それは、もちろん……伊川さんのことが……す、す、好きだから」
「ふぅーん……根暗で地味な私だったら……チョロイと思った?」
「え? ど……どういうこと?」
「クラスでも人気の女子ならハードルが高いから、チョロそうな伊川で我慢しとこうか……って思ったんでしょ?」
いや、そんなことは全然考えていなかった。
僕は、純粋に伊川さんのことが好きだ。
僕は
そして話すのも決して上手くないし、特に女子と喋るのは苦手。
趣味はアニメを観たりネットサーフィンをしたり、ネットで小説を書いたり。
まあオタクに近い趣味ばかりってことだ。
女の子との浮いた話なんてついぞないし、彼女いない歴イコール年齢の、絵に描いたようなモテない男。
つまり伊川さんと同じく、僕もクラスのカーストでは最下位に属する男だ。
確かにそんな男が、カーストトップの美少女達に告白するなんてのは、畏れ多いことなのかもしれない。
だけどウチのクラスのカーストトップの女子と言えば──
確かに美人で、イケメン男子達にいつもちやほやされてるけど……モテない男女を小バカにするような態度のいけ好かないヤツ。
その名は池田
あんなヤツに比べたら、真面目で優しい伊川さんの方がいいに決まってる。
……いや、モテない男のひがみなんかじゃない。高嶺の花には最初から手を出せないという諦めでもなくて──
伊川さんは生物部なんて超地味な部活をしてて、部で飼育してるウサギなんかを校内の芝生で散歩させてるのを、時々見かけたことがある。
他にも花壇の花に話しかけてる姿とかもよく見かけた。
そんな時の伊川さんは、とても動物や植物に優しく接してて、ホントにこの子は心の優しい子なんだなぁって思った。
彼女のそんな生き物を愛でる姿に、胸がきゅんとしたのは隠しようもない事実。
──そしていつの間にか、僕は彼女に惹かれていた。
そうだ。カーストトップの池田
「伊川さん……チョロそうだなんて、そんなこと全然思ったことはない。僕は見た目なんかよりも、純粋に伊川さんの優しくて誠実そうなところを好きになったんだ」
──とは言ったものの。
初めて気づいたけど、さっきたまたま見かけた伊川さんの素顔は、めっちゃくちゃ可愛かった。あんなに美少女なのに、メガネで隠してるのはもったいない。
「ふぅーん……」
分厚いメガネのせいで表情がわかりにくいけど、彼女は納得してないような返事をしてる。やっぱり僕の告白は、玉砕で終わるんだな……
さっき倒れた時の気遣いのなさも、大失点だろうし。
あ~あ。僕の人生初の告白は、やっぱり惨敗で幕を下ろす……か。
残念だけど──仕方がない。
「いいよ。付き合お」
ほーら、やっぱりダメだった。
彼女は冷たく、『付き合お』って断わってきた。
──ん?
つきあお?
付き合おう?
マジ?
マジですかーっ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます