第11話 与作、誰かの幸せは誰かの不幸せだと知る
なくなぁ~おとぉ~こよ~
たたかえおとぉ~こよ~
ばかぁ~たぁ~れここ~で
おわぁ~れぇ~るかぁ~...
冒険者ギルドの美人受付嬢からステータスやレベルについて聞いてから1週間。
陽気さのかけらもない暗い声で昔何かで聞いた事のあった歌をエンドレスに口ずさみながら俺は今までと変わらずゴブリン退治を行っていた。
いや、今までと変わらずってことはない。
メンタルは完全に死んでいた。
一週間前、完全に希望を失った俺はゴブリン退治を辞め午後の冒険者活動は以前と同じようにドブ更いや清掃の仕事をして生活しようと心に決めた。
レベルが上がらないんならゴブリンなんか相手にしたくない。
ゴブリンを相手することを考えればドブ更いの方が100倍ましだ!
しかし翌日の午後、ギルドに仕事を受注しようと依頼書の張り出されているボードを見たがゴブリン討伐以外に依頼書の張り出しがない。
いつもなら不人気であるドブ更いか清掃の仕事のどちらかは必ずあったはずなんだけど?
アリーチェに尋ねた。
俺が生活する街ルカサはロイルド王国西にあるバークダット領の辺境の街だが、ロイルド王国内でも有数の大きさと人口を誇り都市と言い換えてもおかしくはない規模だそうだ。
そんな辺境都市ルカサだが数十年前までは小さな村だったそうで住人は取り囲まれる深い森の魔物たちにおびえる生活をしていたそうだ。
それが変わるきっかけとなったのが当時バークダット領を治める領主が亡くなり、その代わりに領主となったギルダン・バークダット辺境伯によるものだった。
ギルダンは領主となるやいなやまずは辺境に暮らす人々が安心して暮らしていけるよう辺境の村々を統合し、統合した住民たちがまとめて暮らせる規模の、防壁に守られた街の建設に着手する。
元々ギルダンは父である前領主の次男で父とそりが合わず家を飛び出し冒険者となったらしく冒険者として依頼をこなす中、辺境の村々を回るうち村々の住人がつらく苦しい生活を強いられていることを知り嘆いた。
冒険者活動を数年続けたのち父である領主が病に倒れ更に嫡子である兄も病に倒れ亡くなってしまったためギルダンが領主となりバークダット家を継ぐことになる。
ギルダンが辺境の人々の安寧を願い着手した街の開発は最初の数年は資金繰りなどに苦労したものの元々未開の自然豊かな土地で資源が豊富だったこともありその資源を利用し資金を集め、徐々に現在のルカサを形作っていった。
そして現在、ルカサを王国有数の都市に作り上げることに尽力しそれを成し遂げ、領民に厚く尊敬・信頼されるギルダンは老いにより領主を退き嫡子であるカルディス・バークダットが領主としてバークダット領を治めているとの事なのだが、この男、父親以上に領民を大切にする男なようで...。
「カルディス様は本当に素晴らしいお方なんですよ。若くして領主となられたのにしっかりとギルダン様の遺志を受け継がれて領民の為に力を尽くして下さっています。それに、その、とっても凛々しくて眉目秀麗なお方で...」
何でも領民を大切に思うイケメン領主がこの度、街の美化を目的とした新事業を立ち上げ街の公的機関として清掃会社みたいなのを私財を投げ打って作り、街のその手の仕事は公務として行われることになったらしい。
しかも従業員は貧困に喘ぐ人々を対象として手厚い条件で雇用した為、街は清潔になるわ、貧困層が徐々に減ってゆき貧困層が主犯の窃盗なんかの軽犯罪は減るわで皆んな大喜び。
領民からの人気が更に上がったんだと。
なので今まで冒険者ギルドに依頼してたドブ更いや清掃の仕事は全て清掃会社に持っていかれたってわけだ。
冒険者ギルドからしても全く人気がなく消化するのに困っていた仕事だったわけだから喜んで仕事を根こそぎ全部譲ったようだ。
イケメン領主の話を、羨望に瞳を潤ませ頬を薄っすら赤く染めながら話す美人受付嬢のアリーチェを尻目に俺は絶望した。
仕事の選択肢がゴブリン一択になってしまった事に。
誰か(領民)の幸せは誰か(俺)の不幸せってか。
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