第20話 与作、ちょっと希望が見えちゃう
門兵のエグラムさんの行きつけの店があるという事で後ろをついていった。
兵士だけあってガタイがいいなあとか思いながらその背中を追ってたけど、段々不安になってきた。
これまでちょいちょい顔合わせてる顔見知りとはいえ、急にご飯を奢ってくれるってなんか違和感があるような。
さっき声を掛けてくれた時は俺、道端に半裸で泣きじゃくってたんだけど。
逆の立場ならこんなヤバそうな奴に俺は声かけないな。
そもそも顔合わせてるっていってもあんまり俺に対していい感情は持ってないんじゃなかろうか。主に臭い的な部分で。
今まで門兵として会った時に好意的な感じで接してもらった事ないし、むしろ敬遠されてる感じだった。
これ、このままついていっていいもんだろうか?
俺、もしかして騙されてる?
とか、色々考えたけど結局ついていって店についた。
もう考えてもわからん。
それに騙されたら騙されたでいいんじゃないか。もう、どうにでもなれ!って感じだ。
覚悟を決めた俺の足取りは誰にも止められないっ!
「そ、そんなに腹減ってたのか?」
杞憂でした。
普通に奢ってくれました。
美味すぎて涙が止まりませんでした。
エグラムさんは俺の泣きながら飯食う姿に引いていた。
涙の理由は飯の美味さもあるけど人に優しくされた事に感動したっていうのもある。
俺が女性だったらこの瞬間にコロって惚れちゃう自信あるね。
よく見たらエグラムさんイケメンだわ。俺より少し年上?だろうか。
頭にちょこんとついてるキツネ耳がギャップ萌えですわ。
門兵姿の時にはヘルム被ってるから獣人だって気付かなかったわ。
てか、ヘルム被ってる時にあの耳は痛くないんだろうか。
「何であんなとこで半裸だったんだ?」
一通り料理を食べ終えてからエグラムさんから質問があった。
何で......か、ほんと何であんなことなっちゃったんだろうなって自分でも思うわ。
「その、ゴブリンで日銭稼いでたんですけどギルドで買取出来なくなっちゃって。宿屋で部屋のドアノブ壊しちゃたんですけど弁償するお金ないからって叩き出されちゃったんです」
自殺しようとした事はなんか言えなかった。で、自分の事を話しだすと止まらなくなった。異世界転移した事は理解されないだろうから、それ以外の経緯を全部話した。
「そうか。大変だったんだな」
エグラムさんのその言葉に、また涙が出た。
そうなんです、辛かったんです。
こっちの世界に来てこんなに自分の事を話せる機会がなかったから嬉しかったし、なんかスッキリできた。
「ところで宿がないって話だが、寮には入らないのか?」
ん?寮?なにそれ。なんの話?って顔したら、やっぱりって顔で返された。
なんでもイケメン領主カルディスの施策の一つでスラム街の解体ってのがあるそうだ。
辺境都市ルカサは急激に大きくなった街だけど、その弊害か急成長する街に職や居場所を求めて他の場所から移住する人も多くいたそうだ。
だけど移住が上手くいかず、職につけなかったり住居が見つからない、住めない人達が街の一角に集まってスラム街を形成し日に日にそれは大きくなっていったらしい。
スラム街は犯罪の温床となる場所なので例の(俺を苦しめる)都市美化計画の一環としてスラム街を潰して新しい居住区を作っている最中だとか。
新しい居住地を作る為に必要な労働力はスラム街の住人を充て、新しい居住地には元々スラムに住んでいた住民を住ませるらしい。
スラム街を解体する為に住民を移動させる必要があって、それがエグラムさんがいう寮の事らしい。
「ルカサの街の外にはなるが北口の直ぐそばに仮設住宅が建設されている。スラム街の人間はそちらに全て移したのだが、ついでに住居に困っている者も希望すれば入居できるぞ」
スラム街を新しく作り直した後に仮設住宅は領直営の施設になる予定らしいけど作り直すまでには数年はかかるらしいからそれまでは住めるらしい。
しかも冒険者はタダ、だと!?
「冒険者と言っても低ランクの冒険者に限られるがな。ゴブリン討伐で生計を立てていた子供達は孤児が多い。そんな子等への配慮として無料で住む事を許可している。討伐の代わりとなる仕事としてスラム街工事の仕事も斡旋されているぞ。お前もFランクだったら子供じゃないが申請すれば住めると思うが」
ただ、仮設住宅は結構狭いらしいし、広いルカサの街の外にあり移動にかなり時間がかかるから不便だとの事で普通に稼げる奴は、条件を満たしていたとしても入居しないそうで部屋はまあまあ余っているらしい。
マジかよ知らんかった、そんなもんがあるなんて。
イケメン領主最高じゃねえか。
色々文句言ってすいませんでした。
なんかちょっと希望が見えてきちゃったんですけど!
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