第37話 君とダークファンタジー

「……ということで、1ヶ月ほどですがお世話になります」桃子は丁寧にお辞儀をする。先日までの俺への対応と全然違う。


「そうか、私は小野寺プロの社長をしている小野寺綾だ。それと知っていると思うが、MIONこと、梵美桜だ」小野寺社長は簡略した自己紹介をする。その身なりはさすがに普通のカジュアルな感じになっていた。もう少し見ておけば良かったと思ってしまう自分が悲しい。


「宜しくね、桃子ちゃん」美桜は微笑んだ。


「宜しくお願いします」桃子も丁寧に返答をする。「えーと、そちらは……」ソファーの端に座る昌子に目配せをする。


「私は、篠原昌子といいます」彼女もペコリと軽く頭を下げた。少し芸能人に囲まれて緊張している様子だ。考えてみれば、アイドル二人と席を囲む事など、ほんの数ヶ月前なら想像することは出来なかっただろう。


「あの……、篠原さんも小野寺社長の所の女優さんですか?」


「えっ!!いやー女優だなんで!」昌子は恥ずかしそうに笑いながら俺の背中を思いっきり叩いた。


「痛い!!」生半可な痛みでは無かった。


「そんなに綺麗だから……、私はてっきり……」


「いやだぁ!」また二発目が俺の背中に叩き落とされる。


「やめろよ!おまー!」俺は泣きそうな声になっていた。


「ところで、ダークファンタジーは色々な噂も聞くけれど……、事務所の人はタレントが一人でこんな所に住む事は承知したのかい?」いや、こんな所ってあんたとあんたの所のタレントもここに住んどるがな。


「ああ、うちの事務所は基本的に放任なんです。何かあったらスマホに連絡があります」桃子はポケットからスマホを取り出して見せた。料金は事務所が負担しているらしい。


「そうなのか。うちは美桜以外はマネージャーを張り付けて管理しているからな。まあ、そのほうが人件費も削減出来るって事かな」半分休業中の美桜にはマネージャーはいなかった、スケジュール管理は自分で……、って送り迎えしてる俺ってもしかして半分マネージャーの仕事させられてるんじゃねえの。今度、給与の交渉したろ。


「私位なら、全然自分でスケジュール管理出来ますから……」桃子は何故か虚ろな目をした。


「ところでさっき言っていたダーク……ファン……って事務所の噂って何なんです?」俺は小野寺社長が言っていた桃子の所属する事務所の話が気になった。


「そ、それは……、すまない。私の失言だ。噂はあくまで噂だ。ここで言う話ではないな……」それ以上彼女は何も言わなかった。


「でも、リア充が亮ちゃんだなんてちょっとショック……」桃子が突然切り出した。


「はぁ?」ショックって何の事を言っているのか解らなかった。


「だって、昔はあんなに格好良かったのに……、でも結婚の約束してくれたのは有効だよね?」モジモジして上目遣いで俺の顔を見る。


「はぁ!?」それは四人同時にシンクロするように発せられた言葉であった。と同時に三人の視線が俺に集中する。


「えっ!もしかして忘れちゃったの!酷い~!」はい、全く記憶にございません。っていうか俺が幼馴染みと判ってから本当に180度対応が違いますね。


「ちょっと亮介……」社長、昌子、美桜の顔が大魔人のように恐ろしい物に変わっていた。


「なっ、なんでしょうか……」この惨状に俺は恐怖を覚えた。






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