女の子はガードがかたい

 さて、めでたく(?)自分の体質が明らかになった私。


 悪役令嬢にして吸血鬼のシルフィラ・ブラドフィリアは女の子の血しか吸えないのでした。


 んー、なんなんだろうね。

 わけがわからん。


 しかし、現状が明確になったので、方針転換はできることになった。


 血を吸う相手選びを男子生徒から女子生徒に変えるのだ。


 え?

 ルーデシアがいるじゃないかって?


 だめだめ。

 確かに彼女は優しいし、血を吸っていいって言ってくれたし、私も吸いたいと思ってるよ?

 けど、彼女は『ロマファン』世界のヒロインで、ジャスティン王子と結ばれるはずの子なのだ。


 ゲームのシナリオとは違う形とはいえ、彼女と関わりすぎることは、悪役令嬢としての私の死亡エンドに結びつく可能性がある。


 なので、ルーデシア以外の女の子で、血を吸う相手を見つけ出さなきゃいけないのだ。


 とはいえ、困ったなぁ。


「はあ~……」


 ある日のお昼、私は食堂の隅の席で、頬杖をつきながらため息を吐く。


 食堂では、たくさんの女子生徒がキャイキャイわいわいおしゃべりをしながら昼食を楽しんでいる。


 女子生徒たちはすでに関係が出来上がって、特定のグループで固まっている。

 私が入る余地はすでにないのだ。


 まあ、入学の当初から、私は入りにくい雰囲気だったんだけどね。


 外見に目が眩んだり、公爵令嬢としての私の地位に興味がある男子生徒はわらわら寄ってきてたけど、女子生徒は基本、吸血鬼の私を怖がっていた。


 私の方から積極的に関わろうとしなかったせいもあるんだろうけど。


 しょうがないでしょ。

 血を吸う相手を探すことの方に夢中だったんだから。


 まさか女の子の方から探さなきゃいけなくなるなんて思わないじゃない。


 今から女子グループの仲間に入り込むのも難しい感じ。


 だいたい食事時というのは、吸血鬼の私にとって人と交流するのに向いてない。


 私、普通のご飯食べないし。

 目の前で血液スープ飲むのも、みんなの食欲なくしそうで悪いしね。


 今だって私の前にあるのはコップに注いだ水だけである。

 血液スープは、放課後に寮の自室で飲む予定。


 前は、お昼もいったん寮に戻ってスープを飲んでたんだけどね。

 最近は女の子と仲良くなる機会を窺うために、こうして食堂に来ている。


 おかげで食事は朝と夜の二食。

 ルーデシアの血をもらったおかげか、あれ以来激しい吸血衝動は起こってないけど、空腹感の強い日々を送っている。


 そんなふうにしているにもかかわらず、いまだに成果はない。

 声ひとつかけれてない。


 まー、前世でもそんなに社交的なほうじゃなかったしね……。

 友達作るの難しいです……。


 なんか虚しくなってきたので、私は水を飲み干すと、コップを片付けて食堂を出ることにした。


 と、その途中で。


「あ……」


 私が横を通ったテーブルの女子が本を持とうとして手を滑らせた。

 本は私の目の前に落ちてくる。


 チャーンス!


 私はなるべくさりげなく本を拾い上げると、女子生徒に差し出した。

 同じクラスの貴族の子だ。

 何度か魔法の実習で一緒になったこともある。


 ポジションが近いし、お近づきになりやすいかも。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます。ブラドフィリア嬢」


 私がにっこり笑みを浮かべて言うと、彼女は引きつった顔でそう言って、恐る恐る本を手に取る。


「あの……」


 ……ご一緒してもいいかしら、と私が言うより早く、彼女は席から立ち上がった。


 一緒にいた女子生徒たちも後に続く。


「用事があるので、し、失礼いたします」


 そう言って、彼女たちはあっという間に食堂を立ち去ってしまった。


 えー……。

 ひどくない?

 吸血鬼も傷つくのよ……?


 おかしいな。

 なにがいけなかったのかな。


 ごく普通に、自然に声をかけられたと思ったんだけど。


 ガックリきている私の耳に、食堂のあちこちから上がる囁き声が耳に入る。


「やっぱり、今度は女子の血を狙ってるってほんとみたいね……」

「朝方、部屋からルーデシアが出てくるのを見た生徒がいるって噂だし……」

「気をつけないと、眷属にされるわ……」


 みんな聞こえてないつもりみたいだけど、吸血鬼は耳がいいので全部丸聞こえです。


 なるほどー……。

 あの日、ルーデシアが私の部屋から出ていくところを見てた生徒がいたのね。

 それで、私が女の子の血を吸おうとしているって噂が広まってると。


 まあ、それ事実なんだけどね!


 それでみんな妙にガードがかたいわけね。

 これは困ったよ?

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