#7 いつか言えるように

「誰々?教えろよ」

「同じクラスか?」


次々に発せられる質問を手で払いのけながら、悠也は「違う」の一点張りを繰り返していた。


中学生の頃、好きな子のことでいじり倒されるのが怖かったから、自分の恋愛に関しては一切友達にも家族にも誰にも言わなかった。好きという気持ちを好きな張本人にも知られたくなかった。当然、彼女などできるわけがなかった。


でも、付き合うために友達に協力してもらったという話はよく聞く。この仲間に教えたら、協力してくれるんじゃないかとも思う。そう思い始めたのは、僕が成長したからだろうか。それとも、本気で付き合いたいと思っているからなのだろうか。


次第にヒートアップする幸大以下全員を抑えるように、悠也は声を張った。


「分かったよ」


「お、やっと教える気になったか」


「...いや、それはまだ言わない」


やっぱり、まだ恥ずかしすぎる。


「なんだよー」


期待の眼差しが一気にブーイングに変わる。


「今じゃないけど、絶対に教えるから。その時は協力してよ!?」


「おー、言ってくれたら協力してやるよ」


今はまだ言えないけど、いつか言えるようになる。その覚悟を込めた、部活仲間への発言だ。


そういえば有季さんは、部活とか入ってるんだろうか。ふと思った。

もしや体育館の部活ではないかと、体育館に目を向けた。バレー、卓球、バスケ...順に目を移してみるが、あのもう一目でわかるシルエットはいない。がっかりするとともに、今みたいな話を聞かれないで済むとも思った。複雑だ。


「ん?好きな子を見てんのか?」


気づいたら、笑顔の幸大が横に立っていた。不覚をとった。


「おーいみんな。悠也が好きな人見てるぞー!!」


拷問の第2章が開幕してしまった。




昨日とは打って変わって、今日はどんよりとした雲が垂れ込めている。まだ雨は降っていないが、天気予報によると夕方から降り始めるらしい。そのため、悠也は学校まで車で送ってもらっていた。


後部座席のシートに背をもたれさせながら、悠也はこぶしをずっと握っていた。自分を奮い立たせるためだ。


今日こそは有季さんに挨拶をする。心の中はそれしか考えていなかった。大丈夫だ。昨日何度もイメージトレーニングをした。消しゴムを借りた時も有季さんは笑ってくれた。嫌われてはないはず。


「なに一人で頷いてんの。着いたよ」


母親の声に、ビクッと体を強張らせてしまった。どれだけ緊張してんだよ。苦笑しながらシートベルトをはずす。学校周辺の道路で降ろすことになるため、素早くドアを開けて降りなければならない。


走り去る車を見送りながら学校の方に目を向けた瞬間、悠也は固まった。少し前を歩いていたのは、有季さんだった。

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